勇者来訪! 其の三(彼方よりきたりて外伝)

「これ以上いらん事を聞きたくないんで」

 サルガス皇太子がそう言ってサロンを出て行った後、ボク達四人は気持ち良さそうに寝ているアルファ様を見下ろした。

「……このまま簀巻きにしてシーガル川に……いやイータカリーナ運河の方が海に出るしそっちの方が……」

「物騒な事を呟くな。しないぞ」

 顎に手を当て、ぶつぶつと呟いているシリウスにリゲル様が注意を飛ばす。


「……とりあえず起こしますね」

 苦笑いしながらアリア様がアルファ様に向かって手をかざすと柔らかな光が広がって――直後、アルファ様の目がカッと開き、勢いよく体を起こした。

「アリア様酷いな! いきなり魔法で眠らせるとかある!?」

「他国の人間がいるのに機密をぺらぺら話すからです!」

 起きると同時に非難してきた相手にアリア様がつられるように大声で反論する。一方、アルファ様は「え?」と不思議そうに首を傾げた。


「皇太子には今回の魔王絡みの件で色々助力をもらってると聞いてたが……シリィやその子の事をちゃんと説明してないのか? 助けてもらってるのに? それで色々手回ししてくれるとか、魔人病の事があるにしても皇太子は随分気前が良いな」

「うっ……」

 至極もっともな正論にアリア様が詰まる。まぁ……それは常々思ってはいたけど。

 何かあると察してはいるはずだが、先程のようにこちらが言わない事に対して必要以上に踏み込んでこない。その上でカイトスの事など色々してもらってる訳だから、正直サルガス皇太子の好意に甘えている部分があるのも間違いはないだろう。


 アリア様が何も言えなくなったのを見て、リゲル様が苦笑いを浮かべて口を開いた。

「そこはサルガス皇太子とやりとりした上での判断だ。流してもらえると助かる」

「……ふぅん。ま、別にオレは良いんだが。あんまり相手の好意に乗っかってばかりだと良くないぞ」

「あぁ、判っている」

 アルファ様に頷きを返してから「それで」と改めて向き直る。


「兄上にエルナトの事を聞いてきたんだよな。……状況の確認という事で良いか?」

「ああ、そうだ。シリィに関しては リゲル王子がいれば大丈夫・・・・・・・・・・・・とこちらで判断が出来ているが、その子はまだ確認が取れていないからな。しかも魔族だろう? 勇者の血族として判断をしなくちゃならん」

「…………」

 言葉の途中、こちらに目を向けてきたアルファ様にボクは僅かに居心地の悪さを覚える。……アルデバランではこれまで通りの生活をさせてもらっているが、本来であれば魔族でもあるし厳格な処置を受けても仕方ない立場だ。勇者の血族であれば尚の事、ボクの状況を把握したいと思うのは当然と言える。


「そんな訳で!」

 ぱん、と手を合わせてアルファ様はぐるりとボクらを見回した。

「悪いがリゲル王子とアリア様は外に出てくれ。あ、改めて話が聞きたいからシリィは残ってなー」

「……エルナトさんと貴方を二人だけにする気はないので、言われなくても残りますけど」

「なら良かった」

 冷ややかなシリウスの表情とは真逆の明るい笑顔を浮かべるアルファ様を見ながら、ボクはこれからどうなるのかと内心不安しかなかった。

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