第9話 集結

 麗奈と武藤は長野基地へと到着する。2人が帰ってくるなり天ノ川が慌てた様子で飛び出してくる

「大変だよ!! 明日、召集会議をするって伝達がさっき来たの!!」

「それがどうした? 特等が来たのだからそれ関連の会議をするのは当たり前じゃないか」

「違うよ!! 今回のは東部だけじゃなくて4軍全体での会議なの!!」

「は? どうしてそんな事態になっている。上はこの件を重く捉えているのか?」

「それで詳細は?」

「場所は東京大基地で各軍から司令と第1・2軍長と、加えて各軍長は指揮官以上の者を2名までとのことです」

「そう、わかった」

「え!? 軍長行くの!?」

「ああ」

「えー!?」   「急にどうしたんですか!?」

 いつもの麗奈だったら会議は必ずサボっていたので2人は信じられない気持ちで一杯であった。そんな2人を前に麗奈は少しムッとする。

「私はもう休む。お前達は夜まで働いていればいい」

「ちょっと、軍長。怒らないで下さいよ。軍長がその気なら私もお供しますから」

「あ、いや。明日は玲と優愛を連れていきたい」

「? 何でですか?」

「...2人にはそういう体験が必要だと思った」

「軍長!? 何で急に目を逸らすのですか!?」

 武藤の言う通り、麗奈は不自然なまでに目が泳いでいた。そう、麗奈は隠し事が出来ないタイプなのであった。

「逸らしていない。とにかく、それでいい?」

「わかりましたよ。何考えてるかは知りませんけど、まあ一様軍長の建前は理解できますしね」

「建前ではない。では私はもう休む」

 麗奈は分が悪いと判断したのか、一方的に言葉を被せると足早に部屋へと去っていくのであった。




 そして翌日、会議の開始が正午であったので麗奈は早めに東京大基地へと向かい玲と優愛を探していた。2人は午前の訓練を受けていた。そこに麗奈が現れると、早川は驚いた様子で慌てて麗奈を迎え入れる。

「どうなされましたか、九十九軍長?」

「玲と優愛を借りていく」

「了解です。用件はそれだけでしょうか?」

「ああ、そうだ」

 それを聞き早川は2人を呼び出して麗奈の下へと向かわせる。そして、直ぐに切り替えると再び訓練を再開させたのであった。




「それでどうしたの、麗奈お姉ちゃん?」

 3人は場所を移し、基地内のカフェで休憩を取っていた。優愛はここまで特に詳しい説明をされなかったので、遂に我慢できずその理由を聞くのだった。

「2人には今日行われる会議に一緒に出て欲しい」

「え? 会議ってどういう事?」

「ただ出席するだけでいい。会議中は話を聞いてるだけで喋る必要はない」

「ならどうして俺達が必要なの?」

「それは...」

「え、何々? どうしたのお姉ちゃん!?」

「ごめんなさい、私はあなた達に嘘をついた。どうか許して欲しい」

 玲が質問すると、麗奈はそう言って2人に頭を下げる。

「姉さん? 嘘ってこの前の話の事?」

「うん、そう。私が言わなくてもバレてたのね」

「お姉ちゃん、嘘つくの下手なんだもん。でも、じゃあ榊原さんに会わせてくれるって事?」

「そうなる」

「姉さん、どうしてあの時隠そうとしたの?」

「あいつは余り信用が出来なかったから。あなた達に万が一が会ったら困ると思って。本当にごめん」

「もう謝らなくていいよ。それより、会議に出席するって事は彼も軍長?」

「そう、あいつは西部軍第1軍長。私と同じ0級」

「えー!? あの人そんな凄い人だったの!?」

「待って、なら姉さんも幻獣の根絶を目指してるってこと?」

「当たり前でしょ。私は奴らを許す事は絶対に出来ない。さて、そろそろ会議室に行こう。もうすぐ始まる」

 麗奈は席を立ち上がりそう言うと2人と共に会議室へと向かうのだった。




 3人が入室すると部屋には既に6名が集まっていた。玲の見知った人は東と及川、そして梢原であった。机を挟んでその反対側には2人の男性が座っており、その1人の後ろにお供の男性が控えていた。玲と優愛は、スーツを綺麗に着こなす足を組んだ男性――榊原匠がそこに居るのを見て声を掛けようとする。しかし、榊原はそんな2人に、今は話しかけるなという風に目配せをして黙らせる。その後、麗奈が及川の隣の席に座ると、及川は意外そうな目で麗奈を見ながら話しかけてくる。

