絶対的強者への反抗

 異世界から紛れ込んできた魔女王の娘は、絶体絶命の危機にも関わらず「自分の世界を守る」と宣言した。

 カルタとレネ以外の皆が、彼女をネズミと同類だと思っているなかで。


(言ってしまった……このままだとサキは処分される……!)


 ライフルで武装した学生兵数十名と伝説の教官を相手に無双劇を演じられるほど、カルタの腕は高くない。

 さらに人質を二名取られている。故に選択を眺めることしかできず、歯噛みしていた。


「信念に殉ずる腹積もりか。そも、銃とは何か分かっているのか?」

「分かってます!」

「ならば尚更だ。いますぐ蜂の巣にしても良いのだが」


「それでもいい。あたしの魂は安くない。サンサリアを滅ぼそうとする貴方達に売るなら、ここで世界と運命を共にする!」


(……!)


 言い切った。晴天のような眼に、偽りなど一欠片もない。

 誰もが恐れる教官を前に言い放つ胆力は、多目的室の若き破壊者達の胸を打った。


「いいだろう。撃て」

「待ってください!」


 当然、それはカルタも例外では無かった。

 唯一鉄心を貫く婆の前に躍り出て、サキを庇うように両腕を広げる。


「碇谷。自分の行動を省みろ」

「異端分子とされる彼女を庇っております」

「そうだ。許されることではないが、言い分は聞いておこう」


「はい、単刀直入に申し上げます。私カルタ・碇谷は、サンサリアをと考えます」


「っ、カルタ……!」

「……惚れた彼女の為か?」

「断じて違います」

「えっ」


 サキの表情が無に帰したが、カルタは意にも介さず続ける。


「私の推論混じりの意見となることをお許し願います。我々がサンサリアを滅ぼせば、と考えております」

「続けろ」

「そもそもサンサリアを滅ぼさなければならない理由は、転蘇条約に触れたから、と伺いました」


 第九条『自らの意志で、別の魂から肉体を奪ってはならない』。

 実際にカルタは何度も自害しては、何度も肉体を奪って転生している。


「しかしサンサリアには、他の世界に影響を及ぼす可能性のある異常性……『特異点』があると考えます。それは、『肉体が死を迎えた魂は、別の肉体へ転移または融合する』というものです」

「根拠は」

「サキに、サンサリアを基に作られた『リフェイトブレイバー』をプレイさせたところ、

」との意見を頂きました。何度も現地で転生した経験と照らし合わせて、私は『十八年前に滅亡したサンサリアが、別の世界と融合して転生した』と考察しました」


「え、なに言ってるの……?」

「して、どうする」


「私はサンサリアに対して、『滅亡』ではなく『植民地化』を提案します」

「なっ!?」


 サキは戦慄すると共に反論しようとした。確かに滅亡よりはマシだが、飼い殺しとなるのだ。

 一方の学園側は「なるほど」「そう来たか」と納得した様子だった。カリキュラムで習う範囲だからだ。テストにも出る。


「確かに不可侵条約を結ぶ異世界の中には、世界規模の植民地化を進めているものもある。ユトビア憲法など、ルールに前例がないわけではない」

「はい。既存の統治者を廃した後、サキ・ヴァルプルギスをバビロニア新皇帝として即位させ、我々で死、魂、肉体を管理します」

「勝手に決めないでくれます!?」

「政治力はルドウィーンで証明済み、リフェイトブレイバーで柔軟性も確認しました。間違いなく我々の意図を汲んでくれる、処分するには惜しい人材と判断します」

「だから勝手に!!」

「……その計画で、我々の得られる報酬は」


 百年以上生きし教官の威圧が増す。

 だが、もうカルタは臆さない。


「多くの異世界を救える」


 そうハッキリと、サキに倣った心意気で言い切ってみせた。


「カルタお前、いい加減にしろ! せめて異世界の物資とか、金品の徴収とか」

「そうですよぉ! ワタシは嫌いじゃありませんが、そうイカれ野郎を好む人ばかりじゃないでしょぉ!?」

「許可されない発言をした両名、転蘇条約の写経十枚」


 拘束されてなお喚いたプランナー達に処罰を下した後。

 カルタの前へ足を、そして目を改めて向ける。


「本懐を見失っていない意見だ。サンサリアおよびサキ・ヴァルプルギスの処分の見送りの件、儂が責任を持とう」

「っ、本当ですか!?」

「しかしプランに粗がある。プランナー科の学生の意見を取り入れ、明日までに再提出しろ。それと」


 榊が合図すると同時、すぐ側に居た学生兵が、取り出した白紙の山をカルタに押し付けた。


「上官への反抗、許可されない異世界人への肩入れ、これは罰則対象だ。ユトビア憲法の写経を十枚提出するように」

「うっ」


 そう厳罰を言い残し、鬼教官は兵を引き連れ多目的室から去っていった。


「っはぁ〜〜〜〜」


 嵐が過ぎ、緊張が解かれたカルタ達は地面にへたり込む。


「脳に直接情報を詰め込む時代に、アナログな写経は厳しいって」

「いや危機感持ったほうがいいと思いますぅ!」

「本当だよ、おまえぶっ殺されてもおかしくなかったぞ! なにがあったの、そこまで身体張るようなキャラじゃなかったろ!?」

「あー、まあ、うん」


 実際、彼女を守るための咄嗟な行動だった。

 たしかにサンサリアを滅ぼすことに違和感は抱いていたが、確定していない中で提言するのはどうかと思っていたからだ。


 そして、自分のために男を見せてくれたカルタへ、サキが問う。


「……なんで助けてくれたの」


 出会ったときからそうだ。ずっとサキには好意的だったし、ネオグンマ人の中で唯一、心を読めるように開いていた。


「助けなきゃいけないって思ってた。そして今も、これからも、そう思うはず」


 その真意だけは読み取れなかったが。


「……ありがと」


(いや、これからだ。サンサリアを転生させずに滅ぼさなければいけないのだから)


 運命を変えようと決心したカルタの顔は、とても輝いていた。

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