第40話 実践(1)

 師匠は手をひょいひょいと手招きして、竜の少女にベッドの上の自分が座っているすぐ隣に座るように促す。


「さぁ、これから楽しい楽しい実践の始まりだ。」


竜の少女はいつもより、微妙に師匠のテンションが高いように感じたが、やはり限界に近いようで、首がこくっり、こっくりと上下に上がっては下がり、上がっては下がりを繰り返していた。




「じゃあ、まずは君のゲートを広げて魔力量を増やそうか。」


師匠はそう言って、竜の少女の手をとり、自分の手のひらに添えさせる。


その瞬間、竜の少女の目がくわっと見開かれる。


自分の手と師匠の手が重なり合ったときに強烈な刺激を感じたため、目が覚めたのたのだ。しかし、その刺激を感じたのはその一瞬だけで他のそれ以降には異変はあまり感じなかった。


そして、一瞬で目が覚めた竜の少女はその刺激のおかげで頭が回りだした。


「えっ、でも師匠、私は魔力がもともとありませんよ。」


しかし、師匠は竜の少女の言葉に首を横に振る。


「いや、君にはゲートも魔力もあるよ。まあ、確かに人間の下の中といったところだから、竜や天使からしたら、ないのと同じと思われても仕方がないが…」


当たり前のようにさらっととんでもないことをいって、次に進もうとする師匠の言葉を竜の少女は遮る。


「…っ。

師匠なんで、私が竜と天使のハーフということを知ってるんですか!?」


竜の少女は確かに師匠に自分の過去や素性は全く話していないはずなのだ。


「君の見た目は竜だろう。幻術のようなもので姿を誤魔化しているのかもしれないが、それであれば、わざわざ目立つ竜の姿でなくても普通に過ごしやすい人間に化ければいい。だから君の身体には少なくとも竜の血が流れている。そして、君があの状況で召喚されて、それが僕の意図したものではないということを組み合わせて、予想を立てただけだったが、当たっていたようだね。」


「…なるほど。」





「それで師匠、その評価って何段階中ですか?」


「上中下の中にもう1段階上中下があるから、9段階だな。」


「師匠は、やっぱり、上の上ですか。それとも、上の上のそのまたもっと上ですか?」


竜の少女はそう予想したが、返ってきたのはそのどちらでもなかった。


「いや、僕のゲートの大きさは上の中くらいだよ。」


「えっ。その人間の上の上って、まさか1人しかいないとか、いるかどうかすらも怪しい伝説とか神話の人間しか当てはまらないとかではないですよね。」


竜の少女は後者は師匠ならやらないと思っているが、前者であれば、師匠ならやりそうだと思い、ひとりでにそう納得しかける。


しかし、どちらの予想も外れたようだ。


「確かに伝説とも言えるし、その人間の上の上に当たる人は自分が僕が直接会った人物の中では1人しかいないが、周りから聞く話と予想を組み合わせるとその他にも12人くらいはいるだろう。」


「それって実質的に師匠よりも強い人が13人くらいいるってことですよね。」


「まあ、ゲートの大きさはあくまで強さの目安だから、手段を問わなかったら勝てるだろうが、縛りやルールがある場合は敵わないだろうね。でも、もう13人ではなく、12人だよ。1人死んだからね。」


 竜の少女は今までの師匠との会話から気づいたのだろう。今、竜の少女がここにいることの代償の正体に。


竜の少女は居心地が悪そうな、微妙で暗い表情をした。




脱線した話を師匠は戻す。


「まあ、この話はまた今度だ。」


「ちょうど、今、君のゲートを広げ終えた。もうしばらくしたら、魔力がゲートに貯まって魔力量が増えるだろう。」


「ゲートを広げるのってやっぱり限界がありますよね。どれくらいまで、広げられましたか?」


「そうだな。ゲートの大きさだけだと、今なら下の上くらいにはなってるんじゃないか。君は精神が強かったし、まだ若いから伸びしろもあったからだな。それとゲートの大きさを最大どこまで広げられるのかは正確には分かっていないが、精神や肉体にも負担はかかるから、頻度や1回に広げられるゲートの広さについてはその人にもよるが、制限はあるという意味で限界はあるだろう。精神系魔法で負荷をやわらげられるのにも限界はあるからな。」


「師匠は難しいとされる精神系魔法をいつ習得されたんですか。」


「まさか、だいぶ前とかですか。」


竜の少女はそんなわけないですよねと心の中で思っていたが、師匠ならやりそうなので、笑いながら、興味本位で聞いてみた。


「いや、習得したばかりだ。」


「…はい?」


竜の少女は心の中で連呼する。「そんなわけあるか」と。


「えっと、それは私が寝ている間に習得したとかではないですよね。」


「うん? その通りだけど…。」


「もともと、精神系魔法なんか使わなくても、体内で自分の魔力を高速で回すことで大体の傷は治ったからな。後回しにしてたんだけど、これをとる必要が出て来たからね。」


竜の少女はそんな師匠のとんでも発言を頭の中から切り取って捨てた。


「さて、ゲート拡大も終わったし、これからは実践あるのみだな。」


「このペンダントには僕が君の魔力に似せた僕の魔力を入れてあるから、ゲートがもっと広くなるまではこれを主に使ってもらう。」


そう言って師匠は竜の少女の首にペンダントをかけ、竜の少女の手にペンダントを握らせる。


「ペンダントを握ったら、もう1人の人格をイメージしてそれになりきれ、それと同時に自分が想像しやすい攻撃をイメージしてそれを魔力に変換し、実現させる。それをしっかりと何百回と何千回と繰り返していけば、後はたくさん戦い、経験を踏めばそれなりになる。」


「とりあえず、まずは魔法が現実に出てくるようになるまで練習しろ。この練習にとれる時間は最高でも昼までだ。それができるようになったら、僕の指導をちょくちょく間に入れてその魔法を完成させよう。その頃にはもうすでに君のもう1人の人格もできているだろう。」


「そこまで、行けばいよいよゴールだ。僕は他の作業をしているが、魔法の実験台には僕を的にするように。部屋を壊されたらたまらないからな。」




 そう言って作業に戻る師匠を見るが、すぐに竜の少女はペンダントとの格闘に入るのだった。竜の少女はもう師匠に反論する気力もなく、ただ早く終わらせたいと思うばかりだった。

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