第6話 妖艶な悪魔


コンコンッー


病室の扉から2回ノックされる音が聞こえると、千影が目を覚ました時にいた見知らぬメガネの男性が入ってきた。

「失礼致します…千影様、わたくし木々島と申します。くみッ…んん、ごほんッ十鬼朱様の付き人でございます。」

千影の前では必ず苗字で呼ぶように京乃に言われていた。

口を滑らしそうになった木々島はドキドキしながらチラッと京乃の機嫌を確認したが胸を撫で下ろした。

「唐紅 千影だ…」

ぶっきらぼうにでも挨拶を返してくれた千影へ深く頭を下げるとドア近くで待機の姿勢をした。


ドアが開き

無精髭を生やした男性が入ってきた。

その男は白衣を着て聴診器を首にかけていることでやっと医者だと分かるほどの姿だった。

「起きたって?顔色は悪くなさそうだねぇ体調は?」

医者は落ちていた酸素チューブを拾いながら目線を合わせずに伺ったが

千影は眉間にシワを寄せていた。

「…大丈夫だ…君が来る前はな」

何かを感じ取った千影は鼻をつまんだ。

それは異様な臭いであり、本能をスープで表すのならレンジで温めて外側から刺激されるような初めての感覚だった。

「やっぱ分かる?神獣憑きは同じ獣の狐のニオイはダメみたいだねぇ」

医者はクックッと意地悪そうに笑いかけた。

それまでベッドに座り黙っていた京乃が立ち上がって笑いかけた。

「孤宮 先生…お時間宜しいでしょうか?」

「んー、まぁいいよ」


病室から2人が出て行った後

千影はベッドから体を起こした。


「私はいつ家に帰れるんだ」

その一言で木々島は冷や汗を流した。


「もしかして京乃に会話をするなって言われてるのかな?」

意地悪そうに微笑む彼女が悪魔のように美しくみえて…彼は喉まで言葉が出かかり

その真実を確かめたくなった。

「千影様は…何があったか覚えていますか…?」


「…何かあったのか?」


見張りの任務を忘れて走り出した。

「組長に早く伝えなければ!」

病室には外から鍵をかけていた。

だから大丈夫だと、病み上がりだからと、逃げられるはずはないと思っていたのが間違いだったー



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