第1章 リフェイトブレイバー2

第二次サンサリア破壊作戦

異世界を滅ぼす高校生

【これにて識別名【ムーンドラ】殲滅作戦は終了です。お疲れ様でした】


 アナウンスが聴覚を揺らした。

 世界滅亡の任務を終えたカルタが、頭に装着されたゲームデバイスを外す。


「……ふー」


 無意識にホログラムへ目をやる。2125/07/06、13:31。

 次にやるのはバイタルチェックだ。コレをしないと、VRに特化したゲーミングカプセルからは出られない。


(正直、この作業のが時間かかるんだよな)


 スキャニングされた身体がホログラムに映る。

 カルタは咄嗟に目を逸らしていた。高校生男子では標準的な短さの金髪に、平均より短めの身長、そして少女に間違われることもある顔立ちはコンプレックスだったからだ。

 かといって仕事先の異世界でイケメン高身長になれるかといったら、そうでもない。元の姿に限りなく近い身体のほうがパフォーマンスが上がる、という世知辛いデータがあるためだ。

 結局、嫌な顔こそしたが『異常なし』と診断された。すぐに外の空気が入ってくる。


「一分でクリアかぁ。お疲れちゃん」

「エイル」


 すぐ側に座っていたカルタの友人が、チョコバーの差し入れを投げ渡してきた。

 銀の髪に甘いマスク、それに人当たりもいい人気者だ。商談や交渉事も強いため、他人に舐められがちなカルタは彼をよく頼っている。


足らずで解決か。やっぱRPG系は凄えなぁ!」

「あっちの時間で、な。こっちじゃ一分しか経ってないんだし」

「おお、そうだったそうだった〜」


 朗らかにとぼける親友に冷ややかな目でツッコミを入れる。


「で、ムーンドラのデータは?」

「パーフェクト!」


 その確認をした瞬間、エイルがパンと手を叩いた。


「奴さんの異世界召喚システムも、文化も、人も魔物も。エクサバイト分のメモリにバッチリだ!」

「それ本当にチェックしてる?」

「もっちろん。時間圧縮プロトコル様々だねぇ」

「本当かよ。てか随分とご機嫌なようだけど」

「そりゃあ、もう取引も済ませたわけだし。カルタが良い仕事してくれたおかげで、報酬にイロ付けてもらえたしな!」


「あの上海シャンハイが珍しいね。広告費以外はガメツイ印象あったけど」

「そこはエイル・安司アンジサマの腕が良いからだよ」

「はいはい」


「主人公っぽい男のデータが破損していた、以外は完璧だったからな」


 皮肉げに呟いてから、改めてエイルが破壊者に向き直る。


「言ったろ?」

「言っちゃった」

「まあそうだよなぁ……」


 そして、滅ぼす世界の人にも同情するようなお人好しに、ため息と共に頭を抱えた。


「わからんでもないよ? 冥土の土産に『今から君たちの世界はクソ広告ゲーの舞台になります!』って教える気持ちは」

「……ソレやられたら死にたくなるね」

「だろ。それに俺たちの使命、忘れたわけじゃないだろ」


「異世界の脅威になりうる異世界を滅ぼす」


「そして滅ぼした異世界が忘れ去られないよう、ゲームに加工して保全する。そのゲーム制作のために必要なデータが壊れたり不足してたら、数億兆単位の命が紡いだ歴史がワゴンセール行きするかもなんだぞ」

「……」


 カルタは黙り込み、目を伏せる。授業では、異世界の存在は無駄に傷めつけず殺すよう教えられているのだ。


「ただなぁ。その人情味がカルタの強みでもあるからなぁ」

「誰だってこんなことしたくないでしょ。今回も単位のために受けただけだし」


 カルタは諦念混じりに続ける。


圏立けんりつゲームメディア総合学園。倍率百倍以上、ネオグンマ有数の超名門に入ってプロゲーマーになる……そう夢見て入ってみたら地球軍養成学校でした、だなんて詐欺もいいとこだろ」

「おかげで五百人いた同級生も、いまや二百人ほどだもんな。辞めたり、殉職したり」


 未来の希望ある学生たちが、異世界を跡形もなく滅ぼしている。

 ドロップアウトしたら記憶を消され、また別次元に魂ごと放逐されることも珍しくない。

 こんな事実を表沙汰にしたら、大炎上の末にネオグンマ各地が混沌を極めるだろう。


「それでも辞めないカルタが好きだぜ、俺は」

「夢から覚めないだけだよ」


 そう実習室に並べられた数十ものゲーミングカプセル群を遠目に、ゲーム好きだった少年が呟いた。


【緊急のメッセージを受け取りました】


 直後、マナーモードにしているはずの端末から音が鳴る。


「なんか来てんぞ」


「知ってる。特別任務だって」

「バイト代めっちゃ美味いやつじゃん!?」


 エイルが驚く。特異な着信音に注目していた生徒たちにも、どよめきが走る。


「いや受けないけど」

「いや内容くらいは見ろよ!!」


 乗り気ではない友人にキレながら、当事者ではないエイルがメッセージを開く。

 題名は事務的な依頼文だった。しかし本文欄に書かれた一文。


『リフェイトブレイバーの新作に興味はあるか』


「行ってくる」

「え、マジで!?」


 カルタのゲーマー魂が再び蘇る。

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