勇者来訪! 其の一(彼方よりきたりて外伝)
夏季休暇が終わり、二ヶ月程過ぎた秋も深まる時分の頃。
その日の授業が終わってシリウスやアリア様達とサロンでお茶を飲んでいた時に、ふっとアリア様が視線を上に向けて――「……えっ!?」と声を上げて椅子から立ち上がる。
その場にいた全員の視線を集めつつ、アリア様は唖然とした表情で天井を見上げ。それからバッと勢いよくリゲル様の方へ顔を向けた。
「な、何だ?」
「すみません、ちょっと来てください」
勢いに圧されて戸惑った様子のリゲル様の腕を掴んで立ち上がらせた後、アリア様はそのまま引っ張ってサロンの隅へと移動する。
二人が何か言葉を交わしているのを見ていたが、しばらくしてリゲル様の顔に苦笑いが浮かび。それからボク達の方を見てちょいちょいと手招きをした。
「シリウス、ちょっと来い」
「……?」
主人に呼ばれたシリウスは立ち上がって「はい」と言いながらそちらに向かい、リゲル様が何かを伝え――……。
「…………えー…………」
ものすごく珍しく、ものすごく嫌そうな表情がシリウスの顔に浮かんだ。
「……何の話してるんだろうな」
「何でしょう……?」
中々見ないシリウスの様子を見ながらサルガス皇太子と会話を交わす。
……と、その時。
「たーのもー!!」
大きな声と共にサロンの扉が勢いよく開かれ、その音にボクやサルガス皇太子、離れたところにいた三人も一斉にそちらを見る。
入口に立っていたのは快活そうな黒髪の青年だった。
軽装ではあるが品の良さを感じる服を身にまとい、見た目はボクより少し上のようだがくりっとした目のせいか少し幼そうな印象を受ける。
青年はぐるっとサロン内を見回して──ピタっとボクに視線を止めた。
「いた!」
声を発するや否や彼はすごいスピードでこちらに向かって来て、ボクの目の前で急ブレーキで止まり。突然の事にポカンとしながら青年を見ているボクやサルガス皇太子の前で青年は高らかに声を上げた。
「ベテル王が言っていた子は君だな!? なるほど確かに見た目は無害そうだが騙されんぞ! 本性を現す前にオレが成敗してやふぎゃっ!」
ボクを指差し声高に宣言している途中、青年は突然前のめりになってテーブルに突っ伏す。
……その後ろ、シリウスがこれ以上ないくらい冷ややかな目と笑みを浮かべて突っ伏した青年を見下ろしていた。
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