ネオグンマ動物園
謎の仮面の男ベルに対抗する策を練るべく、前回の反省会を開いていたが。
「くたばれッ! クソがッッ!!」
「もうくたばってるわ! もっかいくたばれ!」
「猿叫しないでくださいよぉ!?」
「どうしてこんなことに!?」
何故こんなことになったかというと。
【サンサリア滅亡作戦部隊①
プランナー :ナオキ・猫又
プロゲーマー:フトシ・尾出】
「カルタの世界って、見たものをこうして記録して再生できるんだね」
「映像技術は昔からあったらしいけどね」
「え、すご」
「はいはい私語は慎みなさい。始まんぞ」
いまホログラムモニタに映し出されているのは、三回生の幼馴染コンビだ。
転生先はヴェスパイオ火山。溶岩の流れが活発なおかげか鉱物やミネラルが豊富で、そこから作り出される武具は各国から人気がある。
『おで、転生、でぎだ!』
『周囲を確認……こいつぁ良い、
『つよい、のか?』
『フトシのパワーを最大限活かせそうだしな。あ、いつも通り会話は俺様に任せろよな、この立場なら頭脳をフル活用できそうだしよ!』
確かにフトシは他の竜人族と比べても、鱗が強張っており、筋肉量も多かった。
とはいえ見た目だけで判断するのはまずい。掌ほどの小鬼妖精を模したアバターが、高らかに宣言した。
『ステータス・オープン!』
【ブッブー!】
「これでは、いけませんね」
「えっ!?」
エイルが映像を停止し、クイズ番組で使われるような音を鳴らす。
「なんでですかぁ、ステータス確認は基礎中の基礎ですよねぇ!?」
「たしかに基礎だな。より多く情報を仕入れて作戦を立てるのは基本中の基本だ」
「けど問題は、リフェブレのステータスダイアログで表示されること。そうでしょ?」
「流石カルタ、正解だ」
「なにか問題なの?」
「ほぼ嘘しか書かれてない」
「大問題じゃん!?」
「あと隠しステータスも九割強ある」
「書いて欲しいことも書いてないの!?」
ステータスダイアログは、その異世界と類似したゲームのフォーマットで開かれる。
つまり、リフェイトブレイバーでユーザーからの苦情も多いポンコツを使わざるを得ないのだ。過去のデータに基づいて最適化した結果なので、こればかりは仕方がない。
『やったぜフトシ、転生ガチャSSRだァ!』
『炎効かない、力強い。おで、無敵!』
そうとも知らずに浮かれる二人だったが、エイルがシーンを切り替えると。
『逃げろ、フトシ……!』
『なおぎ、だずげ、でゅぼぼぼ』
火山口に棲まうカエルに拳を入れた瞬間、吐き出された酸で鱗を溶かされ、落とされた溶岩でグツグツ煮込まれて命を落とした。
「火山に生息してるクセに氷属性攻撃を仕掛けてくる……そういうナメクジは知ってるけど、蛙なんだ」
「
「とまあ慢心した結果、チュートリアルで自然界の洗礼を受けた」
「やっぱそこで死ぬじゃないですかぁ。なにが全員クリア済みだよキメ顔しやがって」
「レネ、故人の前だよ」
「で次の転生先は家畜用の牛だったからどうしようもなく、やがてコクトーに魂を回収されてゲームオーバー……可哀想にな」
映像が途切れたところで、殉職した先輩方に哀悼の意を送った。
「これが初見の世界なら弁解の余地もある。だがサンサリアに転生する、よってリフェブレのフォーマットが適用されると分かっているのにコレだ。悪手だったな」
「で、肝心の情報は」
「……自然を舐めるのはやめようね、と教訓は残してくださったろ」
精一杯の擁護をして締め括り、次のビデオを再生する。
【サンサリア滅亡作戦部隊②
プランナー :レネ・宇佐美
プロゲーマー:カルタ・碇谷】
「あ、ワタシ達ですよぉ」
「改めて自分の映像を見るのは新鮮だな」
