トーナメントIF➁

 試合再開と同時に、鍵の無い宝箱のメンバーが懲りずに火球の魔法を放つ。

 さきほどポイントが入らなかったことに気づいて無いのだろうか?


 対するゴーレム大好きのHMGはセーフティを解除した魔法剣を正眼に構え、飛んできた火球に向かって振り下ろす。火球は見事真っ二つに裂かれ、左右に別れたそれはHMGを少し通り過ぎたところで小さく爆発した。


 「なんとー!?チームゴーレム大好き、放たれた火球を真っ二つにしたぞ!?なんという腕前だー!!」


 「……うそぉ」


 斬った本人も驚いている。事前に斬れると耳打ちしていたのだが、完璧には信じて貰えてなかったようだ。

 とはいえ、ある程度の技術は必要なので、そこは流石ゴーレム大好きだと言っておこう。


 「……お前ら、ゴーレムで奴らの相手をしていろ。その隙にもう一度火球を放つ」


 「……ああ」


 ゴーレム大好きのHMGの動きを封じるため、鍵の無い宝箱は4機HMGを前に出した。

 対するゴーレム大好きも前に出したHMGは4機、1機は火球を警戒して距離を保ったままプレイヤーの方を向いている。


 前に出た4機対4機のHMGがぶつかり合う。


 互いに剣がぶつかり合った瞬間、ゴーレム大好きのHMGの魔法剣が鍵の無い宝箱のHMGの魔法剣を斬り裂いた。


 「今度は相手ゴーレムの剣を斬ったー?!先ほどまで互角の勝負をしていたのに、まさか手を抜いていたのかチームゴーレム大好き?!解説のゴドウィンさん、これは一体どういう事でしょう?」


 「あ~……うん、手を抜いていたというか、手を加えたというか……どちらにしろこの勝負はチームゴーレム大好きの勝ちで確定なんじゃないかな?チーム鍵の無い宝箱は余りにエレガントじゃ無さすぎだね。流石のボクも呆れを通り越して怒りを覚えているよ」


 剣を失った鍵の無い宝箱が距離を取るため後ろに下がる。

 盾に仕込んだ魔法短銃の出番だ。


 ゴーレム大好きは盾を持った腕を前に突き出すと、盾の下から魔法短銃による一斉射撃を開始した。連射速度はそれほどでもないが、4機による一斉射撃は中々見ごたえがある。うんうん、やっぱりロボットタイプには銃撃戦が良く似合うな。まぁ、銃というより盾の下から放っている様に見えるけど。


 鍵の無い宝箱は咄嗟に盾で受けるが10発も食らえば盾はボロボロで使い物にならなくなる。


 「えっと、ゴドウィンさん?チームゴーレム大好きの盾から風魔法らしき攻撃が放たれていますが、アレは?」


 「風魔法らしき攻撃だろうね。大丈夫、ルール違反ではないさ。この試合に限りね」


 「そ、そうですね。さぁ、チームゴーレム大好き!どんどん畳みかける!!」


 盾を失ったHMGは勿論その身で風魔法の銃弾を浴びることになる。


 「……チっ。お前ら、ゴーレムはもういい。お前らも一斉に火球の魔法を放て。ただし、狙いは分かっているな」


 「……ああ」


 鍵の無い宝箱のメンバーが一斉に火球を生み出す。

 どう見てもその矛先はゴーレム大好きの生徒たち。つまり操縦者を直接狙うつもりらしい。


 大会ルール以前の問題だ。放ったが最後、下手をしたら殺人未遂罪で一生臭い飯を食べる事になるだろう。一体何を考えているのか。


 「放て」


 火球が一斉にゴーレム大好きのメンバーを襲う。

 ゴーレム大好きはHMGの魔法銃を一斉に火球に向けて放った。


 「馬鹿め。風魔法、それも魔道具如きで火球と撃ちあうなど―――なっ?!」


 魔法短銃から放たれた風の銃弾は火球を打ち消し、そのままの勢いで鍵の無い宝箱のメンバーの頭上を通り過ぎて行った。

 ……あぶない。危うくゴーレム大好きの方が人殺しになってしまうところだった。


 ゴーレム大好きもその事を懸念してか、武器を剣に変えて攻撃を再開する。ターゲットはもちろん操縦者では無くHMGだ。


 ビーー!


 あっという間に100ポイントに到達し、試合終了を告げるブザーが響いた。


 「そ、そこまで!!チームゴーレム大好きの勝利です!!」


 後は鍵の無い宝箱のメンバーを教師に引き渡して一件落着かな。

 と思ったがどうやらまだ何かするつもりの様だ。


 「くそ!……仕方ない、作戦をプランBに切り替える」


 おお!プランB!特に何の作戦も無くても一度は言ってみたいあのプランBだ。


 鍵の無い宝箱のメンバーは頷くと、一斉にボロボロのHMGをリンクの端に走らせ始めた。そしてリンクを飛び出させた。当然リンクを出たHMGは魔力供給を起たれ停止する。


 「う、動かないぞ?!」


 「故障か?!」


 失礼な、仕様です。


 というかこいつ等、もしかしてHMGを盗もうとしたのか?大胆というかなんというか……バレないように盗むならともかく、強奪なんてしてどうするつもりだったのだろう。顔もバレているし、学園内に逃げ場など無いだろうに。


 その後、鍵の無い宝箱は教師たちに何処かに連行されていった。

 最後まで抵抗しながら何かを喚き散らしていたが、一体何がしたかったのだろうか。


 ……


 まぁ良いや、そんな事より早くHMGを修理しなくては。


 「え、え~っと…………あ、こ、これよりゴーレムのメンテナンスの為10分……いえ、30分間の休憩に入ります。選手と観客の皆さまもご休憩下さい」


 メロウがアナウンスを入れる。


 メンテナンス休憩は元々カリキュラムに入っていたものだ。

 貴族はトイレ休憩などとは決して言わないのだ、下品だからね!

 10分の予定を咄嗟に30分に延長したのは本当にHMGが損傷したからだろう。気の利く女性である。


 修理を10分で済ませ、ゴーレム大好きが使っていたHMGのセーフティを再びオンにする。ついでにトイレを済ませて準備完了だ。


 



 「大変ながらくお待たせしました。これより2回戦第1試合を始めます」

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