旧き人形劇の再演(2)

「ここに運命を背負いし勇者が居ると聞いていたが……貴様か?」

「人違いです、多分それリインって人です」

「とぼけるな。若年にしてゴブリンキングを制する腕前、そして才覚。貴様が勇者なのだろう?」

「話を聞いてくださります?」

『ヨヅルは会話内容が固定されている、何を言っても無駄だ!』


「私は魔神皇様直々の命を受けている。勇者をここで滅せと」

「あああ、話を聞いてよもう!!」

『ゴブリンの武器は拾ってたよね、来るぞ!』


 ヨヅルが『無』から得物を抜く。

 自分の体躯よりも巨大な大剣を片手で構え、一呼吸おき。


「〈一閃イッセン〉」

「ッ!?」


 空が裂けた。

 数メートルはあったはずの間合いと共に、魔剣の一振りで断たれたのだ。

 サキは咄嗟にしゃがんだ。が、その後ろの木々、そして隣のアイギスは一撃で刻まれてしまい、倒れていた。


「〈ニジ〉」


 ヨヅルのターンは終わらない。縮地の勢いをそのままに、ド派手な振り上げからの回転斬りだ。

 サキの体勢は悪い。だが、これもギリギリで横に転がりかわすが。


「〈散華サンゲ〉」

「ぐ、ぅううっ!?」


 飛び上がり、横回転。魔剣から衝撃波が飛び交った。

 避ける隙間もない。モロに喰らってしまう。


「つ、強い……!」


 咄嗟に敵の心へ入ろうとする。だが、何も読み取れない。


『当たり前だ、これは負けイベント。それに、さっきからおかしいんだ』

「なにが!?」

『サイショ村のヨヅルって、はじめは通常攻撃や中級スキルしか放たないはず。それでも歯向かおうとする熟練プレイヤーにしか、専用スキルは放たない!』


 何もかもがおかしかった。サキがプレイしたことでバグってしまったのか?

 そんな考えを知ってか知らずか。彼女は小さく呟く。


「次に紫電シデンが来る」

『ッ!?』


 本能か、それとも前世の記憶か?

 間違いない。旧きサンサリアを知らないはずの彼女が、ヨヅルを、その魔剣を知っている。


「〈紫電シデン〉」


 言った通りだ。回転から生まれた嵐は雲を呼び、落ちた雷を剣に纏わせる。


「〈御幸ゴコウ〉」


 剣を地に差し、ヒビ割れから電撃が走る。

 もう、サキには当たらなかった。涼しい顔でかわしながら、次の行動に備えている。


「〈陸道リクドウ〉」


 地中で増幅した雷エネルギーが爆発し。


「今」


 爆ぜる地面。飛翔する魔剣士。

 それと共に、サキも跳んだ。


『見切っている……それに、あの構え!?』


 いつの間にか、ゴブリンソードに帯電していた。

 対するヨヅルも、足場を無くした敵を穿つべく無数の光剣を大地から刺す。


「〈七支刀シチシトウ〉」

「それも分かってる」


 落ちる雷に乗る。

 全身の細胞から感じる閃き。

 知らぬ間に覚えていた至高の技、その原点、真名、ここに解放されり!!


「〈降龍クダリリュウ〉!!」

「なにッ……!?」

『その技、ヨヅルの!?』


 足場が無いのは同じ。魔剣士を守るは光の剣のみ。

 光が割れる。光が壊れる。光が破れる。

 龍を思わせる咆哮と共に振り下ろされた一刀は、確かに、魔剣士に一歩、届いた。


「っ、はぁ、はぁ……!」


 だが受け身もせず落ちたサキは既にボロボロだ。体力も殆ど残っていない。

 対するヨヅルは少し傷を負っただけだ。しかし、彼は剣を納め、問う。


「その技、何処で倣った」

「わかんない。でも、貴方の剣を見て分かった。、打ち合えるって」

「私の剣を見た者は等しく死を迎えた。あり得るはずが」

『……?』


 いま、あり得ないことが起こっていた。

 ヨヅルの台詞が、カルタも聞いたことのないものだったからだ。

 その影響は、奴の身体にも表れ始めており。


「あり、あ、アり得、え得エ」

「ぎゃああああ関節が変な方向にいい!?」

『くそ、バグりやがった!』


 凛とした声や彫刻のような身体にノイズが走り、歪み。

 やがて世界も同時に崩れ始め。


「――私は、誰だ?」


【深刻なエラーが発生しました。現世界へログアウトします】

「ちょ、身体浮いてるんですけどー!?」

『ったくヨヅル負けイベントはいつもこれだから!!』


 二人は強制的に、再現したサンサリアから追放されてしまった。

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