第10話 反旗
玲達が会議室を出たとこまで時は遡る。彼らは榊原に連れられ、少し離れた一室で話し合いを始めようとしていた。
「さてと、私の計画について話すとしようか。決行は明日の早朝。4地点で同時に行う。まずは、滅幻に潜むネズミを殲滅する。そして、最終目的として総司令を殺す」
「そいつもなのか?」
榊原の説明に対し、麗奈は冷静に質問をする。
「ああ。一度会った事があるが確実だ」
「そう。それでそいつは何処に居る?」
「それが問題だ。私も把握していない。だから、その探りを各場所で行って欲しい。方法は好きに取ってくれて構わない。まあ、一番場所として濃厚なのは北部だろうがな」
そう言って榊原は箕輪を見る。
「分かってますよ。それで、錦華家の方は大丈夫何ですよね?」
「ああ、工作員を忍び込ませた。時間稼ぎにはなるだろう」
「了解です」
「ねえ...」
その時、榊原の隣にいた藤堂が口を開く。その顔に浮かぶ作り笑いは見る者を不気味に感じさせるような表情であった。
「何だ?」
「全員...殺して...いいよね...?」
「関係ある奴だけだ。それ以外を殺したら私がお前を殺す」
「ふふ...」
「速水、絶対こいつの手綱を緩めるなよ」
「はいはい、了解ですよ」
「ならお前ら3人は先に戻っていろ。もう話すことはない」
榊原がそう言い、3人は自身の基地へと戻っていくのであった。そんな中、榊原は今度は玲と優愛に話しかける。
「さて、久しぶりだね君達。元気していたかい? それと何処まで進めてくれたかな?」
「優愛と協力して東京大基地の人間は全員調べ終えました。ただその過程で分かったのですが、優愛の能力は一部の人間には通じていませんでした。そのため、軍長については確認が取れてないです」
「ご苦労。軍長レベルなら恐らく白ではある。だが、警戒はしておいてくれ」
「はい」
「どういう事? 2人に何をさせた?」
話に取り残されてしまった麗奈は、榊原を睨み真意を探ろうとする。
「そんな目で睨むなよ。ならこいつにも教えてやってくれ」
「はい。えっとねお姉ちゃん、私の能力が魂を見れるのは知ってるでしょ?」
「うん」
「その時に、人間かどうかの区別が出来るの」
「...なるほど。榊原、それで優愛に接触したのか」
「それは偶然だ。たまたま出会ってそこで能力について聞いただけだ」
「それで気になってたのですが、他のとこは判断が出来てるのですか?」
「ああ。西部は私が、南部は藤堂が行える。北部に関しては私が手助けをした」
「了解です」
「では何度も言っているがこの事はまだ安易に口に出さないでおけ。この情報が奴らに対する強襲になる。信用できても出来る限り話すな。少なくとも基地内では会話は全て聞かれていると考えろ。現にここに来ていくつか盗聴器を見つけた」
「えっ、嘘!! それってここもやばくないんですか?」
「私の能力で妨害している。今は問題無い」
「優愛の能力で人間だという確証が取れても駄目か?」
「我々に組するなら許してもいい。だがそんな者は現れない。それが国の現状を示している。という事で、君達も上手くやれ。じゃあな」
そう言って榊原も部屋を去っていく。
「それで、明日どういう感じで動けばいいの? 私絶対途中で失敗しちゃうと思うんだけど」
「玲と優愛は取り敢えずいつも通り明日を迎えて。多分監視は付くだろうけど大胆な行動には出てこないはず。それで、私が明日一番に基地に軍機で突っ込む。それを合図に行動して」
「え!? それって大丈夫なの!?」
「大丈夫。大基地には対空装置も付いてるらしいから余計な被害者は出さない」
「わかった。それじゃあ姉さんは常に優愛と無線で繋がってて。それで位置を伝えるから」
「うん。絶対に死なないでね、2人共」
「縁起でもないこと言わないでよ〜」 「上手くいくさ、姉さん」
2人の言葉を聞き、麗奈は安堵の表情を浮かべる。そして、麗奈も長野基地へと戻っていくのであった。
そして、翌朝。麗奈は何年ぶりかの自力での早起きを達成すると天ノ川を呼び出す。
「キラリ、軍機を用意して」
「え? いいですけど、何に使うの?」
「今は言えない。すまないな」
「えっと、まあ、わかりました。格納庫にあると思うので整備してきますね」
「頼む」
そうして、天ノ川は作業へと取り掛かる。
(さて、こっちは済んだ。問題は...刃だな)
麗奈がそんな事を考えていると、予想通り武藤がやって来る。その様子からして既に怒りが溜まっている様子であった。
