第24話 オカルト

 小熊と南海が探していた紫のバイクは後藤の職場であっさりに見つかった。

 一台一台見てみると駐輪場に駐めらていた紫のバイクは、いずれも原付二種で、紫のペイント以外は何一つ特徴の無い通勤バイクだった。

 ここまでの道中で聞いた後藤の話によると、目の前にある流通拠点の敷地である従業員駐輪場も関係者以外立ち入り禁止だが、勤務後に遊びに行くため迎えに来た友人や子供の深夜バイトやその通勤路を心して迎えに来る学生バイト父兄などの出入りはナァナァなまま黙認されていて、小熊も後藤に「アルバイト希望者だって顔しとけと言われたが、そんな予定は今のところ無い。


 数台の紫のバイクには、バイクで徒党を組む人間によく見られる共通エンブレムのステッカーも見当たらない、色そのものもあまり趣味がいいとは思えない物だったが、見る場所が違えば違って見えるのかもしれない。

 たとえば、夜勤や交代勤務者にとって通勤時間となる深夜とか。

 駐輪場のあちこちを歩き回り紫のバイクを観察する小熊に、自宅からここまでの徒歩通勤で疲労した様子の後藤は言った。

「ちょっと待ってて」

 後藤はそれだけ言って従業員用の通用口に入っていく。中村から後藤の勤務シフトまで聞いた小熊は、腕時計を横目に見て、まだ勤務開始時間には余裕があると思っていたら、後藤が通用口から出てきた。


 後藤は黙って小熊に向かって首からストラップで吊ったスマホを突き出す。小熊が画面をよく見ようとスマホを引き寄せると、小熊より少し背の低い後藤の体もストラップに引っ張られ、顔が小熊に近づく。すれ違った人間が遠目に見れば何かいかがわしい事でもしていると勘違いしそうな姿だが、構わず画面を擦る。ストラップで首を絞められた後藤が「うっ…」と艶のある声を出した。

 カメラロールに並んだ画像の中から、たった今撮影されたばかりであろう画面をタップして拡大表示させると、画像の中には壁が映っていた。

 通用口に入ってすぐの場所を撮ったらしい画像には、薄汚れた会議テーブルに乗せられたタイムカードの棚と打刻機、そして数枚の張り紙が映っていた。


 張り紙の内容はappleやトヨタ、あるいは捕虜収容所でも見かけるような、職場の清掃とノルマの達成を呼びかける標語や、作業着クリーニングのお知らせ。それから職場のレクリエーション回でバーベキューに行ってきたという画像つきの張り紙など。そしてもう一枚、後藤が画角の中央に据え、小熊に見せたいであろう一枚の張り紙があった。 

 印刷ミス紙の再利用らしくうっすら裏写りしたプリントアウト紙に紫色のポスカで文字が書かれていた

 オカルト研究部 部員募集!

 幽霊の正体見たり。小熊はどうやら紫のバイクの正体に近づいてきたらしい。

 それも柳の木よりずっと無価値でくだらない物に。

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