第4話 対立
玲と麗奈の2人は偶然の再会を果たす。実に約4年ぶりのことであった。
「姉さん、ここに来てたんだね」
「うん。いや、それより玲、本当に軍に入るつもりなの? 私はあれだけ駄目だって言った」
感動の再会ではあったが、それを押し殺して麗奈は少し厳しめな口調で言う。麗奈は玲が軍に所属しようとしてる事に強い抵抗があるのだ。
「でも、俺は母さんと父さんの仇を取りたい」
「私がやるから玲はいい」
「でも、あれは俺のせいで...だから、俺がやらなきゃ駄目なんだ」
「違う!! あれは全部あいつが悪い。玲は優しさにつけ込まれただけ。それを言う
なら、あの時私が殺しきれなかったせい。逃げられさえしなかったら、あなたがこんな思いをせずに済んだ。全ては私に責任がある」
「で、でもね麗奈お姉ちゃん、玲はすごく強くなったんだよ!! 幻獣を素手で倒してたもん!!」
気まずい雰囲気をなんとかしようと、優愛は唐突に話へと割り込む。するとそれを聞いて、麗奈ではなく刃が驚きの反応を見せる。
「それはとても素晴らしい才能の持ち主じゃないですか!! 彼を是非我々の軍に入れましょうよ、軍長!!」
「うるさい、あなたは黙ってて。そういうことなら、入ってもいいから1つ約束して、玲。任務は必ず私と行動する。それでいい?」
「でも...」
「じゃないと駄目。それが約束出来ないなら認められない」
「...わかったよ。姉さんがそう言うなら」
話が纏まったタイミングで優愛が小さく手を挙げる。
「どうしたの、優愛?」
「いやー、隣の人がお姉ちゃんのことをさっきからずっと軍長って呼んでるような気
がしてて。まさかなー、とは思ってるんだけど。もしかして...?」
「うん、軍長だよ」
「えっ、じゃあ一緒に任務っていうのは...?」
「勿論、2人にはすぐに私の軍に入ってもらう」
「やったね、玲!! ちょっとズルのような気もするけど、これはこれで有りだよね? 次に目指すは高階級かな〜」
予想外の展開に優愛が1人で嬉しさからか舞い上がり始める。この姿を見て3人は
微笑ましく感じたのであった。
「いやー、話が纏まって良かった良かった。それに、これでやっと我々も軍までは行
かなくても隊は名乗れそうですね」
「え? それって、どういう意味ですか?」
「それはね、ん? おっと失礼。まだ名乗っていなかったね。私は武藤刃といって東部第2軍の副軍長をやらせてもらっている者だ。2人の事は軍長からよく聞いているよ。これから宜しく」
「よろしくおねがいします」
「そうだな、時間も近づいているし歩きながら説明するとしよう。軍長達も向かいま
しょうか」
武藤の言葉によって4人は式場へと歩き始める。暫く歩いていると再び武藤が口を開く。
「それじゃあ、さっきのことだけど。私達の軍には軍長を含め3人しか所属していないんだ。しかも、あと1人は戦闘員じゃない」
「えっ、でも5級以上はスカウトだとしてもそれ以下の一般隊員は割り当てられるん
じゃないんですか? 私はそう聞いた覚えがあるんですけど」
「それが...」
「私の所に弱い奴は1人も必要ない。」
麗奈が武藤の言葉に被せて、冷たく言い放つ。
「というわけなんだよ」
「それって認められるんですか?」
「いや、普通に軍律違反だよ。それもあって色んなところから目は付けられてる。他の軍からも良くは思われていないし、今は実力でどうにか黙らせてるって感じかな」
「姉さんはそんなに強いの?」
さっきまで聞いているだけだった玲が口を開く。
「強いですよ!! 何しろ第1軍長だし0級ですから!!」
「姉さん第1軍長なの!?」
「それも0級って!? 本当に強い人だけに与えられる階級じゃん!! 凄いね、お
姉ちゃん!!」
2人は武藤の発言に対して驚きを隠せなかった。
「うん、ありがとう」
「えっじゃあ、武藤さんも、もしかして滅茶苦茶強いの? そんなに強いお姉ちゃんが部下として認める程だなんて」
「いえいえ、私なんて軍長には遠く及びませんよ」
謙遜する武藤を冷たい目で見て、麗奈は言う。
「そいつは1級だ。そして軍長になれる才能を持っていながら、わざわざ私の下に来た変人でもある」
「ひどい言い様ですね。同期の仲じゃないですか」
「腐れ縁だ。煩わしい」
「でも居ないとそれはそれで寂しく感じるはずですよ」
