トーナメントIF①

 「さぁ次はいよいよ1回戦最後の試合です。まず登場するのはこの大会にピッタリな名前のチームです」


 本命の登場だ。気持ちを切り替えて観戦を楽しもう。


 「青コーナー、チームゴーレム大好き!!」


 5人の男子生徒がペコペコと頭を下げながら登場してくる。

 

 「チームゴーレム大好きは、幼少の頃にゴーレムを通じて友達になった5人組だそうです。学年は4年生が3人と2年生が1人、そして1年生が1人。学年を越えての友情を育んでくれたゴーレム戦で負けるわけには行きません!」


 チーム紹介を聞いて俺は全力で拍手を送る。

 素晴らしい!こういう生徒を待っていたのだ!是非優勝して賞品のHMGシリーズを持ち帰って欲しい。


 「それでは最後のチームにご登場願いましょう。赤コーナー、チーム鍵の無い宝箱!」


 現れたのはコチラも全員男子生徒。

 全員無表情で黙って歩いている。


 「チーム鍵の無い宝箱は全員5年生で構成されたチームです。5年A組の生徒が3人。B組の生徒が2人。どういう関係の集まりなのかは教えてくれませんでしたが、インタビューに全員沈黙で応えてくれた辺り、きっと照れ屋で寡黙なチームなのでしょう」


 チーム紹介をされても鍵の無い宝箱は観客に手を振る事さえしない。うーん、不愛想である。というかメロウのチーム紹介が若干嫌味ぽかったか?おそらくインタビューの時の態度が気に食わなかったのだろう。


 「それでは皆さん、ゴーレムに魔力を流して下さい」


 チラズに促され全員がHMGに魔力を流す。


 「準備はよろしいですね?………はじめ!」


 第1回戦最後の試合がはじまった。


 両チーム陣形は横一列、そこから真正面に進んでそれぞれが1対1の形になった。


 ゴーレム大好きはその名に恥じず、中々にゴーレムの操作が上手い。むかし流行った市販のゴーレムは武器など持っていなかったし、動きも簡単な動きしか出来なかったが、それでもゴーレムで遊んだ経験は間違いなく彼らを強くしている様に思える。


 対して鍵の無い宝箱だが、こちらも中々上手い。流石に昨日見た生徒会の2人ほどでは無いが全員ゴーレムの操作の経験はあると思う。


 「両チーム全く譲らず、勝負は拮抗しております!!」


 現在ポイントはゴーレム大好き32ポイント、鍵の無い宝箱28ポイント。ややゴーレム大好きが押し始めた。


 「―――……―――……」


 ん?聞き取れないが鍵の無い宝箱の生徒の口がなにやら動いている。


 次の瞬間、選手の1人が火球の魔法を使い、それをゴーレム大好きのHMGに向かって放った。


 ―――は?


 「こ、これは?!チーム鍵の無い宝箱が直接ゴーレムに対して火球の魔法を使いました!」


 ゴーレムには耐火の魔法が施されており、全くの無傷だ。が―――


 「ス、ストップ!!」


 慌てて審判を務めていたチラズが試合を止める。


 「反則です!!」


 「……待って欲しい」


 チラズが反則を言い渡すと、鍵の無い宝箱のメンバーが抗議を始めた。


 「何故反則なのだろうか?」


 「何故って―――これはゴーレム戦ですよ!?選手が直接魔法を使って良いワケないじゃないですか?!」


 「最初に行われたルール説明はキチンと聞いていた。禁止事項の説明など無かった筈だ。ルールの後出しは止めて頂きたい」


 「常識的に考えて分かりますよね?!」


 「ルールに無い以上問題ないだろう。常識的に考えて」


 「キミ、頭がおかしいんじゃないのか?!」


 「なんだと?」


 おっと、チラズがヒートアップしている。これは俺が関与した方が良いかな。


 「ちょっと良いかな?」


 「……何かな?」


 「第1回大会だし、明確なルールを記載したルールブックなどを用意するべきだったね。そういった意味でコチラにも非は有るし、そちらの言い分も一部認めるところだ」


 「そうだろう」


 「ちょっとアーバン先輩?!こんな無茶苦茶な言い分を認めるんですか?!」


 「この試合に限りね」


 「そんな……先輩の大事なゴーレムを傷つけようとしたんですよ?許すんですか?」


 「え?」


 「え?」


 「いや、ゴーレムは好きだけど、別に傷ついて欲しくない訳ではないよ?むしろ戦ってこそのゴーレムじゃない?という訳でそちら様もこの試合に限り攻撃魔法の使用を許可するよ」


 「ふっ、素直でよろしい。では続けても?」


 「あ、それはちょっと待ってくれるかな」


 「……何?」


 俺は試合を止めたままチームゴーレム大好きに駆け寄ると、彼らの許可を取りゴーレムに細工をした。いや、正確にはゴーレムに施していた細工を解除した。

 武器に施したポイント制のゴーレム戦様のセーフティの事だ。これで与えるポイントは同じだが、相手の機体を傷つけることが出来る。これがどういう意味かは、後の展開を見れば分かるだろう。ついでにセーフティを解除した短銃タイプの魔法銃を盾の内側に仕込んだ。この魔法銃は今までの魔法銃より小さい代わりに、威力はやや落ちるし、属性も1属性しか放てない。今回は5機に風の魔法短銃を仕込んだ。


 「お待たせ。それじゃ試合を再開しようか」


 「……何をした?」


 「さぁ?」


 「……ふん、まあ良い。どちらにしろコチラの勝ちは揺るがない」


 現段階でポイントで負けてるくせに良く言うよ。


 別にゴーレムを傷つけられる事は怒っていない。まぁ傷ついてないけど。

 そんな事よりも折角ゴーレム戦を楽しんでいた、俺やゴーレム大好きのメンバーの邪魔をした事には少々腹が立っている。


 という事で彼らにはここでご退場願おう。

 ルールに明記されて無いんだ。運営が片方のチームを依怙贔屓しても問題ないだろ?


 なぁに、ゴーレムがちょっとぐらい傷ついても大丈夫だ。その為にメンテナンス要員の俺が要るんだから。


 さぁ、存分に暴れてくれ!

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