第36話 前世で武神と呼ばれた男、オーガ達を掃討する①

 虫の息の二体のオーガに仲間達が追い討ちをかけている。


『炎弾ファイアバレット』!」


 シアドは腕を振ると炎の玉が飛び出しオーガの方に向かって行く。修業を付けたかいもあって彼の『炎弾ファイアバレット』は人の頭程度の大きさから二回りも大きくなっていた。


「グギャアァァァアアアアッ!」


 シアドとシェナが戦っていたオーガは断末魔を上げながら消し炭になった。


「俺もいくか!」


 ハッカは気合を入れながら両腕を前に突き出してスキルを発動させる。


「『雷撃波サンダーウェイブ』!」


 その腕から雷の光線が飛び出す。その光線は地面を抉り、もう一体のオーガに直撃した。オーガは上半身を吹き飛ばされて、生命活動を停止する。


 ファウスは絶句し、彼のパーティも空いた口が塞がらない様子だった。


「おいおい……マジかよ」


 新進気鋭で有名になっている彼らからしたら、初依頼を受けている俺達の強さが信じられないんだろうな。


 うんうん、修行を付けたかいがあった。皆の師として鼻が高い。今度お礼に一〇キロほどノンストップで走らせよう。きっと喜ぶぞ!


 俺は頷きながら微笑むとブランカのパーティも驚いていた。


「きっと特別な職業を授かったんでしょ……でもそれにしても身体能力が異常に高いわよ。何より『炎弾ファイアバレット』の威力が明らかに新人冒険者の域じゃない」


 ブランカの感想に俺は自慢げにふふんと鼻を鳴らしてしまった。体内エネルギーを使って体を頑強にする『硬化』、そして同じく体内エネルギーを使って身体能力を向上させる『闘気』を教えたからな。当然、身体能力は新人冒険者とはくらべものにはならないし、魔法の類も威力を上げるように修行させた。


「……よくやった……走らせたあとは一〇キロ海で泳がすご褒美トレーニングを授けよう……!」


 俺は独りで満足そうに呟いていた。


 すると誰かが俺に近づく。


「ヒューゴ君どうでしょうか!」


「私とシアドの連携はばっちりですよね!」


 シアドとシェナは褒めて欲しそうに駆け寄ってきた。


「最高だった! この依頼が終わったら、さらなる修行をつけようと思う! まずは一〇キロランニングだ」


「「それはいい」」


 二人は首を横に振っていた。


 次いでソリスとハッカも駆け寄ってくる。


「ヒュー君のおかげで強くなりました」


「ソリスもヒューゴも初戦闘だってのに凄いぞ」


 俺は親指をグッと立てて二人を褒め称えた。


「俺が初めて戦ったときなんて、ゴブリンを倒すのが背一杯だったぞ」


「へぇ......! ヒューゴにもそんな時期があったとはな!」


 ハッカは目を丸くしていた。俺が苦戦することなんて想像できないのかもしれない。


 ちなみに今の話は前世での初戦闘のことだ。


「ああ……大変だった! 一〇〇体のゴブリンを相手にするのは本当に死ぬかと思った! 一時間もかかった」


「やっぱ、こいつおかしいわ……親近感を少しでも持った俺が馬鹿だったよ!」


 ハッカは一人で宙に向かって叫んでた。今のお前もおかしく見えるぞ。


「ふん、やるじゃないの……」


 背後に控えていたヒルダとへロルフが騎士を連れてぞろぞろ出てきた。


 ヒルダに対してシェナが応じる。


「ヒルダさん相変わらず上から目線ですね」


「悪いかしら?」


「だってヒルダさん何もできなかったじゃない……」


 シェナはヒルダに対して呆れ顔を見せていた。


「っ……貴方でしょ!」


 ヒルダがシェナに痛いところを突かれると俺を指さしてきた。


「俺がどうかしたのか? 顔に何かついてるか?」


「違いますわ! シェナ・ラゴールがいきなりこんなに強くなるのはおかしい! きっと貴方が何かしたでしょ!」


「もちろん、四人共鍛えたのさ」


 俺は微笑みながら言うと、


「なら、あたしも鍛えて強くしてください。報酬は出します」


「ちょっとヒューゴさんは私達の師匠よ! 他の誰も鍛えあげませんから」


 別にそんな決まりはないんだが、誰だろうが強くなって欲しいし最終的には血肉脇踊る戦い相手になってほしいと思ってるぞ!


 そのとき――ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 地響きが鳴り続けていた。多くの何かが近づいているようだった。

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