第33話 ブラックアウト
竜の少女は
「あの、これからはあなたのことは師匠とお呼びしますが、それでよろしいでしょうか。」
「ああ、それで構わない。」
少年は山のように積み上げられた臓器や皮膚やらを分けて、埋葬していた。
少年はこちらを振り返らず、作業を続ける。
竜の少女の頭には一瞬、このまま話続けていいのかという思いもよぎったが、そのまま話を続けることにした。
「師匠、私の存在はその…周りの方々にはどうご説明なさるのですか。」
竜の少女は言葉を慎重に選びながら、言葉をつなげる。
「周りにはアザフェル、君のことは説明しない。しばらくは君の存在は秘匿にする。
僕が君の存在を周りに説明してもあてにされないのは目に見えているし、長々と説明するには時間がかかりすぎる。そんなことをしている暇はない。」
「お言葉ですが、私は身体が大きいですがどうするおつもりですか。」
「ああ、そんなことか。依り代を用意するのと、もとの肉体の処理には手間がかかるが、それは僕が何とかする。」
そう言って、少年は竜の少女の言葉を一蹴した。
思えばこれは試練だったのだ。
これから始まる地獄の扉のまだ、入り口にも到着していない最初のステージでの。
そして、これが1つ目の試練だった。
そして、少年は遺体の埋葬が終わったのか、話を進める。
「では、君には…」
「死んでもらう」
‥‥‥‥。
「…はい?」
竜の少女は少年の言葉を、自分の耳を疑う。
しかし、そんな暇もなかった。
気が付いたら、自分の胴と首がおさらばしていたのだ。
ゴトッ。
自分の首が落ちる音だろうか。
竜の少女は自分の慌てる気持ちの中にあるひどく冷静な気持ちに気づいた。
そして、他にも、これから起こることへのワクワク感にも気づいた。
こんな大変な状況の中で、自分は何を考えているのだろうかと思いながらもそれらの感情を抑えきれない自分がいた。はっきりとそう認識できた。
それは、竜の少女が生まれて初めて出会った面白いという感情だった。竜の少女は少年の行動を見逃すまいと必死に食らいつく。自分が強くなるために。
しかし、竜の少女の精神はもう限界だった。竜の少女は崩れ落ちた。
ただでさえ、竜の少女の精神はとんでもなく混乱した状況の中で体験するたくさんの初めての経験によってとても疲れていたのだ。そこに、好奇心があったとしても、自分の死というものは疲れていた竜の少女の精神には間違いなく、これ以上ないほど堪えるものだったのだろう。
竜の少女の目の前はブラックアウトした。
誰かの声がする。
聞こえる誰かの声と眩しすぎる光に顔をしかめながらも、うっすらと目を開ける。
すると、目の前にはなぜか扇子が落ちて来ていた。否、それはもはや落ちてくるというようなスピードではなく、飛んできたと言った方が正確だったのかもしれない。
竜の少女はスローモーションに見える扇子を見ながら、ヤバいと警告音を流す頭を放って、とっさにその扇子に手を伸ばしていた。
扇子は不思議と竜の少女の手に吸い寄せられるようにして、こちらに来たかと思ったが、急にまたさっきと同じようにすごいスピードで飛んできた。
当然、竜の少女の中に眠る不思議な力が覚醒してさっと避ける、などということができるようになるわけもなく、そのまま、竜の少女に当たった。
竜の少女は声をあげる。
「いっったああー」
「…っくない?」
扇子は竜の少女の身体に当たって、ぽとっと落ちた。
竜の少女は固まる。その姿はまるで、どこかの石像のようだった。まあ、そんな間抜けな姿をした石像があるわけがないが。
それから、石化の呪いが解けたかのように竜の少女は身体を確かめ始める。確かにさっき慌てていたから気にとめなかったが、自分の手がすごく小さかったような気がしていたのだ。
そのとき、少年の声が後ろから聞こえた。
「目は覚めたか?」
竜の少女はばっと振り返って後ろを見る。
「…師匠」
竜の少女は推測する。おそらく、この扇子を投げてきたのも、自分を起こすために声を掛けたのも、自分をこの身体にしたのも、と。
そして、竜の少女は聞いた。
「師匠、この扇子を投げてきたのも、私を起こすために声を掛けたのも、私をこの身体にしたのも師匠ですよね。」
「うん。そうだよ。」
師匠は、それをあっさり認めた。
「では、師匠、私のもとの肉体と私の今の状態について説明してください。」
そうして私の2つ目の試練が今始まろうとしていた。
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