第36話 授業(1)

竜の少女はすかさず、質問をする。


「さっきの1つ目の魔力は増やせるのかについてですが、師匠的にはどうなんですか。」


師匠は相変わらずの高速解説なので、竜の少女は頭がヒートアップしないしない程度に必死に頭をフル回転させる。


「結論から言うと、それはできる。魔力を貯める部分であるゲートの場所は人によって違うし、イメージやトレーニング次第ではそのゲートの場所や仕組みはいろいろと変えることができる。これを生かして、逆に普段のゲートを半分くらいの大きさに分けて、魔力を飽和状態にさせるんだ。そうすることで、ゲートの大きさを魔力で広げ、ゲートの魔力量を増やすことができる。まあ、これくらいなら、いくら魔法が衰退しているとは言え、見つけられた人がいると思うだろう?」



竜の少女はそこで即刻きっぱりと否定する。


「いえ、そんなことないと思います。」


師匠はそんな竜の少女の返答をなかったのように扱い、気にせずに続ける。


「そして、それはおそらく事実だ。」



「では、なぜ、この方法が広まっていないのかというと、それは重大な欠点があるからに他ならない。そして、その欠点はこの方法には優秀な師匠となる人材が必要なことだ。」


「なぜ、優秀な師匠となる人材が必要だと思う?」


「…それは、安全に魔力を限界ギリギリの飽和状態にさせるためには他の人に協力してもらい、制御してもらったり、抑止してもらったりするためですか?」


「そうだ。魔法が衰退している今、これほど優秀な師匠に教えてもらうとなるとなかなか難しいだろう。その答えも正解だが、他にもある。むしろ、他の理由の方がメインだろうな。」


「…えっと、すみません。わかりません。」


竜の少女はしばらく考えるが、分からず、降参ですと両手を上げる。


「2つ目の理由はその師匠が高度な回復系の魔法と精神系の魔法を使える必要があるからだ。多くの人はおそらく、ゲートを拡大するときには体や精神に過大な負荷をかける。そのため、そのダメージを緩和するために習得が難しいと言われるそれらの魔法が使える必要がある。」


「なるほど。」




竜の少女は一生懸命、師匠の超高速の説明に頑張ってついていく。


そんな竜の少女を見て、やはり固定観念に縛られにくい子どもの方が教えやすいし、特にこれは好奇心旺盛で頭も柔らかく、どんどん知識を吸収していくから、は安くなかったが、それによって受けた恩賞としてならば、結構いい感じのものを得たなと少年は思っていた。


竜の少女はそんな師匠の思考を感じ取ったのか、身体をブルりと震わす。


「あの、師匠、今何かとんでもないことを考えていたんじゃないですか。

寒気がしますよ。」


「気にするな。」


なぜかちょっとだけ上機嫌そうな師匠に不吉なものを感じながらも、授業は進む。




「そして、師匠の魔法の腕というよりかはまた違った方向性だが、君が1つ目の理由として答えた魔力の飽和状態を制御してもらったり、抑止してもらったりすることと関係がある。魔力の飽和状態を制御してもらったり、抑止してもらったりするということはそれは他の人の魔力に触れることになる。…と言ったらもうわかるな。」


「あっ、なるほど!他の人の魔力に触れると、人それぞれで性質の違う魔力どうしが拒絶反応を起こし、危険性があるからその拒絶反応を中和する魔道具が必要になることですね。そして、魔道具は高いことが3つ目の理由になるのですね。」


「そうだ。」





「では、次の2つ目のテーマだが…」


「えっ、ちょっと待ってください。これがあと4つもあってなおかつ、その上、練習もあるんですよね?もしかして、休憩一個もないんですか?」


「えっ、休憩いるのか?」


竜の少女はそんな師匠の発言を聞き、反応を見て、ああ、もうこりゃダメだ、と思った。





流されるまま、さらに授業は進んでいった。


「2つ目のテーマは魔法だ。

魔法の発動に必要な手順は?」


待っていましたと言わんばかりの顔で竜の少女は答える。


「魔法の発動には詠唱と杖のどちらかの方法をとる必要があり、詠唱も杖も魔法を使うためのイメージを補う大切な役割を持っています。詠唱は発動までの時間が杖を使うときに比べ、長い代わりに多少はその場に応じて少しアレンジしたりすることができるという柔軟性において優れていて、杖を使うと詠唱のようにその場に応じてあまり調整できない代わりに詠唱を省略できるため、速攻において優れています。」


魔法についての知識面では結構、自信があった竜の少女は、よし決まったと心の中でガッツポーズをするのだった。


「ああ、一般常識としての魔法の知識面については大丈夫そうだな。これで説明が省けたよ。」


竜の少女はとても厳しい師匠から大丈夫の一言をもらい、上機嫌だった。






しかし、次の一言でその気分はぶち壊されることになる。


「でも、その一般常識は今のこの授業では1㎎も必要ない。

ただただ、邪魔になるだけだ。最初に言っただろう。その一般常識は脳から捨てる勢いでやれ。」


竜の少女は「うがががががが」となるが、やはり授業はそのまま進んでいくのだった。

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