「軍長!! 朝から何をする気ですか? 今キラリが格納庫に向かっているのを見ましたし、少し前から様子がおかしいし何を考えてるのですか!?」
「今は話せない。だが安心しろ。もうお前に迷惑はかけない」
武藤は麗奈がどこか覚悟を決めた様子である事を感じ取る。
「本当に...信じていいのですか?」
「...ああ」
「わかりました、それならもう私からは何も言いません」
そう言うと武藤は麗奈の下から去っていく。そして、麗奈は今直ぐ出発可能になっている軍用機へと乗り込む。
「軍長、気を付けて下さいね。運転方法はそこに軽くメモしといたんで、余計にボタンとか押さないでね」
「うん、ありがとう」
麗奈はそう言って基地を飛び立っていく。
東京大基地の司令室は大混乱が巻き起こっていた。基地に向かって一直線に向かっている機体の姿を確認したのだ。
「し、司令の指示を仰がないと!! どこに司令は居るのですか!?」
「お、落ち着け!! 連絡を入れた。直に来てくださるはずだ」
「今直ぐ対空兵器を用意するべきでは!?」
「馬鹿野郎、今それを使ったら周囲への被害は計り知れないぞ!!」
「で、ではどうするのですか!?」
と、目も当てられない程の右往左往っぷりであった。しかし、1分程度経つと東が到着する。
「全員今直ぐ落ち着け。それで状況は?」
「は、はい。全長21.1mの軍用機が東京大基地目掛けて接近しています。予想接触時刻は約15分後です」
「アナウンスをかけて非戦闘員はシェルター内に避難させろ。戦闘員には万が一に備えて武装命令を出せ。それから開発部門に今直ぐ予想突撃位置に緩衝シールドを貼らせろ。では全員行動に移せ」
「「了解です!!」」
先程までの慌てっぷりが嘘のように、東によって司令室員達は統制される。そんな様子を見ながら東は他の事を考えていた。
(これは確実に九十九の仕業だな。これは私がこう対応する事に賭けてなのか、はたまた被害は厭わないという事なのか。どちらにしろ企みは阻止させてもらおう。だが、まさか昨日の今日で行動してくるとはな。いや、待てよ。何か見落としが...)
東は有ることに考えが至り急いで無線を手に取る。通信相手は巴根城であった。
「巴根城、監視させていた2人は今何処に居る?」
『司令? 急ですね。彼らはさっき確認した時は食堂で朝食を取っていましたよ』
「違う、今だ」
『ちょっと待っててください。ああ、他の隊員達と一緒に集められていますよ』
「そうか...」
それを聞き東は再び暫く考え込む。
(動くならここだと思ったのだが、他に狙いがあるのか?)
「司令!! 衝突します!!」
室員の1人がそう叫ぶと同時に、凄まじい揺れが基地全体に起こる。
「報告します。機体からは九十九第1軍長と思われる方が1名出現。西棟は3階以上が崩壊しており、軍長は2階廊下に現在立っています」
「了解だ。全ての軍長を向かわせろ」
東はそう命令するのであったが、その時今度は巴根城から通信が来る。無線越しでも分かるほどに巴根城は焦っている様子であった。
『司令!! あの2人勝手な行動を始めました!! 恐らく今向かってる先は北棟のシェルターです。ですが、その前に奴ら隊員を何人か殺しやがった』
「...」
(殺人だと!? そこまでやる目的は一体...いや、そんな場合ではないな)
東は2人の想定外の行動に困惑するも、司令としての責任から迅速な対応をすることにまず意識を向ける。
「お前と及川で2人を捕縛しろ。それが上手くいけば人質として九十九との交渉材料になるはずだ」
『了解です』
そうして無線が途切れる。東は無線を置くと、麗奈の映るモニターへと目を移す。すると、そこには1人の男が麗奈の前に立ち塞がっていたのであった。
「私は上手くいった。そっちはどう?」
麗奈は建物へと降り立つと、通信機で会話を始めていた。その相手は勿論優愛である。
『うん、大丈夫。戦闘員の中のは全員殺したよ。今私達は北棟に向かってるからお姉ちゃんは南棟をお願い。着いたらまた教えるから』
「わかった」
そうして通話が終了する。そして目の前に立つ男――牙煌へと意識を向ける。麗奈は取るに足らないと判断して、通話中から気付いてはいたが放置していのだ。
「よお、お喋りは済んだか? ようやく本性を表しやがったな、このクソ女が!!」
「邪魔だ。余計に時間を使いたくはない」
「そうかよ。じゃあ使わせてやるよ!!」
