第8話 真冬の風と鬼



組員数十名で千影を探し続けたが、

日はとっくに落ちて深夜になっても彼女が見つからないことに焦っていた。

唐紅家から出たことがない彼女は外の世界への耐性も体力も全くと言っていいほど無く

人と関わることも無かったことを知っていた。

知っていたと言う表現は間違っていました…


「俺から逃げたわけじゃないことは知ってる…」

怒り狂いそうなほどに脆くなった理性を抑え込みながら街中を探し続けた。


雪が降り始め、寒さを感じさせるように呼吸をするたび白い息が見えた。

その冷たい空気を感じると

真冬の冷たい風に乗って甘い匂いが鼻をついた。

「千影の…」

ハッした京乃は匂いがした裏路地へ入っていった。

暗い場所が嫌いな千影が裏路地へ入るとは思わず探索範囲外ではあった。

奥へと進むとそこには壁に背を着けて項垂れている千影。


まるで死んでいるかのようにー


「ち…千影…」

薄着のまま脱走していて、まるで体温が感じられなくなるほどまで体が冷たくなった彼女を抱き上げた。

彼女に積もった雪を振り払い、彼女の冷たくなった頬を優しく触りながら

胸元へ耳を当てると


心臓は動いていた。


真冬に病服のまま外へ出てしまうほど彼女は馬鹿で愚かではないと思っていた。

「退院してから行く」と選択肢が元々ないような突発的な行動を感じると彼は焦りを隠せなかった。

千影は事件の全貌

すべてを知っているのではないのかと


「は、…は、…は、…は、」

京乃の荒くなった息は吐息のように甘く響き、

次第に更に速度を増して心の奥底から「千影を縛りつけろ」「千影を〇ませろ」と本能が語りかけている。

「大丈夫…千影は生きてる」と何度も何度も繰り返し本能を打ち消そうとした。


無意識にも口角が上がり

満たされない欲求で彼の脳内は黒へ塗りつぶされた。

「限界か…」

着ていたコートを千影に巻いて裏路地から来た道を歩いて行った。



ーーー



見慣れた天井と覚えのある風景

自分の匂いに溢れた部屋は心底安心した。

「そうか、あれは最悪な悪夢だったんだ」と…

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