罪の名は
新たな八罪魔将の乱入。たった一騎で国や地方を支配できるほどの力を有する彼らが、2 二騎も攻めてきた。
普通なら、国家の存亡に関わる非常事態だろう。
だがここに居るのは、イレギュラーの侵略者。力に驕った無礼者に持ち合わせる礼儀などなく。
「びちゃびちゃロン毛男のほうが『
「あっそ。で、君たちに関わっている暇は無いんだけど」
「……随分と妬ましい態度取ってくれるじゃん……」
「こんのド田舎には、ワタクシ達のこと知らない愚鈍で愚か者しか居ないのですか?」
「あ、先輩コイツ『愚か』って二回言いましたよ。やっぱバカなんですねぇ」
「うん、気品がサキとは大違いだ」
立ち振る舞いも身嗜みも赤点な連中を、カルタ達は心の底から舐め腐っていた。
そして挑発する浮浪者たちに、サキと兵たちは顔を青くしながら小さく首を振っている。
「ならば、この屋敷は『没収』です!」
ガブリールが叫ぶ。
瞬間、サキの豪邸が消滅し、客室にいた全員が外に投げ出され。
「……その心みたいに醜くドロドロ溶けなよ……」
空になった土地を覆う勢いで、ラムイが毒沼を作り出す。
落ちれば当然即死。サキ達は悲鳴を上げて最期を覚悟するが。
「〈浄化の聖水〉」
カルタがスキルひとつで、清らかな泉へと変えてみせた。
「ぷはぁ、助かったぁ!?」
ルドウィーンの人々は全員無事だ。次第に泉も枯れ、屋敷を支えていた黒土が現れてゆく。
「……それ基礎中の基礎魔術じゃん……どうなってるの、妬ましい……」
「しかも、すぐ蒸発するだなんて、いったいどれほどの魔力を……!」
ようやく魔将たちは理解したようだ。
目の前にいる平民モドキが、たった一人で世界を支配し得るほどの力を有していると。
「もう分かったでしょ、さっさと国に帰ったほうがいいよ」
涼しい顔でカルタが告げる。まるで羽虫を相手にするかのように。
ルドウィーンの民も、変質者だったはずの少年に運命を委ねようとしていた。
そして、この空気を支配者層であるはずの魔将たちが受け入れられるはずもない。
「……妬ましい……ああ、嫉ましい……!」
「仕方ありません。アレを使いましょう」
ラムイとガブリールが目配せをし、懐から何かを取り出した。
「っ、なにそれ……!」
「サキ、皆さん、ワタシの後ろに!」
それは、ブニブニな金属製のブローチと、宝石の代わりに羅針盤のような矢尻が嵌められた指輪だった。
だが極めて異質な構造のアイテムを目にした瞬間、全員が本能で身震いし、畏れ、知覚する。
これが、サンサリアの物ではないことを。
「……妬ましいでしょ……これ、ほかの世界から奪ってきたんだ……」
「身体を伸縮できるようになるブローチに、奪った魔力を貯め込める腕輪。これら大秘宝があれば、サンサリアを手中に収めることだって夢ではないでしょう!!」
長髪が奥からニチャアと満面の笑みを浮かべ、高慢な女は勝利を妄信して高笑いを浮かべている。
サンサリアの理から外れた
「それを使ってどうするの!?」
「……それ聞くんだね……
「支配するに決まっているでしょう。愚姉の国も、かの平和ボケした異世界のように」
「……むしろ意味不明なんだけど……サキ姉も異世界遠征しようよ……」
その提案には相手への侮蔑が混ざっている。
秘密の力や大秘宝を手にできるチャンス、この価値に魔族が飛びつかないわけがない。
そして、サキの答えも初めから決まっていた。
「絶対にヤダ」
「だからアナタは愚姉なのです!」
不変の決意を灯した瞳を撃ち抜かんと、ガブリールが人差し指から魔弾を飛ばす。
当然、それをカルタが許すはずもない。間に割って入り、素手で弾き飛ばすと。
「……よくわかった」
目の色が、変わった。
奴らは、ほかの異世界に手を出していた。
それを、我欲に利用しようとしていた。
「カルタ先輩。ルドウィーン国民は
〈
「えっ、聖属性と地属性の融合上位魔術だよね。なんでシレッと使えてるの?」
民を代表して最前線に立つ公女が、もうひとりの規格外に困惑する。
そして後輩の意に頷きを返したカルタが、背中でルドウィーンの主へと語りかけた。
「サキ。これが、僕たちが世界を滅ぼす理由。そして、僕たちの責務だ」
「っ、責務……」
カルタもレネも、異世界を滅ぼすために来ているのだ。
それがどういうことか。言葉ではなく、在り方で示さなければ伝わらないだろう。
サキは息を呑み、その所業を海馬に焼き付けるべく、瞳をジッと彼のほうへと固定した。
「……羨ましいね……コクトー母様を倒すほどの強さ……消えて欲しいね……だから消すね……」
「いいえ、奪いましょう。欲しましょう。全て我が物とすれば、魔女王陛下もお喜びになるでしょう!!」
「なにか勘違いしているようだけどさ」
一コンマの高速詠唱。〈悪滅の紋〉、〈雷霆の輝く刻〉、〈妖精の涼風〉の重ねがけ。
瞬きする暇も無かった。否、そもそも、ひとつの異世界へ侵攻した程度では、無数の異世界を滅ぼしているプロゲーマーの強さを理解できるはずもない。
実際に、カルタが手に握った雷を振るっただけで、魂ごと滅ぼされたことにすら気づいていないのだから。
「君たちに罪の名は重すぎる」
遅れて雷鳴が轟いた。
爆ぜる衝撃波と共に、先ほどまで恐怖の象徴を形作っていたモノが吹き飛んだ。
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