そう凄むと麗奈へと拳を放つ。ただ、それは勢い虚しく空を切る。麗奈は軽く姿勢を落とすと、がら空きの脇腹に蹴りを入れる。牙煌はそのまま壁へと衝突する。しかし、牙煌は麗奈の思いの外あまりダメージを受けていないようであった。
(...? 手応えはあったはず)
「何だよ、どうして俺が倒れてねえとでも言いたそうな顔だな。舐めんなよ!! 〝
牙煌がそう叫ぶとエネルギー弾のような物が麗奈目掛けて放たれる。麗奈は受け流そうとするが、肌で嫌な予感を感じ取ると腰に差していた断天を抜く。牙煌の攻撃は断天に直撃し発散される。麗奈は表情をピクリとも変えていなかったが、内心では牙煌の事を見直していた。
(断天を使わなければ腕に損傷が入っていた。軍長になれるだけは強いという訳か)
麗奈がそう考える中当の本人は悶絶していた。左手の指が折れ曲がっており出血している。
「くっそ、痛えな」
(あの蹴りだけでこれかよ...ふざけやがって)
牙煌光己、彼の能力は”
「終わり? 良い攻撃と思ったのにその程度か」
本当に残念そうに言うと麗奈は断天の峰で倒れ込んでいる牙煌の頭をぶっ叩く。
「なっ!?」
流石の麗奈にも動揺が表れる。それも当然で攻撃を受けたはずの牙煌が立ち上がってきたのだ。そして、
「〝
至近距離で今度は放たれるが麗奈の一振りにより薙ぎ払われる。反対に牙煌は右手も粉砕してしまい力無く体を地に伏す。
(小出しでもまだ駄目かよ。何てパワーしてやがる)
そう、この技は自身の力以上のエネルギーを放つ時、体が耐えきれなくなってしまうのであった。しかし、麗奈はそんな事はお構い無しに蹴りを繰り返す。暫くは牙煌は耐えていたが最後の一発が入った時気絶してしまう。
(なるほど、ある一定まではダメージを消せる感じだったか。だが、その割には大した事なかったな。さて、南棟へと行くとしよう)
牙煌の事はすぐに意識から外れ、麗奈は自分の目的を果たそうと行動を再開するのであった。
麗奈が牙煌を倒し終えた頃、玲と優愛は北棟のシェルターへと到着する。中には多くの非戦闘員――主に開発部門の者達が集まっており、不安や焦りの声で部屋が満たされていた。
「優愛、どうだ?」
「ここには8人だね。全部事前に確認したのだけみたい」
「わかった」
優愛にそう返答すると、玲は大勢に向けて声を張って指示を出す。
「今ここに居る皆さん、全員整列してください!! 東司令からの指示で人数の確認を行います!!」
「様になってるじゃん」
「うるさい」
2人が軽口を叩いている間に、綺麗な列に全員がなって2人の方を見ていた。
「よし、優愛」
「えっと、1列目の右から5番目と8番目と――」
玲はそれを聞き終えると、順番に対象を拳銃で撃ち殺していく。その流れるような所作で素早く確実に彼らの胸は貫かれるのであった。それを見た他の人達は恐怖からパニックになるのだが、玲は気にせずにシェルターを後にする。優愛もついていくと廊下を出て階段を登り終えた所で玲が立ち止まっていた。玲の更に奥には及川と梢原が立っていた。
「優愛、戻って別の道から行け!! 今直ぐだ!!」
「もう遅いよぉ」
玲に従って優愛は慌てて方向転換するのであったがその先には巴根城が立ち塞がっていた。優愛は玲に近寄ると早口で捲し立てる。
「こっからどうするの!? 軍長2人じゃ敵うわけないよ!! どうしよう!!」
「落ち着け、優愛。俺がどうにかする」
「殺人犯の割に勇敢だな。どうだった洸二?」
巴根城は後ろからやって来た天舞洸二に尋ねる。
「はい、8人が殺されていました」
「そうか。いいか、君達2人は私達に犯罪者として大人しく捕まってもらいたい。どうだ? 手荒な真似はしたくない」
「断る」
玲は巴根城の提案を即答で拒否する。
「残念だ。葉月、手早くいくぞ」
「はいはぁい」
「玲!?」
「優愛、あの話信じて良いんだよな?」
「え? ああ、あの時のね。うん、本当だよ」
そう言いながら優愛は昨日の夜に部屋でした話を思い出す。
「玲、気になってたんだけど、あれどうにかなったの?」
「あれ? 何の話だ?」
「代償の寿命だよ!! 魂見たけど少し戻ってるじゃん!!」
「そうなのか? あの救護長のおかげか。それなら明日少し無茶が出来るな」
「でも、万が一の事を考えて出来るだけ使わないほうが良いよ」
「わかってる」
そんな会話があったなあ、と思い返している優愛を横目に玲は覚悟を決める。雰囲気が変わった事に気が付いた及川はある事に思い至る。
(確か報告だとあの時巨大な亀が出現したって聞いたけどぉ...もしかして!?)