「黙れ」
しばらく麗奈と武藤が言い争っている間に目的地へと到着する。
「2人共、向こうに並んでる椅子に座るんだ。後は、勝手に式が進んでいく」
「ありがとうございます」
優愛がそう言い、2人は椅子の方へと向かった。2人が座ると、式が始まるのか前方の舞台の中央に一人の男が立つ。少し離れた左右の椅子にはそれぞれに2人ずつ軍長達が座っている。
「諸君、私は東部司令官、
簡単な自己紹介を済ませると、即座に東が名前の読み上げを始めていく。
滅幻の入隊式では1つ特殊な制度がある。それが軍長による直接的な勧誘制度であった。軍長が素質有りと判断した者には、軍長直々に階級が与えられ特殊隊員として1年目から扱われ、早々に実戦へと参加する事となるのだ。そして、いずれ5級以上に昇格することで正式に軍の幹部へと迎え入れられるのだった。
「続いて、
「はい」
ヘッドホンを首にかけた小柄な少年が返事をして前へと行く。
「は〜い。彼には7級を与え私の軍に入ってもらいますぅ」
及川が挙手して東に向けてそう言う。現時点で最初の勧誘であった。
「認めよう。続いて、
「はい」
今度は先程とは反対に大柄でガタイのいい青年が呼ばれ、舞台へと進んでいく。
「そいつは俺のとこに入れます。階級は6級で」
オールバックで柄の悪い感じの見た目をした男が言う。彼は
「6級か。彼の能力ならまあいいだろう、認めよう。続いて、天舞征一《あままい
せいいち》」
「はーい」
右耳にお札のような見た目をした特徴的な耳飾りをつけた青年が、続いて前へ出る。
「はい。彼には8級を与えようかと」
今度は巴根城が勧誘を行う。
「彼は天舞家か。ならば7級を認める。それでもいいな?」
「勿論です」
「では、続いて――」
「ねえ、玲。あの湊谷って子、一緒の車に乗ってた男の子だよね? やっぱり只者のようには見えなかったし能力者なのかな?」
「そうかもな。というより勧誘がかかった3人は全員そうだと考えていいと思う。それよりも天舞家というのは何なんだ?」
「あー、あれでしょ、3大名家ってやつ。確か、そこの1つだったはずだよ」
「そうなのか。それは――」
2人が会話をしていると、
「続いて、九十九玲」
玲の名前が遂に呼ばれる。そして麗奈がすぐさま手を挙げる。
「彼とその隣の小倉優愛に5級を与え、私の軍に迎えます」
その発言に式場がどよめく。5級とは指揮官クラスであり、今この場で簡単に与え
られるようなものではなかったからだ。
「ふざけるのもいい加減にしたらどうだ!! そんな横暴が認められるわけねえだろ!!」
最初に反応したのは牙煌であった。牙煌は今にも殴りかかりそうな勢いでそう捲し
立てる。
「何だ、一発では殴られ足りなかったのか?」
「軍長煽らないで!! お願いですからこれ以上は余計な問題を起こさないでくださいよ!!」
応戦しようとする麗奈を武藤は必死になだめる。式が始まる前の時、麗奈は絡んできた牙煌のことを一発殴って気絶させていたのだ。
「また、やったのか九十九」
呆れたように巴根城が言うのだが、
「そいつが生意気言うからだ。それに私が上官だ。何も問題はないはず」
と、悪びれもせずに麗奈は返答する。
「何で、牙煌くんもすぐ喧嘩売るのかなぁ? 海羅にだって勝ててないんだから止め
とけばいいのにぃ」
「うるせぇ!! テメェもいつかぶっ倒してやるから、覚悟しとけよ!!」
「へえ、面白いこと言うじゃんか」
笑いながら及川は言うがその目は一切笑っていない。一瞬にしてこの場は一触即発となってしまう。麗奈に関しては既に長刀を鞘から抜いており、今にも牙煌に斬りかかろうとしている。武藤はそんな麗奈を必死になって抑え込む。
「まあ、待て。全員座れ」
東はそう言って3人を宥めると、舞台前に来た玲のことを見る。
「お前は中等幻獣を含めた多くの幻獣を武器無しで殺したそうだな。そして能力を持
っていることを隠しているという報告も受けたのだがそれは本当か?」
「何の話だ? 俺は能力など持っていない」
「そうか。私の勘がそれは嘘だと言っているのだが」
「だから何だ?」
「何故能力を隠す必要がある? 知られて問題のある能力が存在するとは思えない」
「持っていたならな」
「やはり白を切るか。〝九十九玲・小倉優愛の5級授与を受け入れよう、九十九玲に
