リフェブレガチ勢vsウィキゲーマー

 一瞬の沈黙が特殊任務室に走った。

 ここに居る生徒は、カルタを含めて十名。つまり九名に対して喧嘩を売ったことになる。

 やがてそれは負の方向へと流れてゆき、常識知らずへの当惑に変わってゆく。


「何を言うかと思えば。誰に外れろって?」

「リフェブレをクリアしたらしい、君たちに言っているんだよ」

「ふざけているのか、任務前だろ!!」


 自分より知名度も成績も劣った存在に、シュウが怒号を飛ばす。

 だがカルタは意に介さず、淡々と根拠を述べ始めた。


「リフェブレは、無限の選択肢に、無限のルートがある。辿り着く終点ラスボスは同じでも、それまでの過程は全員違ったはず」

「だからどうした。攻略情報データを使えば楽勝だろう」

「そういうところだよ」


 カルタが続ける。


「そして、発売から十八年経っても発掘されきっていない初見殺しと、複雑で多彩すぎる独特なシステム。これらを一回クリアしただけで分かった気になれるんなら……この任務で全員死ぬよ」


 その言葉は重厚だった。メジャーとは言い難いゲームを、何年経っても極めるべくプレイし続けている猛者の意見だ、無碍にできるはずもない。

 しかし、アドバイスを理解するには、優等生たちのプライドは幼すぎた。


「調子に乗るなよ。ここに集められた全員が、成績も実績もお前より上なんだ」

「調子に乗っているのはそっちだろ、ウィキゲーマー」

「黙れ劣等生。メジャータイトルになれないようなオワコンゲーをプレイし続ける異常者が」

「……」


 カルタは握り拳と喉の奥を必死に力ませていた。もはや言葉を交わすことすら無駄に思えたからだ。

 シュウは言い負かしたと思い込んで愉悦の笑みを浮かべている。周りの生徒も異端を冷笑している。

 最悪の空気だ。責任者の大人も、異常者をを排除して調和を取ろうと企んでいるほどに。


「お前。ここから出てけ」


「あーはいはい! もういいでしょ口論レスバは終わりですよぉ!!」


「あ?」

「え、誰?」


「どうもぉ! プランナー科期待の超新星、レネ・宇佐美うさみでぇす!!」

(自分で超新星って言うんだ)


 陰湿な空気を切り裂いたのは、カラッとした明るい少女だ。

 桜色のボブを纏めているのは、ホワイトのウサ耳付きヘッドホン。

 身長がコンプレックスのカルタよりも一回り小さく、制服は将来を見越してかダボダボだ。

 そんな後輩に調子を崩された腹いせからだろうか。


「ちょうどいい。宇佐美、お前はカルタ・碇谷と組め」

「はいもちろん!」


「どういうこと?」

「今回の任務は、指示役プランナー実行役プロゲーマー一対一ワン・オン・ワンだ。ならばリフェブレもクリアできなかった下手くそを、熟練者にキャリーしてもらったほうが効率的だろう?」

「いやぁ、チュートリアルで詰むRPGとかヤバすぎません?」

(だから巷でクソゲー呼ばわりされることもあるんだよね……)


 初見プレイヤーへの同情と共に、不安も抱いていた。

 プランナー科は偏差値も倍率も非常に高い。プロゲーマーより高い能力が求められる、非常に狭き門のはずだ。


『プランナーは、密偵であり、作戦参謀であり、そして現場指揮官でもある。頭脳、体力、統率力のみならず、何かしらの特殊技能を持っていないとまず受からない』


 親友エイルの言葉を思い出す。プランナーは、学生の時点で三人、多くても五人のプロゲーマーをまとめながら、異世界破壊ルートを構築して、さらに異世界のデータも漏れなく収集する。

 そもそも案件とメンバーに合わせて、任務開始前から綿密すぎるスケジューリングと作戦立案をしなければならない。

 失敗すれば仲間の死、人生の破滅、そして最悪の場合は自分たちの世界の滅亡。


(いや特別任務に参加できている時点で、エリート中のエリートなはず……)


 だがお世辞にも、レネにそんな能力があるとは思えなかった。


「嫌なら作戦から外れてもらうだけだが?」

「はぁ。やればいいんだろ」

「わぁい、こんなデータキャラより楽しそうなんで最高です!!」

「先輩に向かってコイツ……!」

「あ、現場判断はカルタ先輩に一任するんでお願いしまーす」

「ええ……」


 いつの間にか立場が逆転していたが、受け入れなければそもそも任務に入れない。


「分かったよ」

「サボりだぁ、やったぁー!」

「ただし情報収集やナノドローンの配備、あと緊急時以外の状況判断はそっちがしてね」

「サボれないじゃないですかぁ、やだぁー!!」


「随分な余裕だな。ならばひとつ、誰が先にさんサリアを滅ぼせるか勝負でもするか?」

「いや面倒くさい」

「おま、逃げるのか……あれだけの大口を叩いておいて!!」

「全員無事ならそっちの勝ちでいいよ。あと、宇佐美さん」

「レネで良いですよ〜」


「じゃあレネ。僕に判断を一任するなら、コレだけは必ず守ってほしい」

「おっ、直接脳内にDMダイレクトメッセージですかぁ?」

「出来るわけないでしょ。ほら、指示出しとくからこれ通りやってね」

「脳からメッセージを出力してるから同じで……え、これマジすか?」


 指示に驚愕している後輩を尻目に、送られた作戦内容を脳へと流し込む。

 そして準備が完了すると同時に、各々がゲーミングカプセルへと入り込み。


「それでは、現時刻を以て『サンサリア破壊作戦』を開始する」


「「転生開始リンカーネイト!!」」

転生開始リンカーネイト


 形骸化した総司令の音頭と共に、現世界ネオグンマから異世界サンサリアへと破壊者たちの魂が渡っていった。


〜〜〜〜〜〜


 そしてサンサリアに到着して早々、

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