第5話

ある日の稽古の後、親方に呼び出された。

何事かと思って行ってみると、そこには闇相撲協会の幹部らしき人が何人かいた。

そして…親方は俺の方を向いて神妙な顔付きで手招きした。


どうやら俺に話があるらしい。


一体なんだろうか? 俺が首を傾げていると、幹部の一人が説明を始めた。


「実はな…大嶽丸だいごくまる関と土蜘蛛つちぐも関が何者かに襲われてな。幸い一命は取り留めたが、NDWFとの合同試合に出せる選抜力士を新たに育成しなきゃならん…。本来なら武偽畏曼ぶぎいまんに任せたかったのだが…魔鬼雨まきう、同期入門かつ武偽畏曼ぶぎいまんを負かしたお前に任せたいのだ。勿論、昇進も約束しよう。どうかね?」


な…なんていう僥倖ぎょうこう……!

まさか……俺が早々と関取になる日が来るとは……!! 断る理由などない。


当然引き受けた。


---


さて、力士をどう集めるか?

手っ取り早いのは表の角界に何らかの理由で居られなくなった奴を探す事だ。だが、いくらなんでもそんな都合の良い人材はいないだろうと思っていたその時、一人の男を見つけた。


麻吸あさすい』。

かつては十両まで進んだもの大麻の不法所持が原因で逮捕。

証拠不十分で不起訴になったものの、対面を極度に気にする表の角界から先日、除名処分を受けたのだ。


早速俺は彼とコンタクトを取り、ウチの部屋の会議室に来てもらい事情を話した。


「…闇相撲は大麻はご法度かな?」

麻吸はそう切り出すと、ごく当たり前の様に大麻のジョイント(巻きたばこ)を取り出すとライターで先端に火を付け、紫煙を吸い込み、吐き出す。

大麻独得の匂いが会議室に漂う。


(会議室、最近全面禁煙になったばっかだけどな…まあ、後で消臭スプレーでもかけときゃいいだろ)


ちなみに闇相撲は取り組みに支障をきたさない限り飲酒喫煙は元より、ありとあらゆる薬物を摂取してもお咎め無しだったりする。

過去には、ヘロインとフェンタニルを常用しながら横綱にまで上り詰めた『凍結七面鳥こおるどたあきい』関が、特異な立ち合いや決まり手で闇相撲を盛り上げたとも聞いている。

ただ、横綱昇進から数日後に心停止で亡くなったようだが。

…まあ、それに比べたら大麻なんて晩酌みたいなモンだ。


「取り組みに支障をきたさなければ、何でも吸ってくれて構わないぜ」

俺は、にこやかに麻吸あさすいに返答する。


「いいね、闇相撲選抜チームに参加しよう。よろしく」

麻吸あさすいも、にこやかに返事を返し俺と握手した。


それから似た事情の奴を探し、話をして面子を揃えた。


具体的には以下の通り。

・『嫁殴よめなぐり』…重篤なミソジニスト力士。元嫁に対するDVで逮捕され、接見禁止命令が言い渡されている。男女共にファンが多いが、女性ファンは必ず半殺しにする。


・『稚児犯ちごおかし』…表の角界では小学生未満の児童にしか性的興奮を覚えない変態として有名だったが、闇相撲に転向しカウンセリングを受けることでそれを克服する代わりに、他責による暴力衝動と殺意を会得し好成績を納めている。

得意な決まり手は『ストンピング』。


・『鉄砲玉てっぽうだま』…元ヤクザの力士。四股名しこなの通りヤクザの鉄砲玉として使い捨てられた所を闇相撲振興会に拾われ顔を整形して力士に転向。俺にトカレフの魅力を教えてくれた先達でもある。


数日後、射威忍狗しゃいにんぐ親方は俺たち全員を集め、檄を飛ばした。


「これで役者は揃った。あとは君等が勝つだけだ。期待してるぞ!」

俺達は強く首肯した。


それから稽古の日々を送り、試合当日を迎えた…。

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