「皆1回下がって!! 危ないかも!!」
それを聞き他の3名は一度距離を取る。そんな中玲が能力を発動させる。
「召喚〝
優愛を守るように体長3m程の白い体毛を持つ虎が出現する。その模様は黒ではなく青白く光っており、爪は黄金に輝いていた。
(亀以外もあったんだねぇ。こっちも結構やばそうかもぉ)
及川が冷静に分析する中、巴根城が玲へと尋ねる。
「何故その能力を隠そうとした? 何の問題があった?」
「それを言ったら殺してくるだろ。だから言わない」
「最後の交渉も叶わないか。非常に残念だ」
こうして和解の余地は無くなり互いに対立を覚悟する。ここから苛烈な戦闘の火蓋が落とされる。
場所は変わり、大阪大基地。その屋上で榊原は1人立っていた。その体には微かに電流が走っている。
(さて、私の仕事は終わったが他はどうだか)
そんな事を考えているとスマホに電話がかかってくる。速水からであった。
「何だ、手こずっているのか?」
『い、いや全部殺したつもりだったんすけど、藤堂が半殺しにして遊んでるんすよ。僕じゃ止めれないし、まあ敵だからいっかって感じではあるんすけど』
「直ぐに殺せ。お前がとどめを刺すんだ。藤堂には命令に従わないのなら私が殺すと伝えておけ」
『それ、僕が言うんすか...?』
「当たり前だ」
そう言って榊原は通話を強制終了する。
(こうなると他も確認したほうが良いな)
そう思い箕輪へと電話をかける。暫くして通話が始まるが、箕輪はどこか焦りの入った口調であった。
『ボスですか? どうかしました?』
「私はもう終わった。他の首尾を確認しているだけだ。で、どうなんだ?」
『最悪ですよ。まだ半分程度です。ジジイが邪魔しに出てきやがった。相性悪いし、あっちはボケてんのか知りませんけど殺す気で来てますよ。俺も殺しちゃ不味いですよね?』
「構わないが私の手で葬られるだろう」
『ですよね。取り敢えず粘るんで、出来れば援護をお願いしたい』
「わかった、少し待っ――いや、悪い。1人で頑張ってくれ」
『え、ちょっ!? どう――』
箕輪はまだ何か言いかけていたが気にせず電話を切る。何故ならこちらに近づいてくる気配を感じたからだ。榊原が感づいた通り背後から九条が現れる。
「よお。まさか殺しをしてくるとはな。お前はそういうのが一番キライじゃなかったのか?」
「悪を殺して何が悪い? それで何のようだ?」
「一連の反逆者を捕まえろというのが総司令からの伝達だ。ま、そういう事だ」
「そうか、やれるものならやってみろ」
「勘弁してくれや。朝からお前と闘うなんてよ。それよりこの行動の意味を俺にも教えろ。長話で頼むぞ。体を動かすのは日中ぐらいが丁度いい」
「...まあ良いだろう。ここなら誰にも聞かれまい」
「ああそれが良い」
そう言って柵を背もたれに九条は座り込む。
「まずはそうだな。知っているか、幻獣は人間を乗っ取れる」
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