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 失敗をものともせずに、私たちは努力を積み重ね、ようやく機械に意識を宿らせることを実現した。

 しかし、その後の話はもっとややこしかった。その技術はまだ公表されていないため、被験者は募集しかねた。

 その時、由美子も私も結婚した。由美子は大輔という男の子を産み、私は薫という男の子と由紀という女の子を産んだのだ。薫と由紀は双子だった。

 大輔くんも薫と由紀の同級生だった。小さな町では、予想通り三人とも同じ学校に入った。とはいえ、由美子と私もその意識に関する研究に取り組んでいたから、お互いの子供を合わせる機会がまったくなかった。だから薫と由紀として、大輔くんはただの見知らぬ同級生だけだった。そのはずだった。

 窮地に追い込まれた私たちは自分の子供を実験台にするしかなかった。ボランティアとしての被験者は最も望ましいけれども、もし万が一予期せぬ出来事があったらまずい。訴訟が起こされたら私たちは首になってしまいかねない。せっかく安定な仕事をしているから、私も由美子もそのまま手放したくない。

 だから夏休みになると、私は見学を目的としてちょくちょく薫と由紀を研究所に連れて、その広く白い部屋で自分の子供の意識を機械にアップロードしていた。もちろん、大輔くんの意識も由美子にアップロードされた。子どもたちに疑われないように、私と由美子は事前に二人のスケジュールを確認し、ずれた時間で子供を研究所に連れるようにしていた。

 子供たちの反応からすると、技術は大成功だった。体に悪い症状が全然現れず、実験室から出てきた彼らは何も覚えてないと答えてくれた。

 でも問題はアップロードされた意識だ。機会に保存しているはずだが、言語化や視覚化までは至らなかった。

 こうして、私と由美子は日常の仕事をこなしながら、合間を縫って試行錯誤しながら意識の宿る機械の改善をし続けていた。毎年の夏には、子どもたちを呼んで機械のバグを見つけて、また修正する。

 しかしながら、まさに私たちの英知の結晶となるこの機械の研究開発は中止となってしまった。もっと上の方の人が所長に命令を下したそうだ。

 由美子は旦那さんの昇進によって彼の会社に転職した。

 よりにもよって、薫と由紀も思春期に入ったようで、声をかけても「うるせえ」とか「ほっといてくれ」とかに冷たく言われていた。

 なんとかなる。きっと元のようにまた新しい研究に打ち込めば、また生活はうまくいく。そう願っていた。

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