45話からのIFルート➁
【コーネリア視点】
「まったく、アーバン君も人が悪い。こんな良い物を出し惜しんでいたなんて」
私は馬車に揺られながら小さな、とは言っても20センチ以上はあるが、魔法剣に魔力を流していた。
バチバチと青白い光が剣のシルエットをなぞる様に走る。
雷魔法……極めて扱いが難しく国内で雷属性の攻撃魔法【雷撃】が使えるのは片手で足りる程少ないといわれている。その属性の魔法剣だ。一体どれほどの価値があるか分からない。もしかしたらこのミニチュアサイズの剣一本で王都に屋敷が建つかも知れない。
ただ、私にとってこの魔法剣の価値は値段ではない。その美しさだ。
浮気をするようでウインドブレイドには申し訳ないが、是が非でも実剣サイズの雷属性の魔法剣も作ってもらわねば。
ウインドブレイドの時は断られたが、報酬として私自身を差し出すのもやぶさかでは無い。勿論嫁としてという意味でだ。
ネフィス家は侯爵家の中でも特に発言力の高い歴史と実績のある名家だ。グランシェルド家にとって悪くない話だろう。アーバン君はそういった事にあまり興味がなさそうだが、我が家の方から直接グランシェルド伯爵家に釣書を送るのも手だろうか?
恍惚とした表情で魔法剣を眺める私を、訝し気な表情で眺める馬車の同乗者である5人のクラスメイト達の視線に気づいて、1つ咳ばらいをしてからそっと一緒に手渡されたリュック型次元収納の魔道具にしまう。
これが次元収納の魔道具だと気づいたクラスメイト達の表情がぎょっとしたものに変わった。
次元収納の魔道具が世に出てまだ日が浅い。手元に持っているのは王族か余程の大貴族だけだろう。ネフィス家の長女たる私が持っていても不思議ではないだろうが、実際にその目で見て驚いたのだろう。
(国家魔道具師たちに制作が可能になった次元収納の魔道具より、先ほどの魔法剣の方がよほど価値があるのだがな)
それに気づけない彼女らに、少しの落胆を覚えつつ、笑顔を張り付けて次元収納の自慢話を切り出す。
「こちらは、最近発明された次元収納の魔道具でね。父に無理を言って手に入れて貰ったものだ」
勿論嘘だが、これの出所がアーバン君だと分かると学園中の生徒が彼に群がって大変な騒動になるだろうから必要な嘘をついた。
と言っても鼻の利く連中はとっくにアーバン君に目を付けているだろうが。
「まぁ、流石ネフィス侯爵ですわね。手に入れるのは当分不可能だろうと言われていましたのに」
「ときに先ほどの小さな剣は?私には魔法剣の様に見えましたが?」
別のクラスメイトに問われて私は準備をしていた台詞を答える為に次元収納からテオを取り出した。
アーバン君にゴーレムの宣伝を頼まれていたので、そちらをこなす為だ。
「その魔法剣はこのゴーレム専用の武器だ」
そう言ってテオを両手で持ち上げて皆に見せる。
「まぁ、これがゴーレムですの?」
「まるで小さな騎士の様ですね」
「こちらは魔道具研究部に持ち込まれたゴーレムでね。名前はテオという」
「テオ……伝説の英雄の名前から戴いたものですね?」
「ああ、その通りだ。少し動かして見せよう」
テオに魔力を流し込んで馬車の床に置く。
テオはゆっくりと立ち上がって剣を胸の前に掲げた。
ちなみに今掲げているのは木剣だ。こちらはゴーレム同士を戦わせて遊ぶ時に使うように持たされた。
その後簡単な剣術の型を披露して見せた。
まぁ、と周りの女子生徒たちから感嘆の声が漏れる。
「皆は幼少のころゴーレムで遊んだ事はあるだろうか?」
「いえ。ゴーレムと言えば殿方の遊びでしたし」
「その騎士の姿をしたゴーレムは素敵だとは思いますが……」
まぁ、そうだろうな。女子生徒の受けは良くないだろうと踏んでいた。
そこで念の為に持ってきた別のゴーレムをリュック型次元収納から取り出す。
妹のサリーにお願いして貸して貰ったぬいぐるみゴーレムのシェルだ。
シェルはサリーのお気に入りだったが、最近はスノーや他2体のぬいぐるみゴーレムもあるので、割とすんなりと貸して貰えた。
「それは?ぬいぐるみの様ですが……」
「まさかそれも?」
「そう、ゴーレムだ」
テオを一度次元収納にしまい、代わりにシェルを床に置く。
シェルに魔力を送り、立ち上がらせる。
シェルは挨拶をするように片手を挙げたあと、くるりと1回転して、あざとく尻もちを付く。といっても私が操作しているわけだが。
