6.ネタ勇者じゃん
その日、王国史に永遠と残り続けるであろうネタ勇者が二人誕生した。
俺とオータニ、星耀の間で覚醒の手助けをしてくれたイザベルさんの三人。その足元で床に転がる二人の青年が見っともなく駄々を捏ねている。
残念ながら両者ともに俺の友達だった。
「そんな、嘘だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだイヤだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!嫌だッッッ!拙者は…拙者はッ、魔法使いになんてなりたくない!生涯童貞を貫きたくない!!セックスがしたい!!!」
一人はキムこと木村和也。
またの名を【未来の童帝王】。
「あぁ、そうや、これは夢や。夢に違いないっちゃ…はは、イザベルさん、これは何かの間違いやき、もう一度、もう一度覚醒をやり直させてくれ!そうすりゃ次はきっと、きっとどこに出ても恥ずかしゅうない立派な勇者に覚醒するき!」
そしてもう一人はケートこと坂本圭人。
またの名を【剣性】という。
≪名前≫
≪年齢≫17
≪種族≫地球人
≪職業≫勇者
≪称号≫
【未来の童帝王】
今はまだ、しがない童貞。
≪固有能力≫
【童帝宣言】
生涯童貞を誓うことで発動する。効果は不明。
【純体】
穢れなき身体は様々な状態異常を跳ね返す。
【耐淫武装】
常に微弱な聖属性のオーラを身に纏い邪なモノを寄せ付けない。
【自家発電】
手を動かし果てることで一定時間、疑似的に賢者となる。
≪恒常能力≫
異世界言語Ⅴ(職業)
≪条件能力≫
???(童帝宣言)
叡智Ⅲ(魔力上昇Ⅲ・知力上昇Ⅲ)
≪名前≫
≪年齢≫16
≪種族≫地球人
≪職業≫勇者
≪称号≫
【剣性】
その剣で凝り固まった性の概念を解放する者。
≪固有能力≫
【性剣召喚】
解放条件を満たすことで数多の性剣を召喚し、召喚者に力を与える。
・変幻自在の性剣ヴィリリス
召喚者の気質によって刀身が変化する性剣
現在:M
☆解放条件―異性との性交渉
・薔薇の性剣アエネア
茨を操り紅い華を咲かせる性剣
☆解放条件―同性との性交渉
・双性剣ヘルマ・フロディトス
あらゆる衝撃を吸収し充填する『ヘルマ』充填した力を解放し衝撃を与える『フロディトス』が一対になった性剣
☆解放条件―両性併せ持つ者との性交渉
・無の性剣カーレンス
斬ることを条件に対象の能力を一時強制的に打ち消す性剣
☆解放条件―性の概念を持たぬ者との
【性癖解放】
性癖を周囲の者に開示することで身体能力を底上げする。効果は開示対象者の数に比例する。
【交昇力増】
性交回数に比例して体力が上昇する。
≪恒常能力≫
異世界言語Ⅴ(職業)
筋力上昇Ⅲ(称号)
体力上昇Ⅲ(称号)
≪条件能力≫(条件)
体力上昇∝(性交回数)
身体能力上昇Ⅰ~Ⅲ(性癖解放)
筋力上昇Ⅴ(ヴィリリスS:召喚)
耐久Ⅴ(ヴィリリスM:召喚)
火属性魔法Ⅴ(アエネア:召喚)
魔力上昇Ⅴ(双性剣:召喚)
集中Ⅴ(カーレンス:召喚)
これらが彼ら二人に与えられたそれぞれのステータスの全てだった。称号の名称と固有能力の効果、共に素晴らしいまでにネタに振り切っておいでである。
生涯童貞を貫くことで強くなるキム。
ヤリちんと化すことで強くなるケート。
二人の対比が芸術的で救えない。
ネタ感を助長させている。
良い表情を浮かべて夢を語っていたあいつらはもういなかった。
セックスするために覚醒したキムは生涯童貞が確定し、一人の女性を一途に想い続けると意気込んでいたケートはヤリちん街道を
「なんて声掛けたらいいんだろう」
「オータニ、その優しさはこいつらを殺しかねない。俺たちは見守るしかないんだ」
オータニはともかく俺は俺でまぁまぁなネタ勇者なんだけどね。この二人を見てしまうと霞んでしまうよ。もはや通常勇者枠。
ちなみにこれが俺とオータニのステータス。
