45話からのIFルート③

【コーネリア視点】


 テオとテオ・ツーピーを使ってゴーレムの操作の練習をしている生徒たちをみながら、私は日課の剣の素振りをしていた。


 男子に経験者が多いと言っても、彼らが扱っていたゴーレムとはまるで別物なのか、むしろ当時の感覚が邪魔になる場合まであるようだ。これなら女子に不利と言うことは無いだろう。


 それを見ていた不参加組の女子の何人かがトーナメントに参加を申し込んできた。これで女子も7割は参加することになった。

 あまり参加する人数が少ない様なら他クラスの生徒にも声を掛けようと思っていたのだが、これなら問題ないだろう。むしろ少し多すぎて1人当たりの練習時間が予定よりも足りないぐらいだ。


 参加人数は30人。自由時間は6時間なので、練習できる時間は2機で1人当たり24分。時間はフルには使えないので大体20分だ。

 これを今日と明日の2日で計40分。

 うん、ギリギリ足りるだろう。ということで、この時点でトーナメントの参加申し込みは打ち切った。


 初日は基本的な動作確認。

 2日目は2人一組で実戦形式の練習を行った。


 この時点である程度実力のある者は目立っていた。

 特に目立っていたのは2人、剣術で私に次ぐ実力を持つ伯爵家の次男。魔法で学年一の実力を持つ侯爵家の長女だ。


 男子生徒の方は動きが良い。剣術の型をゴーレムに落とし込むセンスがある。自身の剣術がゴーレムでも使えるのなら、彼の操るゴーレムはかなりの難敵になる事だろう。

 女子生徒の方は魔力のコントロールが巧みだ。前にアーバン君に私の身体強化は無駄が多いと言われたことがあるが、ゴーレムの出力強化にも影響がある様だ。明らかに彼女の操るゴーレムの出力は他の生徒の物より高い。


 恐らく優勝はこの2人のどちらかになるだろう。


 ……勝者と私のエキシビションなど楽しそうだな。おっと、これは私欲だな。


 最後の2人の練習を見届けて、この日は就寝した。ちなみにトーナメント表の制作はメイドに頼んである。





 卒業試験当日、せっかくアーバン君に実戦使用にカスタマイズして貰ったのだからと、テオとテオ・ツーピーに魔法剣(斬撃強化バージョン)を装備させてリュック型次元収納にいれて【試しの遺跡】に持っていく。

 とはいっても、私にはウインドブレイドもあるし、出番は無いだろうが。


 なんて思っていたのだが、予想外の事が起きた。

 【試しの遺跡】に出現するはずもない高レベルなモンスターが出現したのだ。

 幸いウインドブレイドで対処出来るレベルのモンスターではあったが、問題はその数だ。

 私1人ではクラスメイト達を守りぬくのは難しい。

 同行している引率の教師たちも数人で1体を相手にするのがやっとの様だ。


 (さて、どうしたものか―――)


 私が対応に迷っていると、後ろから声が上がった。


 「コーネリア様!テオをお貸し下さい!!」


 「王子、私にはツーピーを貸して貰えないかしら?」


 ゴーレムの練習で突出した才能を発揮していた2人だ。

 男子生徒の方は持ち込んだ剣で、女子生徒の方は魔法で対処していたようだが、どちらもモンスターに致命傷は与えられず、防戦一方になっていたところの様だった。


 確かに、この2人ならば他の生徒たちよりも上手くゴーレムを扱えるだろう。

 他のクラスメイト達も文句は無いようだったので、私は頷いてからリュック型次元収納に魔力を流しながらチャックを開いた。


 すると中からゴーレムが飛び出した。

 先ずはテオだ。

 テオを男子生徒の前まで走らせると、そこで私の魔力の供給をカットする。

 それを確認した男子生徒は直ぐにテオに魔力を流して、魔法剣を構えた。


 次にテオ・ツーピーが同じ様に飛び出す。

 ツーピーを女子生徒の元まで走らせると、同じように魔力の供給をカットした。

 女子生徒も直ぐに魔力を流し、ツーピーを操作する。


 2人の戦いも気になるが、先ずは前方のモンスターを片付けるのが先だ。

 私はウインドブレイドに魔力を流し直し、魔物の群れ目掛けて突っ込んだ。


 (1つ……2つ……)