「か、かわいいですわね」
「このゴーレムは何処で購入した物なのですか?」
「これは特注品でね。売ってはいないんだ。我が魔道具研究部ではこういった非売品の魔道具も数多く扱っているんだ。どうだい?少しは興味を持って貰えたかな?」
ほとんどアーバン君のお手製だけどね。
「あ、あの。そのゴーレム、少し動かしてみたいのですが?駄目でしょうか?」
「シェルをかい?ぬいぐるみゴーレムは繊細だからね。先ずは丈夫な騎士ゴーレムで練習してからになるけど、良いかい?」
「は、はい」
「では―――」
私はテオ・ツーピーを取り出して女子生徒の前に置いた。シェルは念の為に次元収納に入れておく。
「あれ?先程のと色が違いますわね」
「そちらはテオ・ツーピーという。基本はテオと同じだよ。今回ちょっとした理由で2機持ってきているんだ。おっと、シェルを合わせると3機だね。それじゃ、早速ツーピーに魔力を流してみて」
「分かりましたわ。では――」
こうして、私たちを乗せた馬車は和気あいあいと旅路を進んだ。
ダンジョンに挑むのは2組ずつとなっている。
宿に到着した翌日にE組とF組。その翌日にC組とD組。最後に私の所属するA組とB組の順番だ。その後1日宿泊してから帰路につく予定となっている。
ダンジョンに潜る日以外は基本自由時間だ。キャンプ(と言っても用意をするのは連れて来た使用人たちだが)や、お茶会(勿論使用人が準備をする)などで親睦を深める目的がある。
さて、私にはその間にやる事がある。アーバン君に頼まれたゴーレムの布教だ。
……それにしても布教とは変わった言い回しをするな。
この行事用に用意されている宿泊先の庭でクラスメイトの女生徒たちにゴーレムの操作をレクチャーしていると男子達もやってきた。
彼らは幼少期にゴーレムで遊んでいた者も多い様で、操作に自信があるものも多い様だった。
「私ならネフィス様より上手く操作出来ると思いますよ」
と、ニヤニヤしながら話かけて来たのは子爵家の長男の男だ。
彼は何かと私に突っかかってくる。私が王子などと呼ばれることが気に食わない様だ。以前演劇部の劇にゲスト出演させられた時に、王子役をやらされたのだが、それ以降王子と呼ばれるようになってしまったのだ。別に悪い気はしないが。
剣の腕でも魔法の腕でも筆記試験でも私に勝てないので、チャンスだと思ったのだろう。
「ふむ。順番待ちも多いので1戦だけお付き合いしよう」
私はツーピーを彼に貸し、3分ほど動作確認の時間を与えた。
「な……なんだこのゴーレム?!信じられない動きが出来るぞ!!」
それに関しては同感だ。もともと市販のゴーレムとは一線を画す性能をしていたアーバン君製のゴーレムだったが、出力強化を施された今はもはや生身でテオに勝つのは不可能だと思えるほどの性能を誇っている。たかが50センチのゴーレムにだ。それが魔法剣や魔法盾まで持っているのだから、もはやコレは兵器と言える気がする。
「勝てる!これなら間違いなく勝てるぞ!!」
などと興奮している男子生徒に呆れてしまう。
(私のテオも同じ性能なのだがな)
結果は言うまでも無いだろう。
普段からアーバン君の相手をしている私にとって彼は敵ではなかった。
「い、インチキだ!」
などとほざく彼を他の男子生徒が後方に引きずって連れて行った。
「さて皆。そのツーピーだが、実は所持者から許可を貰っていてね。遠征の最終日にトーナメント形式でゴーレム戦を行おうと思っているのだが、その景品にしても良いとの事だ。非売品で持っているだけで公爵にだって自慢出来る程の一品だ。振るって参加して欲しい」
私の提案に、特に男子たちが大きな歓声を上げた。
これもアーバン君に頼まれていたことだ。
一度操作すればその素晴らしさが分かって貰えるだろうとのことだ。
それにしても、あの炎の魔法剣まで景品として付けてしまうのは、あまりに勿体ない気がする………
いや、製作者のアーバン君が良いと言うのだから私がとやかく言うのはお門違いなのだろうが…………
はっ!?私も参加すれば良いのでは!!
なんて、流石に駄目だよな。
ちなみに、クラスの男子生徒の9割と、女子生徒の5割がトーナメントに参加を表明をした。
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