海岸

 うっすらと白んできた空の下、防波堤を乗り越えて砂浜に足を降ろした。その場でサンダルを脱いで裸足になって若干熱を帯びた砂の上を歩けば、その後ろには私の足跡が規則的な間隔でついていく。


 夜の闇から朝焼けに変わる僅かで短い時間。少しずつ表情を変えていく空に合わせ、深い藍色からゆっくりと変わっていく海の色。

 

 波打ち際、寄せては返す波が素足を撫で、離れるのを繰り返す。

 聞こえるのは波の音だけ。

 静かなこの世界に私はひとり。

 目の前に大きく広がる空と海をぼんやり眺めながら、私は波の音に聴き入った。


 静かな空と静かな海が目の前で大きく広がり、ちっぽけな私を包んでいる。優しいような、無慈悲なような、何ともいえない感覚で。


 段々と海の向こうが赤く色付き、夜明けが近い事を知らせてくる。防波堤の向こうからはジョギングか犬の散歩かをしているであろう人が動く気配がする。


 静かな、たったひとりの世界の時間の終わり。

 私は海に背を向け歩き出す。

 

  ……そうして防波堤の上、振り返ってもう一度海を見る。 

 日はすでに姿を見せており、水面はその光を受けてきらめいている。その光を受けて淡い橙色に染められた白い砂浜には私が残した足跡。それも風に吹かれて少しずつその跡を消していく。

 ……そこにあったものはいずれ見えなくなってしまうけど、覚えているひとがいる限りは決してなくならない。

 

 何も言わず、ただそこに広がる空と海を眺めてから。

 私は再び海に背を向け、ひとのいる世界へ歩いて行った。

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