「会議に参加するなんてどうしたのぉ、麗奈ちゃん? 何処か体がおかしくなっちゃったぁ?」

「そうかもしれない。あなたが居ることを失念していた」

 及川の煽りに対して、麗奈も嫌味で反撃をする。そんな空気を破ったのは榊原の隣に座る、人が良さそうなオーラを醸し出す逞しい体をした男であった。

「御二人、無意味な口論は止めてください。我々は仲間であって敵では無いのですから」

「分かってるよぉ。ちょっとしたじゃれ合いだってぇ」  「誰だお前は?」

 及川が彼の真面目な言い分に呆れる中、麗奈は見知らぬ物から忠告され面白くない気持ちであった。因みに玲と優愛は麗奈が誰かしらと喧嘩を始めるだろうと、会議前の時に予測していたので無の心を持つことで今の状況を静かにスルーしていた。また、梢原はいつもの無表情であり、東はこの展開に内心頭を抱えていたが表には出さず無表情を保っていた。

「失礼、初対面でしたね。私は西部第2軍長・天舞丈一あままい じょういちです。そして、後ろに立っているのは副軍長である早乙女龍呀さおとめ りゅうがです。九十九軍長の事は一方的ですが存じていますよ」

「はっ、相変わらずのお堅い野郎の声がしてくるな」

 天舞が麗奈への自己紹介を終えた時、武藤を超える程の鍛えられた肉体を持つ男がそれに横槍を入れながら会議室へと入ってくる。

「兼悟、来ていたのか」

 男――九条兼悟くじょう けんごに対してまず反応を見せたのは東であった。

「大智か。久しいな。って何だよ、まだ全員揃ってねえのか。俺が最後になると思ってたんだがな」

 椅子に座りながら九条は愚痴をこぼす。しかし、それから間もなくしてまた別の者達、2人の男性と1人の女性が部屋へと入ってくる。

「どうも、お待たせしました」

 背中に狙撃銃を抱えた男は飄々とした感じで謝罪しながら長身の女性を後ろに連れながら椅子へと歩く。

「南部司令は何故いない? 遅れているのですか?」

 天舞は男――速水慎はやみ まことにそう尋ねる。その言葉には少し怒気が含まれているようであった。

「その事ですか。司令は別件で忙しいんで僕達だけが来たって訳です。ああ、そういえば彼女はこういう場所に来たことがありませんでしたね。彼女は半年程前に第2軍長に就任した藤堂美虎とうどう みとらって言います」

 そう説明されている間、藤堂は一言も喋ることなく虚空を見つめていた。

「君達はまあいい。だが、お前は誰だ? 私は初めて見る顔なのだが」

 東は速水ではなく、もう1人の男に対して厳しめな口調でそう問う。

「俺は北部第4軍長・箕輪颯史みのわ そうしです。以後宜しく頼みます」

「第4軍長だと? 何故錦華家は来ていない?」

「さあ。それが錦華家の総意なのでは? で、第3軍長殿はお年なんで俺が1人で代わりに来ました」

「...そうか。話の筋は通っているようだな。まあいい、これで全員ならさっさと始めるとしよう。進行は私が務めさせてもらう」

「で、俺達をわざわざ集めた理由は何だ?」

「今回出現した特等には軍長を殺すという目的を持っていたそうだ。これと最近の”幻門ファントムゲイト”の突発的出現が多くなっていることから、何者かの意図を私は感じた」

