魔法のアイテム〜始まりの物語〜
魔法の国ミリ=アムド。
この国では十歳になった年に儀式を行なうのが通例である。クリスタルオーブと呼ばれるマジックアイテムを使い、その中にある魔石の反応を見て個人の属性を鑑定するのだ。個人に適した魔法を学ぶに当たり、この儀式は非常に重要である。
そして──今年十歳になる双子の兄妹、エイドとミモザはその儀式を明日に控えていた。
「いよいよ明日かぁ。属性なんだろうねー」
ふかふかの枕に顔を半分埋めながらミモザは兄に向かって声をかける。一方、エイドは仰向けで天井を見上げながら口を開いた。
「普通に考えたら風か地だけど……どうせなら上位属性だといいよな。今後を考えたら、さ」
二人の両親が持つ属性は風と地で、その子どもが持つ属性は基本的に遺伝である。
ただし親と全く違う属性を持っている場合もあるので、結局は儀式の結果次第という事になるのだが。
「とりあえず今日はもう寝よう」
「そうね。おやすみなさい、エイド」
「おやすみ」
ミモザの返事を聞いてからエイドはランプの灯を消した。暗い中で布団に潜り込み、天井を見上げる。
「…………」
しばし物思いに耽った後、目を閉じて眠りについた。
──翌日。
教会に両親と一緒にやってきた二人は神父から説明を受けていた。
「このクリスタルオーブの中には様々な属性の魔石が入っています。反応した魔石によって君達が持つ力が目覚め、その魔石を核として魔法が使えるようになるのです」
神父の前に置かれた二つのオーブを見ながら二人は説明を聞いてはいるが気もそぞろだ。
そわそわしている二人に少しだけ微笑みつつ、神父は話を続ける。
「基本は四元素の地水火風のいずれかですが、稀に上位属性と呼ばれる光・闇・雷・氷に反応する場合もあります。特に光・闇属性は貴重で……上位属性が現れた場合は王都にて研鑽を積む事になるでしょう」
「ねぇねぇ神父様! この村から王都に行った人っているの⁉」
「こら、ミモザ」
我慢出来ずに口を開いたミモザに対して母親が諫めるように声をかけるが、神父は「良いですよ」と言って笑う。
「私の知り合いではいませんが、百年くらい前に一人だけいたそうですよ。闇の属性を持ち、王都に迎えられたそうです」
「闇の属性ってあまり良いイメージがないんですけど、それでも歓迎されるんですか?」
妹が質問した事で、エイドも質問を口にする。
両親が苦笑いするなか、神父は微笑みながら首を横に降った。
「闇の属性は暗い印象があるかもしれませんが、呪いや毒などに耐性があり解呪魔法にも精通出来る資質があるので、重要な属性でもあるのですよ。……君達がそういった重要な属性を持っているかどうか、早速確認してみましょうか」
にっこり笑いながら流れを軌道修正する神父に両親が感心する一方、二人はそれぞれオーブの前に立つ。
「オーブに両手で触れて、目を閉じて意識を集中させて下さい。……暗闇の中で光るひとつの光、それが君の属性になります」
「…………」
緊張の中に期待と不安が入り混じった表情を浮かべながら、エイドはオーブに手を触れて目を閉じる。
……暗闇だけが広がる中、ぼやっとした光が浮かんだ。
何色でもない……真っ白な光。
「……えっ⁉」
動揺したような神父の声にエイドは驚いて目を開ける。
目の前にあるオーブの中、白い魔石が輝いているのを神父が驚愕の表情で見ていた。
「……無属性……」
「え?」
初めて聞く言葉にエイドが首を傾げる。
ふっと後ろを振り返れば、両親も信じられない、という様子でエイドを見ていた。
「……お母さんたちも神父様もどうしたの?」
横から聞こえた声にそちらへ意識が移る。
不思議そうにエイド達を見ているミモザの前、オーブの中では金色の魔石が輝いていた。
「こっちは雷……」
唖然とした表情のまま神父が言葉をこぼす。
「……あの、無属性って……?」
「……あ」
エイドの呼びかけに神父はようやく我に返り──そのままエイドの肩をガッと掴んだ。
「いいですか、エイド。無属性っていうのは……その名の通り属性を持ちません」
「え?」
「属性を持たない人間が稀にいるのは知っていたが、まさかこんな……いやでも、そうなると……」
ブツブツと呟いている神父の姿にエイドとミモザは顔を見合わせる。
「……あの、神父様」
声のした方を見れば、両親が不安そうな表情でこちらを見ていた。
「この場合、エイドは……」
「……無属性の方は例外なく王都行きになります。どういった待遇になるかは判りませんが……」
「…………」
厳しい表情で会話を交わしている大人達の様子に、エイドとミモザは顔を見合わせる。
本来なら上位属性持ちが判明したミモザに対して喜ぶはずだが、それ以上にエイドの結果を気にしているようだ。
……無属性とはなんなのだろう。
胸に浮かんだ不安にエイドはキュッと服を掴む。
……これはとある村に生まれた、とある双子の初まりの物語。
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