≪名前≫
≪年齢≫17
≪種族≫地球人
≪職業≫勇者
≪称号≫
【究極の凡人】
平凡に愛され器用貧乏を極めし者
≪固有能力≫
【森羅凡象】
世の中に存在するすべての恒常能力に適性を持つ。
【塵も積もれば非凡となる】
発動能力の数に比例して身体能力が上昇する。
≪恒常能力≫
異世界言語Ⅴ(職業)
身体能力上昇Ⅰ(称号)
周辺視野Ⅰ(世界平均Ⅱ)
≪条件能力≫
身体能力上昇∝(恒常能力数・最大Ⅵ)
≪名前≫
≪年齢≫17
≪種族≫地球人
≪職業≫勇者
≪称号≫
【漫画超人】
漫画をこよなく愛し漫画に愛される者
≪固有能力≫
【想漫具現】
自作漫画内の技を現実にすることが可能。技行使時に消費する魔力は物理的エネルギー量に比例する。
【漫画化】
一時的に2Dになることが出来る。
【宙描き】
空中に絵が描けるようになる。
≪恒常能力≫
異世界言語Ⅴ(職業)
体力上昇Ⅱ(称号)
精神力上昇Ⅱ(称号)
魔力上昇Ⅱ(称号)
≪条件能力≫
耐久力減少Ⅴ(漫画化)
な、本来は問答無用でネタ枠なわけだが絶対にそうとは名乗れないだろう。俺だって相当酷いぜ。泣きてぇよ。
なんだ究極の凡夫って。
森羅凡象って。
塵も積もれば非凡となるって。
全然面白くねぇじゃん。
滑ってんじゃん、人のステータスで言葉遊びするなよ!
しかし確定してしまったものにとやかく言っていても仕方ない。オータニは間違いなく当たりの勇者だし、ネタ勇者三人もネタに走り過ぎているだけで決して弱くはないのだ。
童貞とヤリちん、凡人に漫画家の四人組だけど。
「…取り敢えずここを出て集合場所に向かおうか、友が待っている」
「そうしましょう。こいつらは俺とオータニの二人で引き摺って行くので道案内をお願いします。俺たちだけでは城内を歩ける気がしないので」
「ふふ、分かった。少し話でもしながら行こうか」
ようやく口を開いたイザベルさんの言葉に頷きネタ勇者たちは星耀の間を後にした。
◇◇◇
星耀の間から集合場所までは、歩いてわずか五分ほどで到着した。しかしその五分間は俺が俺自身に対して失望するのに十分な時間だった。
「あの、イザベルさんごめんなさい…話し相手にもなれませんでした」
「ん、何を謝る必要があるのだヘータ。私はお前と話していて楽しかったぞ?なぁオータニ」
そう、この五分間。俺は最初から最後まで言葉を噛み続けまともに会話することが出来なかったのだ。イザベルさんは優しいのでこう言ってくれるが流石に厳しいって。彼女を挟んで向かい側にいるオータニの顔がすべてを物語っていた。
「…あはは、そうですね」
友よ、せめて何か言ってくれ。その優しさは俺を殺すぞ。星耀の間での俺の言葉を律義に守ってくれているのは嬉しいがその時とはまた状況が違うのだ。
「なかなかにキモかったですなぁ、へたれヘータ氏ぃ」
「黙れ未来の童帝王」
「ぐふっ」
俺に引き摺られ、廊下の雑巾と化していたキムが何か言っているが気にしない。
「ありがとうございましたイザベラさん」
「礼には及ばないさ。ほら、友が君たちの到着を待っているぞ」
イザベラさんに礼を言ってから俺とオータニ、ぼろ雑巾の二枚は集合場所で各々広がり談笑しているB組に合流した。
「全員いるな」
「ほんの数時間離れていただけなのになんだか久しぶりに会った気がするよ」
ざっと見渡すと先ほどまで一緒にいた未覚醒組だけでなく西村騒動の時から別行動を取っていた覚醒組もいることに気付く。
「お、ヘータと小谷じゃん。お前らがラスト?」
適当に空いそうな場所を探していると背後から声を掛けられた。振り向くとそこには長身のイケてるメンズたちが。鳴瀬率いるチーム陽キャである。
小谷はどうして僕たちに声を?と不思議そうにしているが、俺は鳴瀬とその後ろにいる
「そうらしいな、待たせたか?」
他のクラスメイトよりは見知った奴がいたから声を掛けてみた。多分そんな感じだろう。未だに悪夢と現実の区別がついていないぼろ雑巾、ケートの頬を叩きながら応じる。