転生先は瘴気の漂う湿地帯だった。
「フッ!」
直後、とある八罪魔将に仕えし名門魔族は、自ら喉を突き刺し絶命した。
【ブッブー!!】
「うるさいよサキ」
「こっちの台詞ですけど!? え、いま何したの、転生して初っ端やることが自害!?」
「カルタ先輩も最初は転生ガチャ当たりだったんですねぇ。早すぎる自害、ワタシでなくても見逃しちゃうねぇ」
「そしてレネもなに受け入れてんの、異常でしょコレ!?」
「異常も慣れると正常になるよぉ」
「まあコレは確かに悪手だな」
「そうだよエイル、言ってやってよ!」
「自害するなら他殺を装うべきだ。混乱を招ける」
「なるほど」
「コイツら全員イカれてる……!!」
その後も自害シーンが続き、これ以上の収穫も見込めないため次のカメラへと切り替えた。
【サンサリア滅亡作戦部隊③
プランナー :チナツ・野間
プロゲーマー:シュウ・竜星】
シュウの転生先は、バビロニア皇居。
千年以上もの歴史を誇る、サンサリアで最も権威を持つ大国……その頂点に立つ宿命の血を引いていた。
『皇族会議、お疲れ様でした。シュウ』
『第二皇子ミスト。それがボクの仮名だ』
ここは第二皇子の個室。中に居るのは、理知的な顔立ちの青年と、そばかすが特徴的なメイドのみ。
『いえ、貴方は間違いなくシュウです。ステータスが物語っています』
だからこそ、メイド……に転生したプランナーは、安心してダイアログを表示できる。
それは確かにシュウのステータスが表示されていたが。
『チナツ、リフェイトブレイバーのダイアログで信頼できるのは名前くらいだ。君のデータサイエンスにはノイズとなる』
『そうでしたね。実際にモンスターを倒した肌感覚で覚えたほうがいい、でしたね』
『加えて初見殺しの恐れもある。地質学、歴史、生物学的な観点から最高率のレベリングプランを導出してほしい』
『既に数パターンほど用意しています。国民の課題を聞きながら修正するのがよいかと』
『最高だ、チナツ』
『ですが』
チナツが細長い人差し指を立てて、皇子の鼻先をツンと押し。
『プランナーは小型アバターの使用が推奨されています。メイドに転生するのは』
『何度も言わせるな。ボクは人型の君が良い。側に居てくれるだけで成功率が向上する』
『……シュウがそう仰るなら』
『今回も期待している』
お互い、外には絶対見せない表情を浮かべつつ作戦確認を進めていた。
「言うことなくない?」
「強いて言うなら、さっきのだけだな。ただ実際成果を出しているから何も言えないんだけどよ」
「これは……『デキて』ますね?」
「うわすっごいニヤケ」
リインとアイギスの時といい、どうやらサキはこういった恋バナが大好物なようだ。
「それで、これからどうなるの?」
「国民の悩みを解決しながらモンスター倒してレベリングする」
「えー、そうじゃなくて」
「それ以外は無えよ。完璧すぎてツッコミ所が無いから早送りしてんだ……ん、何かしら動きがあった」
すこし巻き戻して再生する。仕事を二つほど片付けて個室に戻ってきたシュウが、隅に配置したナノドローン目線で何かしらの合図を送ろうとしているようだ。
『記録。位置情報は切っている、これは圏立ゲームメディア総合学園の者だけが閲覧できる映像である』
「……」
『恐らくバビロニア皇帝は、ボクの正体に気付いている。虎視眈々とタイミングを見計らい、下手を打った瞬間に処刑を命じてくるだろう』
「……これって」
『そしてバビロニア皇帝の抹殺は、恐らく魔女王コクトーよりも難しい。奴の正体は、千年以上も魂を喰らい続けた猛者だ』
「ッ!」
戦慄した。これがサンサリアの特異点だとすると、融合ではなく捕食だったが、カルタの予想は概ね当たっていることになる。
『皇帝の退位は崩御のみ。すぐに後継の者が、名前も性格も含めて、大帝国を築き上げた始祖に喰われる。人類が魔族に征服されていないのは、百もの魂を喰らった力があるからだ』
「これ、カルタ先輩も同じようなことやってましたよね!?」
「しかも正攻法で。こりゃ厄介だぞ」
『もし生命活動の停止が確認された場合、それはきっとバビロニア皇帝によるものだ。詳細な調査ならびに追加要員の投入を提言する、以上だ』
「彼の力を見誤っていた、認めざるを得ない。けどここまで完璧な立ち回りをしていたのに、死因が魔女王コクトーなんでしょ」
「下水道の見回り任務中にコクトーが乱入、抵抗虚しく魂を貫かれて殺害された……けど分からないな、カルタも含めて魔女王に存在がバレた理由が」
「……もしかしてこれじゃない?」
好奇心でモニタを弄っていたサキがチョイチョイと指をさす。
どうやら残り二組の様子を先に見ていたようで。
『八罪魔将がひとり、
『状態異常など、救済兵団の前には無力! ははっ、神の名のもとに断罪してや』
転生してすぐ不運にもエンカウントした中ボスに溶かされ。
『……異世界の迷いネズミ……弱すぎだね……』
『え、〈
『……無駄な足掻きだよね……さて……この魂の繋がりは……』
「お、ま、え、かぁああああっっ!!」
「キィイイイイ、ウキャイイッッ!!」
【ブッ、ブーブブッブッ、ブブブーーッッ!!】
(お猿さんになっちゃった……)
軽率な行動でカルタとシュウの死因を作った戦犯に怒り狂い、二人は猿と化してしまった。
「だから言っただろ、足手纏いだから参加するなって!!」
「チームプレイはなぁ、無能な働き者が利敵行為になるんだよ!! そうママの胎内で教わらなかったのか!?」
「レネ、なにあれ」
「あったまったゲーマーは基本こうなるよぉ」
「キショ……」
「ほら珍獣になってる場合じゃないですよぉ。相手がたに魂の形はバレてる、しかもバビロニア帝国も厳戒態勢。これが分かっただけでも良いじゃないですかぁ」
「……そうだね、しのごの言っても仕方ない」
「……ベリーハードになったからにゃ、俺も本腰入れないとな」
「心なしか傷ついてません?」
「自業自得でしょ」
二人も十代の少年だ、同年代の美少女からの冷め切った視線はキツイものがある。
ゆえに名誉を挽回すべく、エイルが二つのモニタを並べ。
「ベルの能力に当たりをつける」
「出来るの?」
「カルタのビデオとシュウのビデオ、これに手がかりがあるはずだ」
そう作戦を進めているなか、蚊帳の外のサキは一抹の疑問を抱いていた。
(……そういえば、あの棺桶の外で殺されていた大人は?)
〜〜〜〜〜〜
次の日。
「添削した点も修正されている。あとは現地でのアドリブ次第だろう」
榊教官の許可は得た。あとは実行に移すのみ。
「目標を再確認する。『バビロニア皇帝の魂の抹殺』、『魔女王コクトーの抹殺』、『サキ・ヴァルプルギス以外の八罪魔将の抹殺』……そして、『サキ・ヴァルプルギスによる仮称サンサリア連合国の建国ならびに、識別名【イーサ】による植民地化』である」
バビロニア皇帝にサキの身体が奪われたら全てが終わりだ。故に彼女を、新たな柱としなければならない。
(もう失敗は許されない)
(サンサリアは、必ず守る)
それぞれの思いを胸に、ゲーミングデバイスへ搭乗し。
「――作戦開始!!」
『
サンサリア滅亡作戦改め、サンサリア植民地化作戦が始まった。
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