第2話

 クイシ(生きる) ――――――。


 なんと裏腹で、呪わしい名であろうか!!


 クイシは、生まれた時から何度も殺されかけた。

 本当に、今まで生きていたのが不思議なくらい……。


 皆が言う……。

 昔からの古い言い伝えで、白い人間を食べると、どんな病もたちどころに癒えるのだそうだ。


 クイシの肌は、とんでもなく真っ白で、生きながらにして骸骨なんじゃないか? と思うほどだった。


 それにこの真っ白な髪。

 村の年寄りですらここまで白くない。


 目だって黒くない。


 青い。こんなに! 

 不気味で気持ちの悪い目があるもんか!!!


 あぁ!!


 オレはどうしてこんなにも醜いのか!!!


 こんなオレをお母ぁが愛して、死んでしまった!!


 叔母も……!!


 あぁ……。あぁ……。あぁ!!!


 オレは死ぬべきだというのか!?


 どうしてだ!!!???


 悲しい。悔しい。どうして!?


 オレは…………ただ生きたい。


 どうしてオレは……、黒くなかったのか!!!!!!


 クイシは、それまでがむしゃらに逃げてきた足を止めた。


 もう辛い。


 そして、死に物狂いで追いかけてきた筋肉隆々の戦士に向かって、嗤った。


「オレの肉を食ったって……病など癒えるものか。」


 戦士はイラッと顔を歪ませ槍を振りかぶる。

 オレは呪の言葉を吐いた。


「一瞬の希望をいだいて、絶望の中死んでゆくのだ。」


 その時――――――。


 どかっと衝突する音が聞こえて、戦士は傾きぱったり倒れた。


 その先には、全身黒の縞模様の綺麗な少女が、じっとこちらを見つめ立っている。


 なんだか現実味がない。


 人間なのか?


 イヤ、コレが森の精霊なのか――――――。

 オレを哀れんで助けたのか?


 すると、


「なんて白いんだ!! お前は人間なのか!?」


 と、小さな子どもが興奮したように、興味津々に迫ってきた。


「あ、あぁ。……って! オレは人間だっ!!

 は肌が、し白いからって!! オレは“万能薬”なんかじゃない!!!」


 クイシはボロボロと泣いて叫んだ。

 最初こそ、無邪気に尋ねられ、間抜けにも答えてしまったが、 “人間なのか!?” なんて聞かれ方して、“お前は人間じゃない”と言われた心地がした。


「? 人間なら薬であるはずがない。」


 少女は当然のように言った。

 この娘、言い伝えを知らないのか?


「そんなことより、この森はヒョウも出るから丸腰じゃ死ぬぞ?」


「そんなこと言われても……何も持ってない。」


 クイシは服の裾をぎゅっと握った。

 情けないかな涙しか出てこない。


「モトト·ワ·クリア(泣き虫)! そのまま左に泉まで突き当たれ! ミレレの縄張りだ。そこならヒョウも来ない。」


「なんでオレを助ける?」


「ミレレはなんでか人間が好きで、意味なく殺したがらないからだ。」


 クイシの足はすくんだ。

 だって、どうしてオレを生かしてくれるのだ?

 やっぱりオレを殺して食うのか?


 思えば、この少女は、不意打ちとはいえ、あの屈強な戦士を一撃で気絶させた。

 強い。オレではひとたまりもない。


 ヒョウなんかよりよ、ほどおっかないではないか!!


 怯えるクイシを見て、少女はため息つき、ポイッと手にしていた槍を彼に放り投げた。


「モトト·ワ·クリアで、おまけにダダ(泣き虫)ときた。死にたくなかったら泉まで歩け!」


 少女は猿のように木を登り、枝を伝いながらあっという間に姿を消した。


 足元に転がる槍を持ち、クイシは後ろに転がる戦士の呻きに怯え、タッと走り出した。


 日は陰り夜が近くなってきてる。


 そして、ぽっかりと丸く空が見える泉までたどり着いた。


「おやぁ? 白い人間を生きたまま見るのは、ワシも初めてじゃ……。」


 老人らしきしわがれた声がした。


 そこには、真っ白でそれは大きなゴリラが1頭泉のほとりに座っていた。


 聞いたことがある。

 森の奥には、言葉を話せる人喰いゴリラがいると――――――――!


 あぁ……。

 やっぱりオレはっ――――――!!

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ハクナジナの勇者 泉 和佳 @wtm0806

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