所持能力に関して真実を話すことを要求する〟」
「...?」
玲は困惑の表情を浮かべる。何かを言おうとしているのか口が動いているが声は出ていなかった。しばらくすると口から血が流れ始める。
「それは私の能力、”
るまでは自由は効かないぞ。さあ、真実を話すといい」
「今すぐ能力を解け」
武藤の静止を振りほどき、一瞬で距離を詰めた麗奈が刀身を東の首へと近づけると物凄い剣幕でそう言う。しかし、東は殺されかけていることを気にも留めず平然とした態度を取っている。
「なるほどな、お前の反応で能力を所持していることに確証を持てた。これぐらいで勘弁してやろう」
「っはぁ、はぁ」
東がそう言うと同時に玲の口から声が出るようになる。
「もうこれ以上は追求はしない。階級も2人纏めて5級をやる。だから、全員大人しく座れ。まだ式は終わっていないからな。という訳で、次―――」
そう言って何事も無かったかのように東は式を再開する。
「玲大丈夫?」
麗奈が玲を自分の椅子に座らせ優しく尋ねる。その顔は心から玲の事を心配している表情であった
「大丈夫。心配しなくていいよ」
「無理しなくていい。それに、式が終わればずっと私と入れるようになる。もうこんな目には遭わせないから安心して」
「うん...」
2人が話をしていると東は口上を全て終える。
「では、以上で入隊式を終了とする。諸君らはまず1年間、新兵としてここ東京基地で生活し訓練等を行ってもらう。その上で今回勧誘を掛けられた5名には特殊隊員として任務に数回就いてもらう。細かい説明は私からは割愛する。では、君達の健闘を祈る!!」
そう言って東が式場から退去するのだが、この場に1名、納得のいっていない者が居た。
麗奈である。
「どういうことだ、刃!! 玲を私の基地に連れてこられるのではなかったのか!!」
「ち、違うんですよ!! これに関しては私も知らなかったんです!! 別に絶対出
来るとは言ってないでしょ!!」
「そうか、開き直るつもりか。そこで止まってろ。真っ二つにしてやる」
「ちょ、ちょっと!? 落ち着いてよ、麗奈お姉ちゃん」
他の人達が指示を受け移動する中、麗奈達の下へ来た優愛が焦りながらそう言う。
「それに私にまで5級で良かったの?」
「指揮官の方が都合が良かったからな。こちらで自由に動かしやすい。それより
だ!! 刃、これはどうにか出来ないのか!!」
「無理だよぉ、麗奈ちゃん。それが規則だもぉん。でも、5級が認められたから、成果さえ出せれば1年待たずに指揮官として扱われると思うよぉ」
「こんな怪しいガキと小娘に5級など、俺は認めねえがな。ったく、司令は何考えてんだよ...」
及川と牙煌も会話に入り込んでくる。巴根城は今回の新兵の担当役のため、彼らへの案内等で式場からは既にいなくなっている。
「なら、私が任務の時に2人は毎回付いて来て。1日でも早く私の下に来れるようにする。でも、暫く会えないとなると、2人共何か言っておきたいこととかある?」
「軍長、もう先に軍機向かってますからね。なるべく早く来てくださいよ」
「私も帰って、寝えよぉ」
「けっ、付き合ってらんねえぜ。ブラコン野郎がっ」
麗奈の余りに大き過ぎる愛が見てられなくなった3人は式場を後にする。3人だけ
になると、優愛は麗奈に対して呆れたように言う。
「お姉ちゃん、久しぶりに会ったけど全然変わらないね。いっつも私達の世話焼いてばっかりで。まあ、ほとんど玲にだけど」
「そんなつもりは。優愛のことも本当の妹のように思って...」
「いいの、いいの。そんなお姉ちゃんが好きだから」
「そう、それなら良かった。それと玲、大丈夫? さっきから全然話さないけど。さ
っきの傷がまだ痛む?」
「いや。それより俺、頑張って早く姉さんのとこに行けるようにするよ」
「うん、私も手伝うからすぐ一緒になれるよ。最悪、無理矢理にでもそうするから」
「それは、駄目なんじゃないの...?」
麗奈の発言に優愛は再び呆れてしまう。そんな中、玲は少し遠慮気味に口を開く。
「会った時から姉さんに聞きたかった事があるんだけど...いい?」
「勿論構わない。それは何?」
玲は一瞬躊躇うが意を決して質問をする。
「
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