第37話 前世で武神と呼ばれた男、オーガ達を掃討する②

 数多の地響きが聞こえてきたかと思えば、前方にある木々は次々とひしゃげる音が聞こえる。


「あ……あれは!」

 

 ヒルダの連れの騎士が怯え声を出しながら前方を指さす。


 続いてへロルフが口を開く。


「オーガの群れだ……!」


 彼は驚愕した表情で木を踏み潰してきたオーガ達は見据える。


「ヒュー君、これまずいかなぁ? なんか何十体もいるように見える~」


 周囲の人達が緊迫している中、ソリスはいつも通りおっとりした様子を見せるとハッカが慌てながら突っ込む。


「まずいどころじゃないって! 一〇体や二〇体どころじゃないぞ! 皆、殺される!」


 彼の言う通り、異常に多い。


 自然エネルギーと伝って遠方にいる相手の姿形は把握できる俺には何体いるかも分かる。


 今、ゆっくり歩を進めているオーガは一列五体並んで歩いてきている。そしてその奥には列がずっと続いている。まるでオーガの軍隊だ。


「ヒルダさん! こんな話は初耳なんですが」


 シェナが慌てながら依頼主の娘であるヒルダに声をかける。


「あたしだって知らないわ……でも異常事態ですの。ここまで来たら冒険者の領分じゃない……急いで町に戻って他の貴族達から援軍を頼んだ方がいい」


 彼女は退いて体制を建て直そうとしていた。


 それが懸命かもしれない。小さい町なら人々があっという間に殲滅されてしまう……なんせ七〇体いるからな。それにあの統率された動き自体、奇妙すぎる。


 だが、この場には俺がいる。


 そろそろ、運動がてらオーガ達を蹴散らそうと思ったそのとき、今まで静観していた二組の冒険者が動き出した。


 男女一組のペアと東方風の格好をした一匹狼の冒険者だ。


 総勢三人の冒険者が前に出るとファウスが彼らを引き止めた。


「おい待て、見たところこの辺の冒険者じゃないようだけど! 無茶だ! 逃げよう!」


 するとペアの冒険者である茶髪の男が口を開く。


「俺なら大丈夫だよ」


 彼が穏やかな微笑みを返すとファウスは思わず口を噤んでいた。


「アルベル準備はいい?」


 茶髪の男の相方が口を開く。どうやら男性の方はアルベルと言うらしい。


「当然だ! エルミーも油断するなよ」


 女性の方はエルミーと言うらしい。


「で、そっちの東方から来た人も中々、腕が立つと思うから左側のオーガは俺らが倒す、右側を頼む」


「……御意」


「ありがとう、名前を聞いてもいいかい?」


「……シノギ」


「へぇ、君がそうなんだ。あっちでは有名人だよね」


「貴殿こそ、向こうでは有名ではないか」


 俺が実力者だと思った三人はお互いに面識があるらしい。


「ソリスとハッカはあの二人知っている?」


「知らない~」


「異国の冒険者っぽいしな、というかオレは冒険者に詳しいわけではないしな」


 ヒルダやへロルフ、シアドとシェナもあの三人を知らない様子だ。


「噂程度に聞いたことあるぞ」


 ファウスは口を抑えながら戸惑いを隠せない様子だ。


「間違いないわ――」


 その後、ブランカが得心したような顔をして喋り続ける。


「――アルベルとエルミーは砂漠の映雄と呼ばれている冒険者です。領土のほとんどが砂漠が覆われた国の出身で領土の半分を支配した破壊の魔王と呼ばれる魔物を倒しています。もう一人はシノギと言って東方では剣聖と呼ばれている冒険者、東方で暴れていた八叉の龍を単独で倒した男です」



 やはり思った通り、相応に強いらしい。そしてその三人は何故か俺の方を見ていた。


 俺が首を傾げるとアルベルが声をかける。


「君も中々強いでしょ、万が一、俺達がオーガを打ち漏らしたらやっつけてもらえるかな」


「ああ、分かった」


 俺は二つ返事でアルベルの頼みを聞き、彼らの背後へと移動し始めるとハッカが耳打ちをしてきた。


「正直、どうなんだ? あいつら倒せるのか?」


「難しいな……」


「やっぱりヒューゴでも厳しいか」


「数が多いからな、少なくて五分、多くて一〇分は欲しいぞ」


「マジかよ……」


 ハッカは何故か顔を引き攣らせていた。とりあえず、無視しよう。


 さてと、砂漠の英雄と剣聖。どれくらいの実力なのか見せてもらうか!

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