魔法のアイテム〜その後の話〜

 エイドとミモザは双子の兄妹だ。……ただし、それぞれの世界では、の言葉が先につくが。

 ある事情から別の世界からきたエイドと最初に出会ったのはミモザだが、この世界のエイドは何年も前に病気で亡くなっていたため、彼女はエイドが現れた事に非常に驚いた。その後、両親も交えてエイドの事情を聞き、行く宛がないならここに住んだらどうかと誘いをかけた。部屋に空きはあったし、何より、別の世界の人間とはいえ成長したエイドに会えて嬉しかったのもある。 

 ……それが半年前の事。お互いに一線を引いている部分はあるものの、エイドとミモザは少しずつ慣れてきて良い関係を紡ぎつつあった。


 そんなある日。

 居間の前を通りかかったミモザは食卓の椅子に腰かけているエイドの姿に足を止めた。

 エイドは飾り紐に通して首から下げた小さなスプーンを右手に持ち、どこか懐かしむような柔らかい表情で眺めている。……それは先日、彼が元いた世界にいるミモザから送られてきたアイテムだった。

 その様子にミモザは少しだけ迷いの色を浮かべ──一度深呼吸をしてから居間に足を踏み入れる。

「……よく見てるね、それ」

 微笑んでそう声をかければ、エイドはフッと顔を上げてミモザの方を見る。視線の先の相手は対面の椅子に座る所だった。

「元の世界、懐かしい?」

「……そうだな、少しだけ」

 シャツの中にスプーンを仕舞って姿勢を正し、エイドは柔らかい表情のまま笑う。……あまり自分達には見せないが、エイドが一人の時にスプーンを見て物思いにふけっているのをミモザは知っていた。

 ……本当は元の世界に帰りたいのだろう。彼の事を考えるなら帰るための方法を探す手助けをするべきだ。

 ……ただ、半年を一緒に過ごし。

 この世界のエイドが生きていたらきっとこんな生活だっただろう──……そんな思いがミモザにも両親にもあり、中々その言葉を言えずにいた。


「……ねぇ、エイドさん」

「ん?」

 床に視線を落としながらの呼びかけにエイドが顔を向ける一方、ミモザは俯いたまま口を閉じていたが、ややあって顔を上げる。

「もし……もしね。元の世界に帰る手段が見つかったら……帰りたい?」

「…………」

 その言葉を聞いたエイドの瞳に一瞬期待の色が浮かび──だがすぐにそれを消し、少し目を細めて微笑みを向けた。

「帰りたいとは思うが、こっちに来る原因が解決してるかが判らないからな。そうそう帰る訳には行かないんだ」

「……そ、そうなの……」

「あぁ」

 ミモザの表情がどこかホッとしたようなものになったところで、廊下の方から彼女を呼ぶ声がいた。

 

「ミモザ、悪いけどちょっと手伝っておくれ!」

「あ……はーい! ……ごめん、エイドさん。行ってくるね」

「あぁ、判った」

 自分を呼ぶ母親に返事をして、ミモザは椅子から立ち上がり。エイドの言葉に微笑んでから居間を出て行く。

「…………」

 一人残されたエイドはシャツの上からスプーンに触れて──それから、フッと窓の外に視線を移す。……ゆるゆると日が暮れて、暗くなっていく空は今の自分みたいだ。

 そんな事を考えながら、エイドはしばらく空を眺めていた。

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