止まらないカルタ
サキ達が水路を進んでいる一方、カルタは来た道を全速力で戻っていた。
すでに栄養補給は済ませてあるうえ、手に馴染んだ武器も手にした。独尊のルフェを倒してレベルも上がっているおかげか、そのスピードは先ほどよりも二回りほど速くなっている。
「にしても走るだけっていうのも詰まらないし疲れるな」
『いちど行ったことのある場所にワープできる、なんて魔術も無いですもんねぇ』
「リフェブレだから仕方ない……けど、いざ緊急時になると面倒だな」
ゲーム化の際に御都合魔術を追加するわけにもいかない。自然の調律を測るのは難しいのだ。
「虚飾のバスティノ、だっけ?」
『はい。鉱物型モンスターを統べる、ネコタイプの獣人ですねぇ』
「リフェブレより種族多いじゃん、基本人間と魔族だけだったのに。SDGsに配慮してる?」
『何十年前の話してるんですか。まあそうですねぇ、サンサリアの転生先の世界が「そうだった」のかも知れませんねぇ』
「……考察は後回しで」
いまは雪道やモンスターに足を取られないよう、全力マラソンに気を向けなければならない。
『さて話はズレましたが、バスティノは六秒で倒せとのことですぅ』
「短いウェブ動画広告?」
『暇なのは察しますがツッコミませんよぉ。というのも一騎以外の魔将のデータは大体揃っているから、あとは行動パターンや弱点部位を実際に割り出すだけなんですよぉ』
「対ガオーガでは、それを怠ったってわけね」
樹海に再突入。レネとの通信が途切れないよう、ナノドローンも再配置済みだ。
『で、バスティノは小柄なのでさっさと倒しちゃってOKってわけですぅ。というかサキの女郎が国に帰っちゃったので』
「はいはい尻拭いってわけ、ねッ」
中継用ドローンを啄もうとする化物カラスが爆散する。轢き殺した拳には、きっと多大なるストレスがこもっていたのだろう。
『バスティノの能力は
「要は厄介なクソボスってことか」
『ちなみに動物の血に鉄分が含まれているのも、サンサリアでは大学で習うみたいですよぉ』
「……一撃必殺、速攻で倒せってことだよね」
『そういうことですぅ』
「了解。その後はどうするの」
『どうするって?』
「ベル、この近くにいるでしょ。それとルドウィーンに待ち伏せがないなんて考えられない。きっとアイツもそっちに行くはず」
『……そうなるんですよねぇ。本来であれば、八罪魔将を全て倒したあと、カルタ先輩はバビロニア皇帝を、サキは魔女王コクトーを倒す。ベルは逐次撃破だけど後回しのほうがよい、というプランだったはずなんですが』
「それが崩れた。南方のマンデュロより先に、サキを回収せざるを得ない状況になった、と」
実際、榊は命令を無視した連中の対処に追われている。従順なプロゲーマーは新入生に任せても問題ないらしい。
『サキからの情報提供と偵察もあって、戦闘データの収集が必要なのは巨大を持つ貪食のガオーガと、情報の殆どない堕落のアジールだけ』
「でもアジールの居場所も分かっていないんでしょ」
『実は、おおよそは分かってるんですよねぇ』
「え、ならどうして」
『あ、そろそろ洞窟に入るので減速お願いしまーすぅ』
言いたいことはあったが、プランナーの指示に従い分速を段々と落としてゆく。
このままだとウルル山脈の険しい岩肌に激突して爆発四散だ。軽口を叩く余裕はない。
「あ、これまずぐえーっ!?」
残念ながら止まる前に、地を這っていた石型のモンスターを踏んづけてしまい顔面からゴロゴロ転がってしまった。
「久々にダメージを喰らったかも……」
『なに言ってるんですか、岩肌に衝突しなかっただけマシですよぉ……お?』
と、ウサギのアバターが飛び出し、ペタペタと洞窟の隅々を触り始めた。
『……風向き、モンスターの種類、そして不自然に掘られた跡』
「偵察したデータにズレがあった? よくあることだよね」
『いえ、これは』
レネは口を閉じようとしたが、相手はカルタだ。言ってもいいかと小さく呟き、言葉を続ける。
『……カルタ先輩。バスティノ討伐について、極力殺さない程度にしてくれませんか』
「急にどうして?」
『ワタシだってプランナー科の超新星です。ゲームにも本作戦にも使える、最強最高のプランを思いついちゃったもんでねぇ』
いつものような間延びした口調に、チラリと悪戯な悪辣さが含まれていた。
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