第5話 おお、私にも血が流れていたのか

 布団に横になり、ちらっと目覚まし時計を見たら、針は午後10時を指していました。この時計が何らかの意図で狂わされていなければ、異変が家族に知れてから2時間が経過していることになります。医院にいた時間は短かったので、たぶん、放置されていた時間が、それなりだったようです。

 父によれば、先生は注射のときに「これを打てば数時間でよくなる」と言ったらしいので、期待して眠りました。

 数時間後の効き目がどの程度だったかというと、夜中に目が覚めて「全然効いてないじゃん!」と叫ぶことができるくらいには回復していました。


 翌朝。

 まだ、クラクラする頭を守りながら試験に行く準備をしていると、鼻の奥からツーっとあたたかいものがこそばゆく流れ落ちてきました。

 おお、血! 血!(※以下3文字空白。)

 のぼせてもいないのに、鼻血を出しました。10年振りくらい。

 出発の時間が迫っていたので、鼻ぽんしたまま、会場へ。大丈夫、今日は面接の日じゃないから。

 途中、2回ほど鼻ぽんを変えるうちに血は止まり、会場に着くころには、すっかり就活中のお姉さんに変身。ちゃんと鼻の周りはぬれティッシュで拭きましたよ。死角はありません。準備万端。れつごー。

 その試験はともかく、その後面接がありまして、どうやらご縁がありませんでしたようで……。

 当時は就職氷河期だったこともあり、文系の大学院卒女子は就職先がないといわれていました。けっこう、かけていた公務員試験だったのに、そんなにがっくりもしませんでした。


 だって、めまいと耳鳴りと吐きけが治ったんだもの。

 再度、医院にうかがったら、先生に、再発の可能性があること、ストレスをためないようにするのが大切なことなどを伝えられました。どうやら、就職活動のストレスがきっかけだったみたいですね。

 ストレスをためないように、という言葉は堪えました。

 これからも就職活動は続くし、修論だってあるんだぜ、どこからストレスを抜きゃいいのよ。

 ――私なりに考えました。

 修論は出さないと大学院を修了できません。

 このストレスはどうしようもない。

 そんなわけで、就活をやめました。

 だって、メニエール症候群、すごくしんどかったもの。もう、なりたくない。


 そして、もっと楽にいこうと始めたことが1つ。 

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