「いや、そこまで。ってかどうしたんだよその二人、魂抜けてんじゃん」
「にゃはは、西村った?」
「おいやめろツカ、冗談でも言って良いことと悪いことがある」
「九条っちは固いなぁ~…でもそだね、めんご」
「…めんごじゃなくてごめんなさいでしょ、ツカ」
「はいは~いごめんなさい長谷川せんせ~」
「…はい、は一回まで」
しかし鳴瀬以外の三人が入ってきて会話をそのまま乗っ取った。
戸塚ならまだしも九条と長谷川は接点が一切ないため気まずい。鳴瀬の意識がそちら側に向いているのを確認すると逃げるようにして距離を取り、別の空いていた場所に腰を下ろした。
「僕びっくりしちゃったよ」
「心の準備させてほしいよな」
ん~やはり苦手だ、ああいうタイプ。オータニもまた同じように感じたのか俺の隣に座って苦笑いしている。俺たちがいなくなったことに気付いた鳴瀬が遠目に見つめて来るが無視だ無視。
それよりも気にするべきは王国兵の動きだ。俺たちが大広間に入ってからというものの忙しなく動き回っている。広場の一番目立つ位置にはいつの間にか演壇を用意されていた。
どうやら今からお偉いさんが来るらしい。
「また王国のお偉いさんが来るのか」
「僕苦手だな、お偉いさん」
「それくらい王国内で勇者は重要視されてるってことだな」
しかし俺たちはこれまでに遠巻きではあるが国王や王女といった国の最高権力を相手にしてきた。だから大丈夫、それ以上の人物が登場することはない。
そう思っていました時期が俺にもありました。
「勇者様方、談笑中に申し訳ないが一度集まっていただきたい」
王国兵士の一人が良く通る声で集合の合図を掛けた。大半の者がゆっくりとその兵士のもとに集まる中、何かを察した俺は素早く移動を始める。
「ヘータ、いきなりどうしたのさそんなに早く動いて」
「拙者たちの気持ちも考えて欲しいですぞ…」
「ぼちぼち行きゃあええがじゃ」
何故かは分からない。しかし早く集まらなければいけないと自然に身体が動いていたのだ。復活したばかりの元ぼろ雑巾二枚とオータニを置いて一人、兵士のもとへ駆けつける。
「どうして逃げた」
「そっちが勝手に盛り上がってたからだろ」
隣を見ると鳴瀬たちがいた。しかしそれ以上はお互いに喋らることなくその時を待つ。だらだらと集まるクラスメイトに腹立たしさを覚えるが、それでも俺たちは直立不動を続けた。
「閣下っ、どうぞこちらへ!」
広間の入り口に立っていた兵士が大きな声を上げた。俺たち勇者には向けたことのない声色だ。けれどもその声色には聞き覚えがある。
畏怖。
その兵士の後ろを一人の巨漢が歩いていた。設置されたばかりの演壇をその男は無遠慮に踏みつけ俺たちをつまらなそうに見下ろす。
その様子は気だるげに見えた。が、
「…ヘータ」
「…分かってる」
鳴瀬と俺。思い出すのは中学三年の保健体育の授業。他のクラスメイトがちんこだのおっぱいだの楽しそうに騒いでいる中、俺たちバスケ部は生きた心地がしなかった。中バス顧問の顔が脳裏を過る。
騒がないでくれ。
授業を止めないでくれ。
頼むから真面目に受けてくれ。
あの時の恐怖を遠い異世界の地で味わうとは思わなかった。
「勇者諸君、お初にお目にかかる。私はヴィクトル・ド・ベルフォール。国王陛下より王国第一騎士団団長の職位を仰せつかった者である。私が諸君に求めるのは揺るぎない忠誠と不屈の精神、そして王国に対する絶対的な誇りである。戦場においては我が指揮の下、全力を尽くし一致団結して栄光を勝ち取らんことを期待している。これから始まる魔族との戦いにおいて、私と共に国王陛下の御名のもと、剣を交え勝利を収めようではないか…よいな?」
『はい!』
部活の顧問レベルMaxみたいな人物が現れた。
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