とある田舎男爵のお話。
「父ちゃん。ウチって一応貴族なんだよね?」
今年7つになる娘が昼食時にそんな事を尋ねて来た。
「一応では無く立派な貴族だぞ」
「じゃあ何で毎日昼食が蒸かした芋と具の無いスープなのさ」
「貧乏だからだぞ」
「何で貴族なのに貧乏なのさ」
「それはな、初代様が貧乏くじを引いたからだ」
「貧乏くじって?」
「ウチの領地の特産品を知っているか?」
「クズ石」
「うん、クズ石じゃなくて魔石な、ま・せ・き」
「クズ魔石」
「……まぁ、その魔石が取れる鉱山がある事がウチのほぼ唯一の産業と言っても過言ではないわけだが」
「つまり何もないのと同じ」
「……ぐすん」
ウチの娘が辛辣すぎる。
「昔は、それこそ魔石が発見された当時はそれもう大層騒がれたそうだ。人類に繁栄をもたらす奇跡の石だ、ってな」
「なんで?」
「魔力を蓄えれるんだぞ?無尽蔵に魔法が放てる騎士や、永遠に稼働し続ける魔道具。人々はそんな事を想像したのさ」
「ふ~ん」
「まぁ蓋を開けてみればなんて事はない。蓄えられる魔力は微量だし、蓄えた魔力を人間に戻すことも出来ない。街道に使われる魔導ランプを稼働するぐらいしか使い道のない微妙な代物だったわけだ」
「そうだね」
「が、初代様は将来研究が進んで魔石が高騰すると考えたわけだ」
「おバカ」
「……それで他の貴族が緑豊かな土地を貰っていくなか、初代様が選んだのが魔石が取れる鉱山があるが、それ以外には何もないこの土地だったわけだ」
「つまり、初代さまとやらに先見の明が無かったせいで、私たちは昼間っから蒸かした芋を齧っているわけか」
「……そうだな」
もちろんそれだけは無く、先祖代々他の産業を生み出せなかった責任があるが、7つの娘にする話では無いな。
「は?倉庫のクズい――魔石を全て買いたいって奴がいる?」
何の為に?巨大な街灯でも大量に立てるのだろうか?
「アーバン=グランシェルドってお貴族様の遣いらしいんっすけど。どうします?親方」
「親方じゃなくて男爵と呼べっていつも言っているだろう。……取り敢えず会おう」
会って何に使うかを尋ねよう。もしかした商機がそこに転がっているかもしれないからな。
結局用途は教えて貰えなかった。売るのか売らないのかだけ聞かせて欲しいと言われた。
せっかく買ってくれると言うカモ、もとい上客だ。少しだけ吹っ掛けて全部売ってやった。
「あ!スープにちっちゃい肉が入ってる!」
「実は魔石が大量に売れてな。従業員どもに滞っていた給料を払ったら殆ど飛んで行ったが、ちょっとしたお祝いだ」
「クズ石が?何にそんなに使うのさ?」
「それが何度聞いても教えてくれなくてな」
「ふ~ん……ま、いっか。そんなことよりお肉お肉~」
「そうだな。お肉お肉~」
暫くしてまたアーバン=グランシェルドの遣いが来た。
またあるだけ魔石が欲しいと言う。
今度は思い切ってみる。
「あ~売ってやりたいのは山々だが、この間大量に売ったばかりだろ?元々の売る予定だった奴にも売らないといけないからな。この前の倍額だってんなら売ってやらなくも無いが」
ここから値段交渉だ。1.5倍ぐらいで売れりゃかなりの儲けもの……
「え?その値段で買う?え?」
アーバン=グランシェルドの遣いという女は前回同様に謎の魔道具に大量の魔石を詰め込んで帰って行った。
「………5倍から値段交渉を始めれば良かったかな?」
「わ!おっきいお肉が入ってる!」
「ははは、父ちゃんの華麗な交渉テクで魔石が高く売れたんだ」
「この前の人?」
「そうだ!この前の倍の価格で売れたんだぞ」
「……倍の値段で売ったの?」
「ん?そうだぞ、もっと高値でも売れそうな雰囲気だったな。次はもっと思い切って吹っ掛けてみようと思ってる」
「………次があるといいね」
「あるだろ。魔石があるだけ欲しいって感じだったからな!」
結局、アーバン=グランシェルドの遣いとやらは2度と訪れなかった。
後に地方貴族の集まりで聞いた話では、別の魔石の取れる土地で別の貴族から適正価格で取引したのち、アーバン=グランシェルド側から適正価格の1.3倍の値段を出すから定期的に卸して欲しいと言われ、契約を結んだそうだ。
……次にもし大口の客が来たら、交渉の場に娘も同席させよう。
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