 ウインドブレイドの切れ味のおかげで1撃でモンスターを屠れるが、モンスターの攻撃が直撃すればひとたまりもない。

 私は神経をすり減らしながらモンスターと戦っていた。

 

 (チィっ、さっさっと片付けて後方の応援に行きたいのに―――)


 そんな時、私の横を小さな青い影が横切った。その次に同じぐらいの赤い影が横切る。

 テオとテオ・ツーピーだ。


 私の横を通り過ぎた2体の騎士型ゴーレムは次々とモンスター共を薙ぎ払っていく。ほとんど防御を気にしていないツーピーは力技でゴリ押し、テオは盾を上手く使いながら防御をしつつも、やはり生身では無いのである程度のダメージは無視しつつ戦っている。


 2体のゴーレムは瞬く間にモンスターの群れを殲滅してしまった。

 後ろを振り向けば、後方のモンスターは全て倒されていた。


 「今ので最後か?」


 「そのようね」


 周囲のモンスターを殲滅した事を確認すると、教師と生徒たちから歓声が上がった。


 まったく、騎士も形無しだな……私の場合はまだ内定が決まっているだけの、騎士見習いですらないが。


 予定とは違うが、アーバン君に頼まれていたゴーレムの宣伝は大成功と言えるだろう。

 彼が望んでいた展開にはならない気がするけれど。



 その後、周囲を警戒しつつなんとか【試しの遺跡】を脱出すると、何故がそこに少数の騎士を連れた第4王子がいた。


 「何故第4王子が此処に?病気療養中では?」


 もちろんそれが嘘である事は知っているが、王家の公式な発表を否定するわけにはいかない。


 「わ、私は……」


 第4王子が何かを言おうとするが、直ぐに傍にいた騎士が王子に何やら耳打ちすると、王子は言いかけた言葉を飲み込んでしまった。


 「て、撤退する!」


 王子がそう宣言すると、騎士を連れてさっさとその場を去ってしまった。


 大方今回の騒動の原因は王子にあるとみて間違いないだろう。

 国への報告は教師たちに任せて、私は父に報告して、それで終わりだ。調査は父に任せよう。


 それにしても疲れた。今日はゆっくり休みたい。


 「あ、あの王子……いえ、コーネリア嬢」


 声を掛けられて振り向くと、ツーピーを駆使してピンチを切り抜けた勇ましい筈の令嬢が、申し訳なさそうな……むしろちょっと泣き出しそうな表情でツーピーを両手で抱えていた。

 見るとツーピーはボロボロだ。左腕なんて取れかかってしまっている。


 「も、申し訳ありませんわ。このゴーレムがどれほど高価な物でも、我が家の名にかけて、必ず弁償させて頂くわ」


 今にも泣きだしそうな女子生徒には悪いが、実はそれは問題ない。部活でのゴーレム戦では良くゴーレムが大破…とまではいかないが、中破ぐらいはする。その度アーバン君がゴーレム魔法であっという間に直してしまうのだ。

 とは言っても直せるのはアーバン君だけなので、今この場での修理は不可能だ。

 というかアレは本当にゴーレム魔法なのだろうか?私が知っているゴーレム魔法はただ石人形を作れるだけの魔法なのだが。

 真似しようとした事はあるが、そもそも私にはゴーレム魔法の才能が無いらしく、普通のゴーレム魔法ですらかなり不格好な石人形になってしまったので諦めた。


 「心配ないよ。持って帰れば修理が出来る。だから泣かないで、お姫様」


 普段は私を王子と呼んで揶揄ってくる彼女を、姫と呼ぶ事で揶揄ってみた。

 彼女は顔を真っ赤にして照れている。

 そんなシーンを見た周りの女子生徒たちからは黄色い悲鳴が上がるのだった。

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