第20話 前世で武神と呼ばれた男、辺境伯に知られる②
宿屋に泊まった後、再び馬車に乗ってラゴールの町へと向かった。
馬車の外に広がる風景は草原だ。見晴らしが良い。
村は木々に囲まれていたため、見通しの良い景色を見るのは久々だ。
「ん?」
馬車から外を覗いていた俺は違和感を感じ、立ち上がる。
同じ馬車に乗っているハッカとソリスは不思議そうに俺を見ていた。
「すみません! 一旦、馬車を止めて下さい!」
俺が叫ぶと馬車は停止する。
「ヒューゴ?」
ハッカは首を傾げていた。
「馬車を出て、草原を見たら分かる」
そう言って、馬車から飛び降りると、草原の遙か向こうで巨大なトカゲが甲冑を着た騎士達に襲いかかっていた。その中に一人、黒を基調とした金の刺繍が入った貴族風の服を着た少年がいた。おそらく、少年は今の俺と同い年ぐらいだ。
手綱を引いている御者は戦闘の様子を見て、泡を食ったように叫ぶ。
「あ、ありゃバジリスクではないか!?」
どこかで聞いたことある名前だ。
「ソリス、バジリスクってなんだっけ?」
「目から対象を石化させる光線を放つ中型の魔物だわ……でも薄暗い場所を好むのになんでこんなところにいるんでしょ~」
ソリスは頬に手を当てながら考え込んだ。次いでハッカが口を開く。
「サイクロプス・ジェネラルといい、魔物の活性化が最近酷いな」
彼は険しい顔をしたあと、俺の方を向く。
「ヒューゴ、どうせ助けに行くんだろ?」
「もちろん! 石化されてみたいからな!」
「動機がおかしいって!」
ハッカがなんか言ってるが、無視して駆け出した。
「助太刀しよう」
「へっ?」「その辺、冒険者か?」
俺が現れるとひび割れた鎧を着ている騎士と、半壊した兜を着ている騎士が戸惑っていた。他の騎士達はそこら辺に転がっている。皆、負傷しているらしい。しかし、俺の前にいる少年は、バジリスクに果敢に挑んでいる。
俺は頭の後ろで手を組んで少年の横に立つ。
彼はこの前会った、シェナ・ラゴールと同じ銀髪で青い瞳だった。前髪を眉毛の手前で切り揃えており、丸目をしていた。体は線が細く華奢な印象だけど、バジリスクに立ち向かっている姿勢からして見た目と裏腹に豪胆さを感じた。
「
少年は二本指を立てて人の頭ぐらいの大きさの火の玉を放ったが、バジリスクは顔に直撃しそうになった火の玉を首を振るだけで吹き飛ばした。
「僕の攻撃は多少、当たっているはず……皮膚の魔法耐性は高いから口を空けたところを狙うしか……」
少年はぶつぶつ言っていたが、
「シアド様危ない!」
「しまっ……!」
騎士の一人が叫ぶと、少年が驚嘆していた。何故なら、バジリスクが目から光線を放っていた。
「今だああ! うおおお! 俺を石化させてくれい!」
俺は少年の前に飛び出し、光線を浴びる。
「ほあああああああああああ!」
体の全身に電流が走ったような感覚に襲われる。痛くはないのだがノリで叫んでみた。
そして、瞬く間に俺の体が石化していく。
表皮からじわじわと内部の細胞が石になるのを感じてる。
「ど、どうすれば! 僕を庇ってしまったばっかりに」
少年は石となっていく俺を見て頭を抱えていた。
心配されているのが申し訳ない。俺は光線を浴びたかっただけだ。
前世から今の今まで石化状態になったことはない。だからこそ、どんな技か身をもって知りたかった。
「はっ‼」
俺は息を吐くと同時に全身からエネルギーを噴出させた。
周囲に土埃が舞い上がる。そして、視界が開けると、近くにいる騎士と少年だけではなく目の前にいるバジリスクも目を見開いていた。
俺が無理やり石化状態を解いたからだ。細胞に達する前に、石になった皮膚を吹き飛ばした。そして失った皮膚は自然治癒力を上げることで再生させていた。
「いや~危ない危ない……体の内部まで石に浸食されてたらどうしようもなかった」
そう言って俺はバジリスクに向かって走っていった。
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