それって所謂ラブドールじゃね?

 文化祭が終わった翌日、俺は知らない男子生徒に手紙で人気の無い場所に呼び出された。

 これはあれだ。お前調子に乗り過ぎなんだよ、少しお仕置きしてやる的な流れだ。

 俺はウキウキしながら呼び出された場所に向かう。ツヴァイを操作しながら。

 別に戦うのは好きではない。剣を振るのは嫌いではないが、好きでもないのだ。ただし、この場合は別だ。正当防衛なら少しやり過ぎたって許されるだろうし、決闘ではないのでゴーレムを使ったって許されるだろう。せっかくなのでツヴァイで暴れるのだ。模擬戦に近いが、これも実践と言えば実践。やはりゴーレムは戦ってなんぼなのである。

 さぁて、相手は何人いるかな?10かな?20かな?~♪


 ……1人だった。

 しょんぼりである。


 え?ちょっと待って、相手が1人で、人気のない場所に呼び出されたって事は、これはあれか?アナタの事が好きです。みたいな事か?……ごめんよ、俺は年上のお姉さんが好きなんだ。同年代の男子はちょっと対象外なのだよ、次の恋を探して欲しい。


 ……冗談である。


 「えっと、キミかな?俺を呼び出したのは」


 「あ、ああ。間違いない」


 「それで、何の用かな?」


 「……実は折り入ってグランシェルドにお願いしたい事があるんだ」


 男子生徒は真剣な面持ちだ。

 

 ……


 「……ごめんよ、新しい恋を探しておくれ」


 「…は?」


 「コホン、何でもない。それで、お願いって?」


 「あ、ああ……その……」


 その男子生徒は何やら切り出しにくそうにしている。何か良からぬお願いだろうか?


 「まずは……これを見てくれないか……」


 男子生徒は自身の後ろの茂みに隠してあった木箱を引っ張り出した。

 大きい。

 横2メートル近くある。大人が横になってすっぽり収まるだろう。

 男子生徒は徐に木箱の蓋を開けた。

 中から出て来たのは………

 布に包まれた女性の遺体―――


 「は、犯人はお前だーーーー!!」


 テテテ、テテテ、テーテー♪


 「な、何の犯人だよ。違う、よく見てくれ」


 男子生徒に促され、よく見ると、それは女性の遺体ではなく、精巧に作られた女性型の人形だった。材質は…木?凄いな、木でこんな精巧な人形が出来るとは驚きだ。

 周りの布は緩衝材の代わりらしい。この世界にプチプチは無いのだ。


 「で、この人形がどうかしたの?」


 「そ、その、この人形をグランシェルドが作った魔道具を使ってゴーレム化して欲しいんだ!!」


 ……………あ~、そう言うこと?

 人の趣味をとやかくいう気は無いが―――


 「俺が作ったゴーレムをそう言う事に使われるのはちょっと……」


 「だ、断じてやましい事に使う訳ではない!!」


 男子生徒は赤面しながら否定した。


 「じゃあ何に使うんだ?」


 「そ、その。俺は兎に角ダンスが下手なんだ……」


 「はい?」


 「昔からダンスが下手で下手で、でもダンスは貴族にとって必須だろ?授業でもあるぐらいだし。でもどんだけ練習しても真面に踊れないんだ」


 「はぁ、それで?」


 「ダンス部に入って毎日人の何倍も頑張って、それでもダメだった。女の子の足は踏むし、手を引く力が強すぎて肩を痛めた子までいて、次第に誰も俺の相手をしてくれなくなったんだ。ダンスの練習は1人じゃ出来ないだろ?」


 「それで女の子型ゴーレムに練習相手をして貰おうって?」


 本当かなぁ?だとしてこんなに精巧に作る必要あるかなぁ?しかも美人で巨乳だし。……うん、嘘だな。別の相手をさせるつもりだ。


 「なんだよその目は……」


 「いや、何でもないよ。それで?仮に俺がこの人形をゴーレムにしたとして、誰が操作するのさ?」


 「え?」


 え?じゃないよ。


 「ゴーレムは誰かが操作しないと動かないよ?真面にダンスが出来ないキミが踊りながらゴーレムも躍らせるのは不可能だと思うけど?」


 実は、ある程度簡単な事なら自動で行えるような魔法陣なら作れる。というか作った事がある。ゴーレムを量産する時に手伝わせようと思って。ただあまりに簡単な命令しか出来ないので今のところ実用的では無いのだ。


 「そ、そうなのか?踊れって言ったら踊るんじゃないのか?」


 「そんなゴーレムが出来たらいいね」


 自動操縦で戦うロボット…もといゴーレムと俺の操縦するゴーレムで戦うのも楽しそうだ。うん、いつかの目標にしよう。


 「まぁ、ダンス部の女子部員なら、少し練習すれば女子型ゴーレムに女子パートを躍らせる事が出来るかもしれないから頼んでみたら?これで練習に付き合ってくれって」


 「同じ部の、それも女子に、等身大の女の子の人形を持っていって、コレを動かしてくれって頼むのか?……無理だ」


 気持ちは分かる。


 男子生徒はがっくりと項垂れて、その場に膝を付いてしまった。

 残念だがこればかりは俺にはどうしようもない。


 彼には踊りからのらりくらりと逃げる方法を身につけてもらおう。


 それにしても等身大美少女のゴーレムか……一体欲しいな。


 いや、止めておこう。変態のレッテルを貼られるのは避けたい。そうでなくても変人のレッテルを貼られているのに。

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