「それで?」

「まあ待て、兼悟。話は最後まで聞け。昨日、東部軍の半分を幻獣の大量発生を確認した場所に送った。だがな、報告によると幻獣など1体も見つからなかったらしい」

「なっ、幻獣の生体反応を確認したのではないのですか?」

 大人しく聞いていた天舞であったが、東のその発言は聞き逃がす事が出来なかった。

「ああ、現場近くの基地は確実に反応を確認したらしい。証拠の情報も揃っていた。だから、これらを踏まえて私は総司令の力も借りて全軍が即座に厳重防衛態勢を取る必要があると考えた。だが、その要請のためには会議による司令及び第2以上の軍長からの過半数の賛成が必要だからな。それでここに集めさせて貰った」

「なるほどな。まあ別に俺は好きにやってくれて構わねえよ」

「私も賛成ぃ」

「勿論私もです」

 九条・及川・天舞は各々賛成意見を述べる。しかし、ここでずっと沈黙を貫いていた榊原が口を開く。

「今回は全員揃ってませんが、それでも問題は無いのですか?」

「ああ、軍律上は問題無い」

「そうですか。では私から1つ提案をさせてもらいます」

「何だ?」

「防衛態勢を取るのではなく、全軍による侵略区域の奪還を要求する。賛成の者は挙手をお願いしたい」

「何を考えてやがるんだ、匠?」

「司令は賛成してくれないのですか?」

「しねえよ。また良からぬ事考えてんだろ」

「それは残念だ。しかし、私も含めて過半数の賛成は取れました」

 榊原の言う通り4人の手が挙がっていた。速水・藤堂・箕輪、そして麗奈であった。

「匠、君は何がしたい!! 私にそんな事を言っては無かったじゃないか!!」

「必要性がないからな」

「なるほど、北部と南部はグルだったか。怪しいとは感じていたが」

「麗奈ちゃんもどういうつもりなのぉ?」

「...」

「で、この状況でも他の方は賛成しないのですか?」

「当たり前だ。全軍を使えば必ず奴らは手薄になった所を侵略してくる。少し考えれば分かるだろう?」

「そうだ。そんな行為に何の意味がある?」

「丈一、お前じゃわからないさ」

「どういう事だ?」

「私は嫌いなんだよ。悪人の次に正義の面を被った善人気取りがな。幻獣を生かす事を良しとしている体制も気に食わない」

 榊原は憎悪のこもった口調でそう吐き捨てると、部屋を出ようとする。

「何処へ行くつもりだ!!」

「もう話す事は無いだろう。お前との関係ももう終わりだ。君達も来てくれ。少し話がしたい」

 そう言って榊原は部屋を後にする。それに続いて賛成者4人と玲と優愛も部屋を出ていくのであった。




 会議室に残っている者達は暫く無言が続いていたが、唐突に九条が口を開く。

「どうすんだ、大智? このまま放置か?」

「そんな訳にはいかないでしょう!! 匠を止めるべきですよ。じゃないと何をしでかすかわからないですよ!!」

 東、ではなく天舞が九条の質問に割り込んでくる。

「落ち着け。騒いだ所で状況は変わりやしない。それよりお前の方が彼について詳しいだろう。彼の本当の狙いは何だと思う?」

「知るかよ。だが1つ思い出したことがある。遅れてきたあの3人何処かで見たことがあるように感じたんだがよ。恐らくだが、奴ら匠と同じ獄に居た元死刑囚共だ」

「流香、今直ぐ4人の過去の情報を調べてきて」

「了解です」

 それを聞き及川はすぐさま梢原に命令する。既に雰囲気は真面目に変わっていた。

「私は彼の過去は詳しく知らないがそいつも犯罪者という事なのか?」

「ああ、あいつは姉を通り魔に殺されたらしい。そっから悪人が許せなくなったんだとよ。それで俺に捕まるまであいつは刑務所の罪人の惨殺を続けていた。つまりあいつも元死刑囚だ」

