第10話 赤い束縛

「…どうして私なんだ」

ため息に言葉を混ぜて話す千影の口を糸で縫い合わせたくなった。

銀色の美しく輝く長い髪で体を結び…

小さくて潤う唇を赤い糸で縫い…

赤い瞳は視野を閉ざし…

二度と誰の目にもつかないように…永遠に閉じ込めたい。

嫌われても構わない…でも彼女の全てが好きだった。

存在も、髪の一本でさえ、唾液を飲み込む音でさえ無駄にしたくない。


「…考える時間が必要ですよね?また後日…」

言いかけた言葉に割り込んだ「待ってくれ」と。

千影は震える手で京乃の服の裾を掴んだ。

「義兄様は…?」それを聞いた京乃は乾笑いをした。


告白された相手に返事をせずに違う男の名前を出して聞いてくるなんて…なんて酷い人なんだろう。

「…怪我が酷くて今は集中治療室で治療を受けています」

彼の言葉を聞いて千影は安堵の表情を浮かべたが、

京乃は千影が掴む手を優しく振り払い立ち上がり彼女を見下ろした。

「でも僕は…僕と家族ではなければ婚約した恋人でもない他人の義兄妹の世話をする気はありません」

その言葉に安堵の表情をしていた彼女が変わったのを見逃さなかった。

「唐紅家は火事で滅んだんですよ?一銭も残ってません」

千影はその場にペチャンと音を立てて腰が抜けたように座った。

彼の存在が、背丈が急に大きくなった気がした。

「…君は私と取引したいのか?」

千影は京乃を見上げて首を小さく傾げた。


京乃は立場柄分かることがある

悪意や嫉妬や殺意…彼女からそれを感じないのは自分の立場を理解しているからだろうと思った。

「…病院に連れて行ってくれた恩は必ず返す」

彼の豹変した態度を感じ取っても驚くことはせず

部屋から出ていこうとドアノブに手をかけるといつの間にか近寄っていた彼は耳元で囁いた。

「外に出たことがない貴方は体を売るしかありませんよ…騙されるかもしれない…レイプされるかも…外で暮らすのは貴方が思うより簡単ではありません…それでもいいってことですよね?」

彼の言葉に彼女の手が止まった。

彼女が耳を押さえながら振り返ると白い肌は耳まで真っ赤に染まっていた。

「…交際する」

その瞬間

京乃は彼女へ近寄り抱き上げた。

横抱きをしながら頬に優しく2回のキスをした。

「僕とお付き合いしたいんですか?いいですよ…大切にします」


この時はシナリオ通りに進んだはずだった


2ヶ月間の時を進み

こんなに胸が苦しくなるだなんて知らなかった。

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