続編(予定)ボス、旧世界に擬似転生して無双する

 アイギスと合流してからすぐ村を出て、森を道なりに行き、川を頼りに下ってゆく。

 だが行く手を阻むものが居てこそのRPGで。


「チチューッ!」

「わっ、ラットの群れ!?」

「四匹程度で群れって」

「ふ、〈火の球ファイアショット〉!」


「チ?」

「うそ、あんまり効いてない!?」

(それで今までどうやって生きてきたんだろ……)


 想像を絶する相方の無能さに、悪辣の魔将は哀れみすら抱いていた。

 こういった弱き者を救うことこそ、強者の責務だろう。

 反撃と言わんばかりに飛びかかるネズミをポイポイ払いのけながら、彼女の杖を優しく握る。


「……アイギス。風魔術って使える?」

「あ、当たり前よ、でも」


「ラットじゃなくて、その前に生えてる雑草を飛ばしてみ」

「え、うん」


 言われた通り、風の初級魔術で雑草の葉を切り裂き、ラットに向けて飛ばす。

 すると、どうだろうか。緑が当たった顔や身体が、どんどん膨らんでゆくではないか。


「ヂーーッ!?」

「えっ……た、倒れた!?」

「キュアミントが自生していてよかったよ。ラットの肌はこの葉の成分に弱くて、硬い手足以外が触れると浮腫むくんで窒息するんだ」

『詰み防止のためにも配置されてるね』

「いま出てきちゃマズいでしょネズミさん」


「おぉ、初めてレベルアップしたー!」

「あれっ」

『アイギスには見えてないから気にしなくていい。にしても凄いね、最初から裏技を理解しているなんて』

「ウラワザ?」


『VRゲームは基本的に、滅ぼした世界の歴史や進化論を汲み取れば効率よく攻略できるんだ。ちなみにレネは、この生態を知らずにラットや羽虫らの餌食になっていたらしい』

「え、雑魚っ」

『それが普通なんだよ、このゲーム』


 独自性の強いゲームシステム、素早く不規則な敵、まだ使えない味方NPC。これらに慣れても、モンスターがレベルアップしており倒せない。


「よしっ、これくらい集めればいいでしょ!」

「ここ森だよね、なんで宝箱に薬草入ってるの?」

『お客さん、マジレスはルールで禁止ですよ』


 故に初見でゲームオーバーせず、薬草採りを成功させるのはプロゲーマーでも難しいのだ。


「ウワーーッッ!!」

「村から悲鳴!?」

「村から結構離れてるよね、しかも宝箱を開けてからちょうど十秒!!」

『だからマジレスは禁止だって!!』


 そして、イベントをこなすと次のイベントが始まる。

 村へ直帰すると、家畜、農作物、そして村人が緑肌の小鬼に襲われていた。


「ひょえーー!」

「お、おたすけー!」

「どうしてゴブリンが、まだ昼下がりなのに!」

「魔族や上位モンスターに煽動されたか、巣で異常発生して村以上の規模になったか、だね」

「……ずっと思ってたけど、サキって何者なの?」


 とうとうアイギスも疑問を抱く。記憶喪失にしては、知識も経験も桁違いだ。

 そんな彼女を守るようにして、公女は最前線へと出向き。


「通りすがりの未来人だよ」


 続編ボスによるゴブリン退治が、始まる。


「「ギヒヒーーッ!!」」


 ゴブリンは本能的に若い動物のメスを好む。

 故にラベンダーの公女と茶髪の魔術師見習いへ、一斉攻撃を仕掛けてきた。


「うわああああ無理無理無理無理!?」

『最序盤の難所だ、どうする?』


 アイギスは半ベソをかきながら逃げ出そうとしている。

 カルタも魔将を試すように見守るだけだ。


「……」


 この状況で、サキは無言で周囲を見渡していた。

 驀進する小鬼達など眼中にない。戦わず蹂躙されただけの村人たち。散らばった木材、そして残された建物、家畜などの資産。

 いや、眼に入った。先頭で群れを導く、大振りの石剣を持ったゴブリンが。


「それ借りるね」

「ゲ!?」


 タイミングを合わせて縮地。振り始めを掴まれたリーダーは投げ飛ばされた。

 簒奪の小鬼が武器を奪われるのは因果か。ちょうど背格好ほどの大剣を握る彼女は、このまま命も刈り取るべく体勢を低くし。


「〈黒鳥剣〉」


 回転しながら前進、そして横薙ぎを一閃。

 リフェイトブレイバーの中盤で習得できる、汎用性の高い大剣スキルだ。


「ゲ……ッ」


 しかし、彼女の放つ剣舞は、美しかった。

 洗練極まった動きはゴブリン達を魅了し、砕かれた武器のカケラがキラキラと空を彩り。

 フィナーレは、黒く羽ばたく血飛沫。


「……」

『……』


 アイギスも、村人も、そしてカルタも放心していた。

 これが真の魅了チャームである。生まれ持った特性も、研磨し続ければ更に煌めく。

 その在り方を、いま、姿勢で魅せていた。


「ほ、本当に、何者なの……?」

「まだ終わってないよ」


 指し示したのは、村の入り口。

 そこに大挙していた。百を超えるゴブリンの群れが。


「なんで、こんなの……勝てるわけない!」

「今のは斥候。無事蹂躙できれば狼煙をあげて仲間に知らせる。ここは奪える場所だって」

「はぁ!?」

「巣を叩くだけだと、狩りに出ているゴブリンは逃してしまう。でも奴らの習性を活かせば、返り討ちにしながら全滅させられる」

「まさか、貴方わざと」


 リフェイトブレイバー最序盤の難関、ゴブリンの群れ。

 レベルや練度、戦略への理解が足りない初心者は、大柄なキング自ら出向いて叩き潰す。

 斥候を倒したとしても、行方不明になった子供を探すため、ゴブリンの巣に出向かなければならない。

 これが本ルートだが、そこも複雑な迷宮になっており、巣食う魔物に削られ続けて骨になる……なんてこともザラだ。


『まさか初手でRTAルートを選ぶとは……一気に百体倒さなきゃいけない鬼畜ルートを』

「ゴブリン退治は慣れてるから。商業の邪魔になるしね」


 民のため、国のため、知略を併せて剣を振るう。

 異世界広しといえども、このような為政者は極めて稀だ。しかも、実効支配している国の人々を想うなど。


『君はプロゲーマーに向いている』

「貶し言葉として受け取っとくよ」


 そう皮肉を返しつつ剣舞を踊る。

 万雷の拍手の代わりに、黒き血のスコールが降り注いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る