第3話

行司が軍配を上げると共に、俺はゆっくりと構えを取った。


そして、立ち合いと同時に右四つになった。まずは得意技(と自分で勝手に思い込んでいる)の左上手投げで一閃しようとした瞬間、突然視界が眩んだ。


武偽畏曼ぶぎいまんの強烈な張り手によって、俺は怯んだのだ。


思わずよろめいた隙に、武偽畏曼ぶぎいまんが哄笑しながら言う。


「塩っぱい試合には…どうなるか分かるか?」


俺はその言葉を聞いて思い出した。


『プラチナ枡席』に設置された機関砲の事を。

次の瞬間、機関砲の砲口が火を噴き、鉛玉のシャワーが俺を襲った。


俺が機関砲の存在を忘れたのは、武偽畏曼ぶぎいまんを倒す事に集中する余り油断していたからだ。


だが、どうも撃ち慣れてない者しかいないのか全弾俺の足元を削るだけで終わった。



そして…それなりに響く声で「これ使え!」と共に俺の足元に全弾フル装填されたトカレフが落ちてきた。


こうなれば俺の勝ち確だ。


俺は呆然となっている武偽畏曼ぶぎいまんにトカレフを全弾撃ち込んだ。


決まり手は当然『銃殺』。

これで俺は昇進確定である。


武偽畏曼ぶぎいまん…嫌味な所もあったが、ある日頻繁に『かわいがり(相撲用語でハラスメント全般を指すスラングだ)』をして来た先輩力士を共に闇討ちし工事現場の砕石装置に棄てて来てから、互いを高め合った間柄だった…。


だが、これも死と隣り合わせの闇相撲の宿業…安らかに眠れ。


…それにしても、機関砲で狙われても死なない程度の反射神経と身体を鍛えておくのも悪くないかもな。


ともあれ、今年の夏場所は俺の一強になりそうだ。


---


夏場所を終えて、俺の番付はついに十両にまで昇進し、あと一つ昇進すれば晴れて幕内入りというところまで来た。


ここまでは順調だ。


このまま行けば、年内には念願の関取デビューが出来るかもしれない。

だが、俺の預かり知らぬ所でとある動きが進んでいた。


それは…『闇相撲』とアメリカの闇レスリング団体『National Doping Wrestling Federation』…通称NDWFとの合同試合が数ヶ月後に控えているという事だ。

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