わけあいっこ

「はい、これあげる」

「……有難う」

 さらりとした言葉と同時に差し出された、二個入りアイスの片方を私はお礼を言って受け取る。

 

 同じクラスの彼は食べるのが好きで色々な美味しい物を知っている。…………以前、見た事のないパッケージのパンを彼が持っていて、それがまた私の好きなチーズ系のパンだったため、気になって声をかけた。

 ただそれは通販限定品、すでに販売終了したものだった。残念に思っていたら彼がパンを半分に割って分けてくれて。……その時、私はよほど美味しそうに食べていたらしく。それからというもの、限定品やお菓子を私の分まで持ってきて分けてくれるようになった。

 流石に申し訳ないので最初は断っていたが「美味しそうに食べる人と食べる方がより美味しいから」と言われて断れなくなり……結果、金曜日の放課後に空き教室で待ち合わせをして、雑談をしながらお菓子を食べて、それから帰るという習慣が出来上がっていた。

 

「今日は暑いからアイスが良いかと思って、さっき買ったんだ」

 そう言いながら彼はフタを切り取り、コーヒ味のスムージーアイスを食べ始める。私もそれに倣ってフタを取ってから口をつけた。……口の中に入ったアイスはひんやりと冷たく、舌の上で柔らかくなって溶ける。

 じわりと感じる冷たさに涼を感じなから味わっていると、先に食べ終わった彼は目尻を少し下げ、少し楽しそうな顔でこちらを見ていた。……落ち着かない。

 私は早々にアイスを食べてから口をティッシュで拭き、まとめてゴミ箱に入れて彼に顔を向ける。

 

「美味しかった。ごちそうさまでした」

「ん、ごちそうさま」

 食べ終わった後のいつものやりとり。それから他愛もない雑談をしてから解散するのだけど。

 今回は彼にどうしても言いたい事があったので私から口を開いた。

 

「……ね、前から言おうと思ってたんだけど」

「うん? 何?」

 首を傾げながら聞き返してくる彼に対し、私はひとつ息をついてから言葉を続ける。

「毎回もらってばかりじゃ申し訳ないから、今度は私のおすすめを持ってきたいんだけど……駄目かな」

「………………」

 その言葉に彼はきょとんとした顔をして──それからすぐに安心したように笑った。

「僕が好きでやってる事だから気にする必要はないけど、君のおすすめは気になるから提案に乗っかろうかな」

 ふわりと笑う彼に私はホッと息をつく。

 

「……でも、ちょっと内心ドキドキしちゃったなぁ。真剣な顔してたから『もう止めよう』とか言われるのかと思っちゃった」

 机の上を片付けながら発せられた、若干苦笑いを含んだ彼の声に今度は私がきょとんとする。

「……君が止めるなら私は別に構わないけど」

「いや、止めないよ。……だから、もうしばらくは付き合ってね」

 私の言葉に対し、彼は首を横に振って否定してから柔らかい笑みを浮かべた。


 ……これは、ふとした事からつながった彼と私の物語のほんの一部。分け合いから始まった、何てことない日常のひと幕の話だ。

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