携帯電話
「今の携帯は随分と薄くて小さくなったもんだなぁ」
「え?」
休みを利用して祖父の家に遊びに来ていたヨシキは感心したような声に顔を上げ、スマートフォンから祖父の方へ視線を移す。
そこにいた祖父は目を細め、どこか懐かしそうな表情で笑っていた。
「……昔の携帯って、ガラケー? あれって逆に今より小さくなかったっけ」
子どもの頃に見た携帯を思い出しながら疑問を口にすれば、祖父は首を横に振る。
「いや、それよりもっと前。出始めはこう、肩掛けのバッグみたいなどでかいやつでなぁ……随分と重くて大変なやつだわ」
「……バッグ……?」
祖父の言葉にいまいちピンと来ず、ヨシキは再びスマートフォンに視線を落として検索サイトを開いて「携帯電話 初期」の文字を入れて検索すると……なるほど、バカでかいボックス型の携帯電話が検索結果で出てきた。
「へー、携帯って昔はこんなだったんだ……うわ、連続通話最大四十分!? 短か!」
出てきた情報に目を通していたヨシキがギョッとして声を上げる。それを祖父は楽しそうな表情で眺めている。
「昔はなぁ、それだけじゃなくて車に付ける電話もあったんだよ。ただ、使用料とか高額でねぇ……そのうちにガラケーやPHSが発売されて、一気になくなったんだ。それでも当時は画期的で、持っていると羨望の眼差しで見られたものだよ」
「へえー」
祖父の説明を聞きながら一通り情報を読み終わったヨシキはようやく顔を上げた。
「これ、じいちゃんも持ってたの?」
目を輝かせながら期待の眼差しを向けてくる孫に対し、祖父は申し訳なさそうに眉を少しだけ下げる。
「いや、じいちゃんは持ってなかったなぁ。勤め先の社長さんが持っていてね。触った事はあるけども、な」
「なぁんだ、そっか」
ヨシキがもらした少し残念そうな声を聞いた祖父は「ごめんなぁ」と言って笑いながらも言葉を続けた。
「わしからするとほんの昔の事だけれど、その間に随分と技術の発展があるものだと思ってなぁ。……今は携帯電話だけじゃなく、何もかも小型化して便利な機能がたくさん付いているからなぁ。年寄りはついていけんわ」
その言葉にヨシキは「あー」と納得するような声をもらした。
「機能たくさんで判らないは判るなー。俺でもついていけてないもん。正直、ちゃんと使えてる機能は半分もないんじゃないかな」
「何だ、ヨシキもついていけてないのか。じゃあわしが使える訳ないなぁ」
からからと笑う祖父に対し、ヨシキもけらけらと笑う。
「案外勉強したらじいちゃんは俺より使いこなすかもよ? 色んな事を知ってるし」
「ないない。長く生きてるから知識があるだけだわ」
首を横に振った後、祖父は膝に手を当てながら立ち上がる。
「そろそろ晩飯の用意せんとな。今日は何が良いかねぇ」
「最近暑いし、そうめんにしようよ。昨日買ったなすとしいたけを天ぷらにしてさぁ」
「天ぷらなぁ……最近、揚げ物を食べると胃もたれが……ヨシキの分だけ用意しよう」
「大根おろしをつゆにたっぷり入れると胃もたれしにくいらしいけど」
「残念、大根がないわ」
ヨシキも立ち上がり、居間を出ていく祖父の横を歩いてついて行く。
ぱたん、と襖が閉じられた居間は静かになり、ゆるゆると落ちていく陽に合わせて暗くなっていった。
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