予期せぬ転生

人体錬成機

『チーン』


 甲高い金属音が響く。

 と同時に、ブッシューと白煙が一面に噴き出した。


「どぅわああああああ、あ?」

現世界ネオグンマ……よかった、帰還できた」


 発生元の機械のフタが開き、中からレネとカルタが飛び出した。

 まるで鉄の処女アイアン・メイデンのような鉄の塊を、そのまま電子レンジみたく改造したような機械だ。

 すぐ側には換えの制服が畳まれている。コンピュータの並ぶ部屋を見るに、どうやら二人は元の世界に戻って来れたようだ。

 そして助けてくれたのは、気さくに出迎えてきた白髪のイケメン。


「お疲れちゃん。あと現世界イーサな、ネオグンマは都市名」

「助かったよエイル。今回はマジで詰んだかと思ったよ」


「よく言うぜ。あと初めまして後輩ちゃん、俺はエイル・安司。そこのカルタ君が心配で参上した、魂の恩人だよ」

「あ、ありがとうございます、レネ・宇佐美ですぅ! 生きてる意味が分かってないプランナー科の一回生ですぅ!!」

「元気が良いね、嫌いじゃない。で何故生きてるのか、だけどな」


 エイルは壁と合体している、四メートルほどの機械を指差す。


「何ですかこの秘密道具ぅ!?」

「テッテレー。じんたいれんせいき〜〜」

「言い方」

「人体の素材と魂を使って、転生開始リンカーネイト直前の身体を錬成するんだ」

「え、それで作られたのがこの身体……」


 レネは恐るおそる、着替えながら身体をペタペタ触りながら状況を噛み締めている。


「クローン技術みたいになるけど、実際は違う。元の身体の死亡を確認してから人体錬成をして、あらかじめ責任者センセーが申請した蘇生先に、法に触れない手順で魂を入れる」

「簡単に言えば、ギリギリ合法の異世界転生ってこと」

「屁理屈じゃないですかぁ、転蘇条約はどうしたんですぅ!?」

「だからギリギリ合法にしてるんだっての」


「な、ならシュウ先輩は、他の方々は!?」

「残念だけど、規定時間内に魂が回収できなかったから手遅れだ。お前らだって、俺が虚無界ヌルポに落ちた瞬間に魂を回収しなかったらヤバかったんだぜ?」

「で、ですがほらぁ、使になってますよぉ!?」

「そりゃ回収したのは二個だし……は?」


 エイルが目を丸くする。

 確かにレネ、カルタが出てきた人体レンジの隣が『使用中』となっているではないか。


「ちょっと待て、いま使ってんのは誰だ!?」

「シュウ先輩じゃないんですかぁ!?」

「武器を用意して! ベルの襲撃かもしれない!!」


『チーン』


 そして、ブシュゥーと噴き出した白煙と共に出てきたのは。


「みんな大丈夫!?」


 悪夢から醒めたばかりの少女、サキ・ヴァルプルギス。


「え、何処ここ……っんぇ!?」


 しかも生まれたままの姿。


「へ、変質者ぁぁ!?」

「なんで裸なのあたし!?」

「とにかく何か着て、目のやり場に困る!」

「おーおー、カルタがそんな反応するなんてな」


 青少年には刺激が強すぎるイベントこそあったが、人体錬成室の備品に制服があったため、ひとまず収拾した……と思われたが。


「凄い似合ってる!」

「アイドルゲーマーとしても食ってけるぞ、こりゃ」

「ブレザーも似合うんですねぇ」

「ふふー、もっと褒めなさいな」


 ワインレッドのブレザーとズボン、そして深緑のネクタイは全員同じ。

 だがサキは、人気者のエイルとタイマンを張れるレベルで着こなしていたのだ。


「いや本当に凄いよ。何が凄いかって、ネオグンマやサンサリア以外の服でも凄い着こなしそうで、マジで凄い!」

「ほんと凄いよぉ、憧れちゃう! 肌キレイだしスタイル凄いし筋肉も胸も凄いってぇ!」

「凄い凄い言い過ぎじゃない!?」


 誉め殺してやると言わんばかりの圧。

 それはまるで、一目惚れのような情熱で。


「……あたしたち、ぬるぽいんと? に落ちたんだよね」

「それでベルの物になる前に、エイルが魂を回収した……はずなんだけど」

「あたしもこっちに来ちゃった、と。でも身体もちゃんとサンサリアと同じだし、凄いなぁ」


 そう無邪気に回っていたが、回収人のほうはお通夜のような空気を漂わせはじめる。


「……元の身体、ピッタリなんだよな」

「え、うん。なぜか魅了術は使えないけど」

「顔面も、身体も、同じなんだな?」

「それがどしたの?」


 エイルが無言でホログラムモニタを起動する。

 そこに映し出されていたのは、陳列されたゲーミングデバイス。

 そして、血も流さず机に伏している、司令官の先生だった。


「っ!?」

「これは……」

「なにこれ。棺桶?」

「カルタ達の居た特別任務室B。ここからサンサリアに転生し……そして、身体は全滅した」

「えっ、でもカルタたち生きてるじゃん」

「あの身体は死んでいる」


 ナノドローンのカメラが棺へと向き、顔のあたりが拡大される。

 片方には、もう二度と目を覚さないカルタ。

 そして、息を引き取っているレネが映っていた。


「……」

「これ、ワタシたちの」

「ああ。使用されている全てのゲーミングデバイスは棺桶として、そのまま火葬場を経由して共同墓地に廃棄される」


 告げ終わる前に、特別任務室の床が動き出す。

 そのままゴミを掃き捨てるように、全てのデバイスが脇のダクトへと運ばれていった。

 先に待つのは数万度の炉だろう。魂なき抜殻は、灰すら残らず、人知れず廃棄されるのだ。


「ゔぅっ、えぇぇぇ……」

「出来立てホヤホヤの胃にゃ何も入ってないだろ。プランナー科の超新星サン」

「エイル、仕方ないよ」


 親友の厳しい指導を嗜める。

 その一方で、侵略者の世界を見せつけられたサキも、絶望的なまでなショックを受けていた。


「倫理観って無いの?」

「倫理の教習プログラムならあるね」

「いちおう同盟世界間の規格に則ってるらしいぜ、この処分」


 そして理解した。この二人はイカれているし、吐きそうになっている新人もマトモじゃない。

 この現実から目を背けようとしたせいで、偶然視界に入ってしまう。


「リフェイト、ブレイバー」

「やっぱ読めるんだね」

「えっ」


 ハッとした。映っていたのはゲームのロゴだが、その文字がサンサリアで使われていた物と同じだから読めたのだと。


「ねえ、これは何。カルタもサンサリアに詳しいようだったけど」

「そりゃだってリフェブレのもぶゔ!?」

「長いし早口になるだろ、お前」


 エイルが口止めし、異世界の公女へ提案する。


「これから俺と宇佐美は報告がある。人体錬成機の緊急使用、学園ウチのエースの殉職、未知の異世界の干渉……あと、サンサリアへの再転生も申請しなくちゃならない」


「それワタシもですかぁ!?」

「プランナーの義務だろ。とまあそんなわけで、アンタも暇になると思う。でもこの世界についても知りたいんじゃないか?」

「……それは」


「ま、聞くより見たほうがいいし、体験したほうが早い。やってみるか、リフェブレを」


 サキの居た世界サンサリアの残滓で作られたゲーム。

 これを実際にやらせようという、悪魔より鬼畜な提案だった。

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