「だがそういう事なら一般人を虐殺するというような行為には至らないか?」

「あいつの性格上それは絶対にねえ。断言できる」

「信用しよう。では本当に先程の行動に何の意味がある?」

「だからそれは知らねえって言ってんだろ」

「彼の目的は幻獣なのでは? 防御思想の組織に対して嫌気がさしていたようでしたし。滅幻の方針と総司令の考えに縛られる以上は攻勢には出れませんから」

「...その線は考えられるな。しかし、ならば秘密裏にやればいい話だ。表立ってやった事に何か裏があるかもしれない」

「そんな事にまで頭を巡らせてもしょうがねえだろ。取り敢えずあいつらには監視をつけ警戒する。これしかねえだろ」

「万が一無差別殺人に出た場合は? どう責任を取るのですか、司令?」

「だからそんな事は起きねえよ。そうなったら俺があいつを殺す」

 その時、部屋を出ていた梢原が戻ってくる。

「軍長、警察の協力の元3人の情報を手に入れました。こちらに纏めたのでどうぞ」

 そう言って梢原は及川に1枚の紙を手渡す。そこには3人の過去の犯罪について記載されていた。


 ・速水慎…2年間に渡り、政治家及び政治関係者を対象にした殺人を行う。殺害方法は遠距離からの狙撃による銃殺であり、計画的殺人犯。合計殺害人数は274名。動機は幻獣被害に対する国の援助が甘かったために極貧生活を強いられた事への報復と見られている。


 ・藤堂美虎…6年間に渡り、主に美青年を対象にした殺人を行う。殺害方法は誘拐後に部屋へと連れ込み甚振りながら最終的に殺すといったものであり、快楽的殺人犯。同じ地域で一定数を殺すと違う場所へと行くといった事を何回も繰り返しており、各現場には何人もの死体が紐によってぶら下げられ、その死体の口元は無理矢理口角を上げさせた傷跡が必ず残っていた。合計殺害人数は718人。動機は不明。


 ・箕輪颯史…3年間に渡り、暴力団やマフィアを対象にした殺人を行う。殺害方法は死体の傷跡から素手によるものだと見られているが、一部原因不明の死体が確認されている。合計殺害人数は233人。動機は語られており、本人が元殺し屋であった事からの償いであったらしい。


 ・榊原匠…3年間に渡り、受刑者を対象にした殺害を行う。殺害方法は看守を気絶させて全員外に出した上で、刑務所もろともによって消し去るというもの。合計殺害人数は詳細は不明だが約8000人と言われている。動機は悪人に対する激しい憎悪と見られている。


 会議室内の者はこれを見て、再び沈黙する。この空気を破ったのは、今度は天舞であった。

「極悪人では無いですか。特に藤堂という女性は余りにも危険ではありませんか?」

「彼女は要注意だが、他の者は判断に困るな」

「ですが大体の人物像は掴めました。それだけでも十分ではないですか」

「その通りだ。ひとまず各軍で彼らの動向に注意する。私から北部と南部には連絡しておく。及川、巴根城と牙煌にもこの旨を伝えてくれ」

「丈一、お前も先戻って伝えておけ」

「了解ぃ」  「了解です」

 そう言って2人は部下を連れて行動に移す。残っている2人はそれを見届けると会話を再開する。

「ったく、久々にお前に会ったと思えばこんな状況だ。全く、嫌になるぜ」

「こちらもそう言いたい所だが、まあ愚痴ったとてどうしようも無い」

「わかってるさ。そういえばよ、あの銀髪の女、話題に出てなかったが大したことねえのか?」

「逆だ。彼女は能力を隠蔽している。次いでに言うと後ろにいたあの2人もな」

「珍しいな、お前が見逃すとは。歳取って丸くなったか?」

「まだそんな歳ではないさ。だが、私の直感では敵対心自体は感じられなかった。しかし、今思えば直感が外れたのかもしれないな」

「そうか。それならもう話すことも無いだろ。俺も一旦向こうに戻るぞ」

「ああ、何かあれば連絡する」

 それを聞くと、九条も部屋を退出する。

「ふっ、兼悟、お前も甘くなったな...」

 独り残された東はそう小さく呟く。

(敵は幻獣だけで有って欲しかったのだが、今度は人間か。本当に勘弁してもらいたいのだがな)

 そんな事を考えながらも、東はいつも通り対処するための方法に頭を巡らせるのであった。



 これにより、滅幻は内部崩壊の危機を迎える。その向かう先は一体誰の意図するものとなるのだろうか。そして裏側での悪の動きも加速していく。



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