第12話 冬に咲く花

千影へコートを掛けてフワッと横抱きすると部屋から出た。

大きな屋敷と分かるほど長い廊下を歩いているが、使用人は一人も見当たらない。

千影はそんな疑問は内に秘めたまま、彼の首に回す手にギュッと力を入れ、じーっと京乃の顔を見上げた。

「自分で歩けるから降ろせ」

その言葉を聞いて優しく微笑むとおでこに人差し指を付けた。

「生憎今は千影さんの靴がないんです…自分で歩くのはまた今度にしましょう」



ーーー



「花が咲いてる…」

屋敷から出てすぐの場所に庭園があった

冬なのにも関わらず沢山の花が咲いている。

鼻が赤くなるほどの寒さを感じるのに頑張って咲いている花々に目を奪われた。

「…寒くありませんか?」

「寒くはない、それよりかがんでくれないか」

京乃は言われた通り屈むと彼女は花に手を伸ばした。

触ることはせず小さく穏やかな笑みを浮かべたことに彼は驚いた。

今まで笑顔どころか微笑むところでさえ見たことがなかった。

こんな些細なことで笑うことが出来るのかと思うと同時に湧き上がる嫉妬。

「そろそろ戻りましょう…」

もう少しだけいたいと思った千影は立ち上がる京乃の表情を見て口を摘むんだ。


怒ってる

「分かった…外までつき合わせてしまったな」


愛おしくて愛おしくてたまらないのに

どうしてこんなにイラつく…

「…着きましたよ」


体を京乃に預けていた千影はいつの間にか部屋に戻ってきたのが分かった。

ベッドへ優しく降ろされるとフカフカの感触に安心感を覚えた。

「…この部屋君が用意したのか?」

千影は立ち上がり、コートを脱いでハンガーラックに掛け、着ていた着物を手際よく直し、

テーブルを触りソファーを触った。

「気に入らなければ新しくしますが…」

「いや…馴染のある部屋は過ごしやすい」

彼女の言葉に京乃は目を見開いた。

初めてこの部屋で目を覚ました時は気味が悪いと言っていたから。

「嫌じゃ…ないんですか?…」

京乃の表情を見た千影の口角が上がった。

そんな単純な言葉でさえ嬉しくて…

愛おしくて…愛おしくて…たまらないほどに

「婚約者が用意してくれた物は嬉しいものだろ」

その時

千影の目の前が真っ暗になった。

驚いていると思考が追いつかない間に京乃の香りが鼻に通り、温かい体温を感じて抱きしめられてることを知った。

「苦しッ…もっと加減してくれ」

千影が全てを言い終わる前に抱き上げてベッドへ寝かせ、彼女を跨いで膝立ちした。

「な…え?」

彼女が驚いている間に両手首を掴み上げ唇を奪った。

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