第8話

そんなミソジニスト力士と、ミサンドリスト女子レスラーの試合は陰惨極まるものだった。


互いを日本語や英語で罵り合い、投げ飛ばし合い、殴り合い、蹴り合い…。


嫁殴よめなぐりがドロシーの顔面に張り手を食らわせ、怯ませてからチョークスリーパーを試みるも回避され、ドロシーが執拗に蹴りで嫁殴よめなぐりの股間を狙うが、ファウルカップを装着している嫁殴よめなぐりには全く通用しなかった。


業を煮やしたドロシーは、ヘッドバットを食らわせようと接近してきた嫁殴よめなぐりの顔に口から赤い毒霧を噴射する。

毒霧と言っても概ね食紅とかタバスコを薄めた水溶液なのだが、それでも不意を突かれた嫁殴よめなぐりには効果絶大だったようで、目にまともに食らい倒れ込んで悶絶する。

間髪入れずに嫁殴よめなぐりに蹴りやストンピングを入れるドロシー。ちなみに彼女が履いているブーツには安全靴よろしく爪先に鉄芯が仕込まれてるらしく、ダメージも相当デカいだろう…。


嫁殴よめなぐり…ここまでか?

だが、彼の内在するミソジニーに裏打ちされた底力はこんなものでは無かった。


蹴りを食らわせているドロシーの脚に飛び掛かり、そのまま押し倒すと「女ァー!」と雄たけびを上げドロシーの左腕を肩から掴んで引きちぎった。


そして引きちぎった左腕でドロシーを殴打し、露出し折れた骨の先端で倒れた彼女の身体をレフェリーストップ(一応説明しておくと、この試合には行司ではなくレフェリーがいるのだ…お飾りみたいなモンだが)が入るまで何回も突き刺し、それをリングマットに叩きつけ再び雄叫びを上げた。

場内は阿鼻叫喚に包まれた。


ドロシーは出血多量で絶命。

決まり手は『刺殺』。

文句無しの嫁殴よめなぐりの勝ちだ。


控室に戻った嫁殴よめなぐりは試合前の穏やかな表情に戻り、「魔鬼雨まきう関、これで別居中の嫁も私に惚れ直す事でしょう…それでは」と言ってシャワーを浴び、早々に去って行った。


俺は嫁殴よめなぐりの嫁の身を案じつつ、それでもNDWFのイカれたレスラー達と渡り合えている事に喜びを感じていた。


---


第3試合は稚児犯ちごおかしと『チャイルドマレスター・ジョニー』の試合だ。


ジョニーは、度重なる女児へのわいせつ行為で懲役300年に問われていたが、NDWFで生涯飼い殺す事を条件に釈放されたそうだ。

どうやらNDWFは司法判断にも介入出来るらしい。

アメリカって国は一体どうなってるんだ?


とはいえ、元小児性犯罪者チャイルド・マレスター稚児犯ちごおかしにはうってつけの相手だろう…。


稚児犯ちごおかしはロザリオを首から下げ、カウンセリングでつちかったであろう『多様性』を表す虹色のふんどしを締めてるのに対し、ジョニーは今まで凌辱した女児の似顔絵をタトゥーとして全身に刻むなど格好こそ奇抜なものの正直、こいつらが一番地味な(表の角界基準では無難な)取り組みになるだろうと思っていたのだが…。

なんと、互角の戦いを繰り広げている。

どちらも意外と強いじゃないか。


稚児犯ちごおかしの突き出しとジョニーのパンチが交錯し、ジョニーが稚児犯ちごおかしの後ろに回り込んでブレーンバスターを試みるが稚児犯ちごおかしの踏ん張りで失敗し、張り手を食らう…。


そんな『相撲とプロレスがガチでやり合ったらどうなるか?』を体現している取り組みが続き、互いの一挙手一投足に観客も沸き立つ…。


嫁殴よめなぐり×ドロシー戦とは好対照な、格闘技ファンにとっては幸福な一時が続いた。

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