第11話 契約書

朝8時

「おはようございます」

千影の部屋に訪れた京乃は嬉しそうに微笑んでいた。

昨晩あまり喜んでいない様子の彼女の元そっくりに作った部屋から新しい部屋を提案したが「ここでいい」と言われて内心嬉しかった。

小物はないが気に入ってもらえるように一寸の間違いがないように作った千影の部屋だったからだ。


「おはよう」

いつもと変わらず冷たい表情で挨拶を返す彼女を見て感情が心から溢れ出しそうになった。

自分が用意した淡い色の着物を着てくれている彼女が愛くるしくてたまらない。

「誓約書を持ってきました」

京乃は机の前に座り1枚の紙を差し出した。

千影は紙を受け取り直ぐに読み始めた。


一.交際は婚約を結ぶこととする

二.三ヶ月の交際期間後婚姻をし夫婦になるとする

三.契約を厳守とする

上記載の内容を了承後下記参照

一.十鬼朱家から出ることを禁ずる但し例外を除く

二.十鬼朱家当主の命令は全て受け入れるとする

三.十鬼朱家当主は婚約または婚姻後期間中継続的に支援する


契約を反故した場合拾億円の支払いを命じる


内容を読んだ千影は慣れた手つきでサインを書き紙を返却した。

彼が書類を受け取るのを見て

彼の正面に正座して深く頭を下げた。

「どうぞ宜しくお願い致します」


何が宜しくだろうか…

きっと義兄のことが心配で、自分自身のことなんて小指の爪の先も考えていないようだ。

十鬼朱家から出られないと書いてあったはずだ

戌夜と二度と会えなくなるかもしれないと分かっているのだろうか。

宜しくお願い致しますだって?…

昔出会った程度の素性も分からない男に出された千影に不利すぎる条件を簡単に了承してサインをする…他人の為なら自分を犠牲にしても構わないってことだろう。

泣いて縋り付いて軽蔑すれば書類の内容を変えてあげたのに…

上辺だけの偽善者のはずない

馬鹿でもないなら…

「こちらこそ宜しくお願いします…千影さん」

京乃は微笑み頭を撫でると彼女は下げていた顔を上げた。

「一つお願いがある…」


ほら、言わんこっちゃねぇ。

やっぱり辞めるって言い出すのか?

「言ってみて下さい」

「十鬼朱家なら敷地内の外も出ていいのか?」

千影の表情は変わることがないが何かしたい様子だった。

彼女は元々唐紅家で生まれ育ち敷地内であっても外へ出たことがないからこそ許可をしてあげたかった。

彼は考える素振りをした。

「僕がいるときなら良いですよ」

なぜ外に行きたいのか、逃げる気なのか理由が気になったが聞くことはせずに微笑んだ。

まだ正座し続けている千影へコートを掛けてフワッと横抱きすると部屋から出た。





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