第37話 授業(2)

「うがががががが」となっている竜の少女をよそに師匠の一般常識から逸脱し過ぎた授業が暴走していた。


「魔法はとにかくイメージが大切だ。イメージが正確でないと、魔法が発動しなかったり、場合によっては暴走してしまう。詠唱や杖は魔法のイメージを補うためだけにあるということを覚えておくように。」


「であればだ。イメージを詠唱や杖無しで正確にできるれば詠唱や杖を使う必要はないということだ。そうだろう?」


竜の少女はそこで急いで質問をぶつける。


「しかし、それでは毎回変わる魔法の発動条件に対応しきれないのでないですか。

魔法を発動させるために必要な決めることや計算すべき条件は多すぎます。魔法に必要な魔力量、魔法を発動させる位置、魔法の継続時間、魔法を変化させるのであれば、そのタイミングがありますよね。他にも、いろいろあると思うんですけど…。」


しかし、師匠は慌てる様子もなく、落ち着いて淡々と答える。


「逆に聞くが、それらは本当に時間をかける必要があるのか?

何百回も練習することで、魔法自体のイメージは大体安定するだろう。そして、魔法に必要な魔力量、魔法を発動させる位置、魔法の継続時間などは場数を踏めば大体は感覚を身につけれられる。それでも足りない部分は思考の速度を上げたり、思考を分けて同時進行で考えたりすることで補う。」


少年は何も言わない竜の少女を見て、やはりこれは飲み込みも早く、使えると思っていた。


「これで、長すぎる詠唱や融通の利かない杖を使う必要もなく、戦闘力も飛躍的に上がる。」


 竜の少女は黙ってしまっていた。ある意味納得してしまっている自分に何を納得しかけているんだと思っている自分と当然のように意味不明すぎることを言っている師匠の2つに驚きを禁じられずにはいられなかったのだ。


しかし、だんだんと耐性がついてきたのか師匠に反論する余裕が出て来た。いや、そんな耐性つけたくないけれど、と竜の少女は思いながらも、反論する。


「いや、師匠、何回も練習することで魔法自体のイメージを安定させるというのはまあ分かりますよ。しかし、何百回って明日までにできるものではないと思います!」


だが、師匠は即答した。


「いや、できるよ。いや、何がなんでもやらせると言ったほうがいいのかな。」


そんなヤバい師匠の発言をほぼ無視して、竜の少女は反論を続ける。


「しかも、場数を踏めば、ってそれ絶対死地みたいなところですよね。そんなところに何回も行ってたら、そんな感覚を得る前に死んじゃいますよ。第一、言ってるような感じのことがそんな簡単にできたら、魔法が今頃すごい発展してますよ。」


「それに何より、思考の速度を上げたり、思考を分けて同時進行で考えたりするってどういうことですか。そんなのできるんですか?」


「できるよ。」


師匠は「1人で近くのお店までおつかいいける?」とお母さんに言われたときのように簡単に肯定する。


「まあ、その具体的な訓練はまた今度にするとして…次に行くよ。」


竜の少女は混乱する頭を無理やり切り替えて短く返事をする。


「はい。」


「うん。だいぶ、このペースにも慣れてきちゃっただろうし、もう少し、ペースを上げよう。」


「えっ。」


「3つ目のテーマは魔道具や魔方陣についてだ。魔道具とは何?」


竜の少女は速すぎる授業に死に物狂いでついていこうとする。


「…はい、魔法ほどは知らないですが…。

えっと…魔道具はエネルギー源である魔石、よく使われるのはコランダですね。それを核や媒体として魔法を使うことができる便利な道具です。その魔石は他の金属などと同じように採掘するか、魔物と呼ばれるモンスターを狩ることで手に入れられます。」


「採掘して得る魔石ルビアはそれ自体には魔力はないですが、魔力のとおりがいいので、魔法使いの杖や武器などによく使われますね。魔物の中にある魔石サイファのほうにはそれ自体に魔力が含まれています。もちろん、魔力は劣化し、日に日に弱くなっていきますが、元のモンスターの強さによってその魔力量や、魔力の劣化速度は違います。そのため、サイファの方が価値は高く、魔道具の魔石は用途と目的に応じて使い分けられます。…という感じだったと思います…。」


「うん。一般常識では合ってるよ。ただ1つ付け足すのなら、魔石は堅く、頑丈で魔法に対する耐性も強いため、加工するのに結構手間がかかるため、魔道具は必然的に値が張る。」


「しかし、それは一般常識での話だ。だから、安心していい。」


竜の少女は思う。もう、一般常識が意味をなさない時点で安心できないし、何が安心できるのか逆に教えてほしいと…。


「魔力は日に日に劣化していくというのは事実だ。しかし、劣化を防止させることはできる。魔力が劣化する原因は魔力が外的魔力にさらされるからだ。ごく少量だが、この空気自体にも魔力が含まれている。だから、その空気に含まれる魔力、魔素と正反対の性質の魔力で表面を覆うことでその問題は解消される。」


竜の少女はそこで、手を挙げる。


「では、その魔素と正反対の性質の魔力をもつ人物を探している、もしくはもうその人物にその魔道具の製作をお願いしているというところですか。しかし、それであれば、今までより、多少は魔道具は普及し、魔道具も発展しやすくなりますが、やはりないよりはマシ程度で、大量生産までは無理ですね…」


師匠の案で想像するも、現状にもたらす変化の小ささの割には合わない労力に眉を顰める。しかし、思ったよりもまともな発想にホッと胸をなでおろす。それと同時に浮かんできたガッカリ感を慌てて打ち消す。






「いや、まだ今のところ僕だけしか成功していないけれど、魔力の性質変化はしばらく前にとっくにできてるよ。」


そんな中、ぶっこまれた爆弾に竜の少女はひっくり返るのだった。

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