勇者来訪! 其の二(彼方よりきたりて外伝)
「……いったいな! 誰だいきなり!」
突っ伏したのはほんの少しの時間だけで、青年はすぐにガバっと体を起こして後ろを振り返る。
「相変わらず喧しい人ですね」
冷ややかな表情のまま視線を向けているシリウスに青年は一瞬きょとんとした顔をして。
「何だ、居たのかシリィ。気配が薄くなってて気づかなかったぞ」
「シリ……」
「ぶっ」
思いもよらなかった愛称にボクは目が丸くなり、サルガス皇太子は吹き出してパッと顔をそむけて俯く。……顔を伏せていても、肩で笑っているのがすぐ判ったが。
「……その呼び方止めろって言ったのもう忘れました? 何回言ったら覚えるんです?」
顔を引きつらせるシリウスに対し青年は何故か胸を張ってにやりと笑った。
「覚えてはいるが、お前は可愛げがないからな! 愛称くらいそういう感じにした方が良い」
「人の話を聞かないのも相変わらずですね。ぶっ飛ばしたら治るのかな。試してみます?」
これ以上ないと思っていた冷ややかな温度が更に下がるが、対峙する相手は逆に顔を明るくしてパシッと手を叩く。
「おっ、良いな! 再会がてら久しぶりにやるかー!」
「ああもう何言っても都合良い解釈するなあこの人。面倒臭い」
シリウスがものすごく嫌そうな表情で吐き捨てるように言ったところで、苦笑いを浮かべたリゲル様とアリア様がその隣にやってきた。
「あ、リゲル王子にアリア様。久しぶり!」
二人に対しても口調が軽い。
とはいえ表情を変える事なく、リゲル様は口を開いた。
「久しぶりだな、アルファ。三年ぶりくらいか」
「最後に会ったのがリゲル王子達が学院に入るよりも前だからそのくらいか? やー、オレも成長したけどリゲル王子もシリウスも前と比べて背が伸びたなー。差をつけたと思ってたけどあまり変わってないかもな!」
にこにこ笑顔の青年に少し表情を緩めた後、リゲル様はボクとサルガス皇太子の方へ視線を移す。
「二人とも、紹介する。彼はアルファ=ルナ=オリオン。……勇者の家系の人間だ」
その言葉にサルガス皇太子が僅かに眉を動かした。
「勇者って確か、魔王とやりあったという伝承のやつか。その末裔?」
「そうそう、その末裔。そういう君はシャウラの皇太子サルガスかな。宜しく!」
屈託ない笑顔で皇太子相手でも軽口で話すものだからヒヤヒヤしたが。
「……宜しく」
サルガス皇太子は気にした様子もなく、逆に興味を持ったような顔で返事をした。
それにしても勇者の血族……アルデバランに属してはいるが、各国で対処出来ない魔物討伐などを引き受けている一族だ。
存在は知っていたが基本アルデバランにはいないのでカイトスの時から今日に至るまで会った事はない。
しかし、アルファ様を見てると抱いていた勇者像が頭の中でぼろぼろ崩れていくな……。
ボクがそう思っていた一方、アリア様がどこか困ったような顔で笑いながらアルファ様に声をかける。
「……ところでアルファ様、どうしてわざわざ学院まで来られたのですか?」
「あっ忘れるところだった! そう、それ!」
アリア様の言葉にアルファ様は再びボクをビシっと指差しながら向き直った。
「オレが居ない間にシリィがそこの子に篭絡されたってベテル王に聞いたんでな! 確認しに来た!」
「いい加減にしないと本気でぶち倒しますよ」
「大体だなー」
口元は笑っているが目が据わった状態のシリウスを気にする事なく、アルファ様は言葉を続ける。
「シリィは魔王の力を持ってるという勇者のライバルに相応しいポジションだったのに、その力をその子に譲渡した挙句骨抜きされるとか情けな――」
「
アルファ様の言葉に被せる形でアリア様の声が響き、間をおかずにアルファ様はその場で床に崩れ落ちるように倒れた。
「…………あの、サルガス皇太子…………」
アルファ様の寝息が響く微妙な空気の中、アリア様がちらりとサルガス皇太子に視線を送れば、その先の相手は頭を掻きながら目を逸らす。
「……オレは何も聞いていない。というか……大変だなお前ら」
「…………いえ、まぁ…………はい。有難うございます…………」
苦笑いするサルガス皇太子に対し、疲れたようにアリア様は言葉を返して大きくため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます