作戦会議
サンサリア植民地化作戦会議(懲罰中)
「さて、サンサリア滅亡改め植民地化作戦だけど……」
カツカツ。
「権威を示すならサキにコクトーを倒させるのがいいだろ。なら八罪魔将を倒さなきゃダメで……」
カツカツカツカツ。
「そもそもベル対策が疎かですよぉ。あの能力も謎ですし、もっとこう……」
カツカツカツカツカツカツカツカツ。
「さっきからカツカツうるさいんだけど!?」
「仕方ないでしょ、VR空間に入りながらリアルで写経してんだから」
「ウチの工房部は優秀でね、ゲーミングデバイスの中に机を持ち込んで、リアルでは半分覚醒状態で自動的に写経をするためのアプリも作れんだわ」
「脳や腕の負担ハンパない最悪のマルチタスクですけどねぇ。ペンの音もうっさくなるし」
「それよりも絵面!! あたし以外みんな空気椅子で腕を小刻みに動かしてるのマジでキモいし不気味だからね!?」
「これでも平行移動できるんだよね」
「ぎゃああああこっち来んな!」
スーッと右往左往し合う三人を、サキはシッシッと全力で払い除けようとする。
いま、カルタ達は四人用のプライベート多目的室へ移動して作戦を練り直していた。
そのためにも、まずは作戦目標や敵勢力から見直す必要があったのだ。
「当初の作戦目標は『バビロニア皇帝の抹殺』と『魔女王コクトーの抹殺』だ。これでサンサリアを支える力が失われて崩壊、空も大地も生物も全て『
「滅亡……つまり『死を迎えたサンサリア』が、別の世界と融合して転生する可能性が高いと判断した。だから、生かさず殺さず管理しなければ、より凶悪な『識別名【サンサリア】』が発生して甚大な被害が出る恐れがある」
「そこんとこ、サキはどう思ってんのさぁ。自分の世界のレベルが上がるチャンスだしぃ」
「不快だね」
「おぉ、そりゃまたなんで」
「リフェイトブレイバー、だっけ。その世界も、あたしの知ってるサンサリアとは別物だった。だからもし次の世界があったとしても、それもあたしの知らないサンサリアだから故郷とは思えない。それに」
「それに?」
「自分の世界が他の世界を滅ぼそうとするなんて……やっぱり、嫌だし」
「優しいんだね、サキは」
「あー待った」
カルタは微笑みを返していたが、そこにエイルが割り込んでくる。
「そもそもなぁカルタ君よ、八罪魔将は無視して良いっつってたけどよぉ」
「そりゃコクトー倒すだけなら」
「調べ直したら、サキ以外みんな異世界への侵略やってるらしいぜ」
「えっ」
「マジで言ってる?」
「正確には、大半は計画段階だけど侵略やってるヤツも居るって話だ。カルタが処したラムイ、ガブリールの他に、『
エイルがナノドローンの映像を再生する。
支配を任されている平原地帯を翔ける、山のような赤い巨躯。
獅子のようなタテガミ、サメを更に獰猛にした牙、そして鬼のような胴と脚。
『ヴァルルルルゥヴゥ!!』
唸り声のような雄叫びを上げる。それと共に、野を走るガオーガが異空間へと吸い込まれて消え……距離をおいて再び出現したときには、引き連れた獣型モンスターと共に、白くてフワフワした異世界生物を口に咥えていた。
「これって!?」
「この異世界の詳細は」
「既に特定済みですぅ。被害に遭ったのは識別名【スイートランドーNー165】。マシュマロのような身体と食感の生命体が主権を握る異世界ですねぇ」
「なんかあたし達に都合の良すぎる生態してるっていうか……そもそも生物として破綻してない?」
「異世界の生態系を考察するのは
「まあご覧の通り、ベルっつー奴の手引きだな。アイツが魂の転生先を異世界まで広げたり、そもそも直接空間を繋げたりして無茶苦茶やってやがる」
「そんなの、あたし知らなかったんだけど!?」
「その悪辣と無縁な性格じゃ仕方ないだろ」
「悪辣だもん、朝は絶対二度寝してるし!」
「はいはい悪い悪い」
エイルは悪い子のワガママを適当にあしらい、続ける。
「てなわけでサキ以外の八罪魔将も
「っ、おかーさんを?」
「嫌だって気持ちは理解できる、それなら他の方法を考えれば良い。だけど、敵対する連中に忠誠を見せるなら、自分の親の首を取るのが一番だろ……なぁ?」
そうプランナーが悪魔の提案をする……否、提案と言っていいのだろうか、その態度は「押し付け」にも思えてくる。
「そもそも、あたしは植民地化にも賛成したわけじゃないから。ギリギリまで考えさせて」
「期限は?」
「せめてルドウィーンが無事か、この目で見せてほしい。それから結論を出したい」
「やめたほうがいいと思うけどな」
「エイル先輩、たぶんこれ平行線になりますよぉ。先に進めましょう」
「……しゃーねえ。サキちゃん将軍は俺が監視すりゃいいしな」
「となると、作戦時は僕にレネが、サキにエイルが付く形か」
「前回と同様、プランナーとプロゲーマーの一対一ですぅ」
「サキがリフェブレをやったとき、僕がサポートキャラとして付いたでしょ。その形だね」
「なるほど、今回は理解できた!」
「さて……残るは、ベルの対処法だけど」
「それなんだよなぁ。あの仮面野郎、異世界各地に配置したナノドローンに気付いてぶっ壊すし」
「そもそも目的がわかんない。あたしだけ知らなかったみたいだし」
「現状、分かっていることは『国を滅ぼせる規模で空間を切り取る』『サンサリアとは別の世界の存在である』『殺した相手を裸にひん剥く』くらいですもんねぇ」
「変態だよね、ほんとキショいと思う」
「あと『不意打ちじゃなきゃ僕を倒せない』も追加で」
「お三方、相当根に持ってんなァ〜」
唯一対面していないエイルが呑気に煽る。
「こればっかりは対策を立てないとダメだな。サキが反抗しても代わりは探せばいいし、最悪カルタが皇帝になればいい」
「「えっ」」
「けど対異常存在となれば別だ。こっちは既に九名の死者を出している、とくにシュウ・竜星は二回生のエース。これ以上タカを括って大損害ってなるのはシャレになんない」
「それなんだけどさ」
カルタが割り込んだ。
「シュウがアッサリやられたのは何か原因があると思うんだ。そこまで評判高いプロゲーマーがコクトー程度に遅れを取るはずがない」
「おかーさんを程度って呼ばないでほしいな」
「それこそベルが関係していると思う。なにか情報が得られるかもしれない」
「……そうだな。攻略手順も確立する必要があるし、前回なぜカルタ以外が瞬殺されたのか、感想戦でもやってみるか」
経験よりも歴史に学んだほうがよい。他者が積み重ねた失敗からも、得られるものは多いのだ。
すぐさまエイルは使用許可を取り付け、プロゲーマー達の視界と連動したカメラ映像を再生し始めた。
ところが。
「お、ま、え、かぁぁぁぁっっ!!」
「キィイイイイ、ウキャイイッッ!!」
(お猿さんになっちゃった……)
遺された真実が明らかになった瞬間、二人の少年が退化した。
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