第21話 前世で武神と呼ばれた男、辺境伯に知られる③

 俺はバジリスクに近づく。


「危険です!」


 先程、戦っていた少年は俺に注意を促している。


 相対しているバジリスクの方は口を開けていた。


「ブレスか!」


 声を上げると同時にバジリスクの口から炎が吐かれた。


 しかし、俺は炎を気にせず、そのまま真っすぐ進む。


「ああ! そんなっ!」


 少年は心配そうに叫んでいた。


 一方、俺は『体内エネルギー』を纏うことで火傷をすることを防いでいた。とはいえ、熱さを感じないわけではない。


 ただ、蒸し焼きにされるまえに相手を倒せばいいだけの話だ!


「掴まえた!」


「グガッ!?」


 バジリスクの目前に到達した俺は両手で下顎と上顎を無理やり閉じ、


「暗殺体術『斬首ギロチン』!」


 そのまま、時計回りに腕を回して、バジリスクの頭部を捻り千切った。


「グギャアアアァァァァ……!」


 バジリスクは断末魔を上げながら息絶えてしまった。


「これどうしよ」


 手に持っているバジリスクの頭を床にそっと置いた。


「すごい……」


 後ろを振り向くと少年は口を半開きにしたまま固まっていた。


 また、騎士達は信じられないような目で俺を見ていた。


「バジリスクって素手で倒せるもんなのか!?」「そんなわけないだろ! 何者だよあの男……」「名の知れた冒険者か?」


 彼らは俺の正体を推察していた。


 俺は名の知れない村人です。


「ありがとう! 皆、君のおかげで助かったよ! 君、名前はなんていうんだい? 見たところ僕と変わらない歳に見えるけど」


 少年は俺に興味津々だった。


「俺の名はヒューゴだ。歳は一五歳」


「同い歳だ。僕の名前はシアド・ラゴール」


 シアド……ラゴール?


 先日、サイクロプス・ジェネラルと戦ったときにシェナ・ラゴールという名の少女を救った。彼女と同じ名字だ。


「もしかして妹か姉がいる? あと、もしかしてラゴール辺境伯の……親族とか?」


「そうだよ。僕には双子の妹がいる。そして、僕の父親がそのラゴール辺境伯だ」


「へぇ……」


 サイクロプス・ジェネラルをぶっ飛ばしたときに破壊した民家の修理費を請求されるかもしれない。つい、昨日のことなので彼は何も知らないかもしれないが。


「ところで、これからどこに向かうのですか? あとで妹と合流するのですか、方角からしてラゴールの町に向かっているのでは?」


「シアドよ」


「は、はい?」


 俺はシアドの両肩に手を置く。


「急用があるんだ。一緒に同行したいのは山々だが、俺は人々を救うためにやらなければならないことがあるんだ」


「そうなんだ! ヒューゴ君……僕と同じ歳なのに民のことを考えてるなんて……きっと、僕には想像が付かないことを背負ってるんだ」


 シアドはなんか目を輝かせていた。


「じゃ!」


 俺はさっさと背を向けて走った。


「え? 待ってお礼をしてないよ!」


 慌てるシアドの声が聞こえた。


「素晴しいお方だ。見返りを求めないとは!」


 騎士達の声も聞こえた。


 お礼……? そういえば、助けたお礼にお金を貰って、それを町の修理費に当てることもできたかもしれない。


 しかし――


「彼こそが真の騎士だ」「平民なのにラゴール様のように弱きを助け強きを挫くとは!」


 ――騎士達から賞賛されてる感じなので今更、戻れない。


「くぅ!」


 俺は唇を噛み締めて、ハッカとソリスの下へと戻り、ラゴールの町へと向かったのであった。

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