第32話 師弟関係
竜の少女は、ほとんど諦めの境地にいた。初めて会うこれほどの話の通じない相手に竜の少女は苦戦していた。もう、どうでもいいかと思いながら、意味不明な少年の言葉を頑張って聞き続ける。
しかし、竜の少女には1つだけどうしても譲れないものがあった。
竜の少女は、物心がついたころから必要最低限のものは与えられた。ずっと、与えられたものだけで生活してきた。捨てられてからの生活では、自分で必要最低限のものは自分で得たものだと言えなくもないが、それでも、捨てられた森からほとんど出たことも何かをしようという気もなかった。
その日を切り抜けるのに精一杯だった。必要最低限のものしか与えられていなかった。自分は最低で、最悪だ。そう切り捨てるのは簡単だ。
私はどう思われようといいと言ったら、嘘になる。こんな最低で、最悪な私でも、必要としてほしい。一言でいい。だから「助けて」って自分にそう言ってほしい。都合よくこき使われてもいい。だから…どうか…
そういうわがまますぎる自分がいる。それは、本当にその通りで、どうしようもない事実だ。
それでも、優しいいい人には幸せになってほしい。自分の好きで、大切な人には笑っていてほしい。そんな当たり前でありきたりだけど、この世で願うには綺麗事すぎることを思うのは、偽善が過ぎるだろうか。
だからこそ、その都合が良すぎる理想に近づくための力が欲しい。
もう、与えられたものだけで、流されるつもりはない。
竜の少女は固く口を閉じたかと思ったら、少年に真剣な眼差しを向ける。
「理解しました。分かりませんが、理解はしました。
私は、あなたの交渉に応じます。しかし、1つだけ条件があります。」
少年はその真剣な眼差しをまっすぐ見つめる。
「聞こうか。」
竜の少女は言葉を続ける。
「私とあなたとの関係については私が決めさせてください。
私は最低で、最悪で、偽善者です。大した力もない癖に、私は私の大切な人たちや、この世の優しい人には幸せにしたいと思っているろくでもない奴です。
ですが、この気持ちは本当です。だから、どうかこの気持ちが理想だけにならないようにするために、私にあなたの力を教えてください。」
少年は目を細める。
「もともと、君を強くする予定ではあった。けれど確かに、それもありだね。」
その少年の笑みにはなぜかゾッとっさせられるようなものを感じた。
竜の少女はごくりと唾を飲む。
しかし、竜の少女にはここで引くという選択肢はなかった。
竜の少女は少年と「
その内容は5つある。
1つ目は、この
2つ目は、スルトはアザフェルの安全と最低限の衣食住を保障しなければならない。
3つ目は、スルトはアザフェルに己の技術や知識を教えなければいけない。
4つ目は、アザフェルはスルトの命令は全て守らなければいけない。
‥‥‥‥という感じだ。
契約は絶対で守らなければならないもので、この世の理に反したとして罰せられる。そして、その罰については抽象的にだが古より伝えられていて、例外なく悲惨な運命を迎えるとされている。
こうして、めでたく、でこぼこすぎる師弟関係が成立したのだった。
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