魔法のアイテム〜二番目の物語〜

 魔法の国ミリ=アムド。

 この国には様々な属性を持つ人々が住んでおり、それぞれの力を生かして生活していた。

 属性は地水火風の基本四元素と上位属性である光闇雷氷を合わせた計八つであるが──極稀にどの属性も持たない無属性の人間が存在する。

 ……そして、小さな村からやってきたエイドはその無属性の人間であった。


「何者でもなく、何者にもなれる」


 無属性は何も持たない代わりに全てを持つ事が出来るという伝承があり、エイドは王都にやってきてからの七年間、その検証の為に様々な事をやってきた。

 その結果、エイド自身に魔力はないが外から魔力を取り込み、それを行使出来る力がある事が判っていた。取り込む魔力は人・物を選ばずにどんな魔力でも行使が可能だ。

 ……そんな折。エイドは魔法研究所の所長であるアランに呼び出しを受け、研究所へとやって来ていた。


「やぁ、エイド。待っていたよ! 相変わらず陰気な顔をしてるね!」

「……さっさと用件を言ってもらえませんか」

 無駄に明るいアランを冷ややかに見ながら、エイドは吐き捨てるように言葉を返す。

 そんなエイドの様子を全く気にせずにアランは口を開いた。

「今日は君にプレゼントがあるんだよ」

 そう言ってアランは机の引き出しを開け、そこから箱を取り出す。一見するとただの箱だが、エイドはそこから暗い魔力を感じて眉をひそめた。

「あ、気がついちゃった?」

「……何ですか、それ」

「ふふ、これはね……」

 アランがニヤリと笑みを浮かべながら箱を開く。

 そこにあったのは手持ちサイズの黒い杖だった。先端には深い赤色の石がついており、竜の装飾が施されている。

「……先日ある所で見つかった黒竜の杖というんだ。中に竜の血が入ってるらしくて……通常の属性持ちだと反発しちゃって使えないんだ、これ。そこで無属性の君に白羽の矢が当たったって訳」

「…………」

 エイドは何も言わずに杖をじっと見て──それから手を伸ばして杖を取る。


 ……一瞬、体を凍るような魔力がかけぬけた。


 ゾクリとしたが態度には出さず、エイドは杖をぐっと握った。

「どう? 使えそう?」

「……杖に込められている魔力は取り込めそうですが、使い方はまだ何とも」

 思った事を口にすれば、アランはヘラヘラした表情のまま腕組みをしてエイドに顔を向ける。

「うーん、そっかー。まぁすぐ何とかなるなんて僕も国も思ってないから。君の事を調べるのも五年かかっちゃったしね」

「…………」

「とりあえず二週間、それを君に預けるよ。何かあったら教えて」

 何も言わないエイドに対してアランはそう言った後、椅子に腰掛けて書類を読み始める。……こうなると、アランの意識は書類に向けられてエイドが何をしても全く気にしない。

 それを知っているエイドは軽く頭を下げてから部屋を出た。


「あっ! エイド!」

 出口に向かって歩いていたエイドは聞き慣れた声に足を止める。そちらの方を見れば、双子の妹であるミモザがこちらに向かって走ってくるところだった。

「ミモザ。久しぶりだな」

「本当にね! ダンケの森の調査に一緒に行って以来だから半年振りくらい?」

 ミモザのふわふわのくせっ毛が動きに合わせて揺れるのをエイドは少し表情を和らげて見ている。


「今日はどうしたの?」

「よく判らない杖を押し付けられた」

 腰に下げた杖にちらりと視線を向けながら話すエイドに、ミモザもつられるように視線を落とした。

「……あ、それ……黒竜の杖?」

「何だ、知っていたか」

「うん。一度使えないかどうか試したから……そっか、エイドに回されたのね……」

 複雑そうな表情で杖を見ているミモザに対し、エイドは妹の頭をポンポンと叩く。

「心配するな。よく判らないアイテムではあるが大丈夫だよ」

「……でも、エイドにばかりこういうのが回ってくるのは、やっぱり……」

「大丈夫だから。……それよりほら、ターニャが待ちくたびれてるぞ。そろそろ戻ってやれ」

 離れた所からこちらを見ているミモザの相棒──ターニャの方にちらりと視線を投げ、エイドは妹の頭を撫でてからスッと離れる。


「またな、ミモザ」

「……うん、またね。エイド」


 その言葉を聞き、小さく笑って背を向けた兄の姿をしばらく見ていたミモザだったが、息をひとつ吐いてから踵を返してターニャの方へ歩き出す。


 ……その後。

 エイドが居なくなったのをミモザが知ったのは十日後の事だった。

 居なくなる数日前から、エイドの様子がおかしかったと周囲にいた人達から聞かされた。どうして居なくなったのかも、どこに行ったのかも判らない。

 ……半年の間捜索は続いたが、やがてエイドは行方知れずのまま生死不明の判断をされ……ミモザがその後、エイドに会う事は二度となかった。

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